第五章 戦場へ
第46話
キュキュキュキュという鳴き声が聞こえてきて、
青空の下、左右に長く展開した兵たちは、今は休息をとっている。
文皇太后に任命された初の遠征に、旗持ちたちは疲れ果てている様子だ。漣芙から、この楽芙までは予想以上に道のりが険しかったのが災いした。
(はじめは損な役と思ったが、そうでもないな)
普段、亜吾は皇太后の私兵たちをまとめている将軍だ。
兵とは名ばかりで、実際には見栄えの良い者たちだけで集めた張りぼてに近い。皇太后が自分の権威を見せびらかすために雇ったものたちだからだ。
内訳は旗持ちと太鼓持ちと楽器隊というところだ。檄や槍を持たせているが、飾りに近い。つまりは、実践向きではない。
しかし人は、太鼓を打ち鳴らされ、たくさんの旗を見るとその数が多く見えるという。さらに飾りに近くとも、武器を持たせた人間が前面に出てくると、恐怖心から強く大きく見える。
その戦法によって、楽芙の手前の城郭、
二万の兵たちで城の前面に並び太鼓を最大音量打ち鳴らしたら、ものの見事に白い旗が振られたのだから楽だった。
ここ楽芙はそうはいかないだろうとも思っていた。だが、皇太后は先回りして北の地に鄧将軍を行かせた。
現在、彼の留守を預かっているのはぼんくらと噂の能無し息子だ。漣芙と同じ戦法で兵たちを展開させれば、一刻も経たずに白旗が降られるに違いない。
将軍の息子とはいえ養子とのこと。城内に潜り込ませた間諜によればいつもふらふら出歩き、気ままに狩りや馬を走らせて遊んでいるだけだという。街に下りれば食事を楽しみ、道端の囲碁に参加して金を巻き上げられる愚鈍さ。
(楽勝だな)
ここを攻め落とすことができれば、皇太后は莫大な報酬を約束してくれている。普段は飾り物の兵隊たちのため、歩かせるのにも苦労したし長旅だったが、勝てる戦ともなれば気分も上がってくるものだ。
「
「いまは将軍だ。なんだ、そんなに急いで」
空に向けていた視線を声のしたほうに落とすと、兵たちがけが人を引き連れてやってきたのが見えた。彼らの顔には、見覚えがある。
「間者たちが戻ってきました」
顔は手ひどく引っぱたかれ、腕の骨を折られていたようだが、命にはまったく別条がないようだ。むしろ、丁寧に添え木を当てられている。余裕綽々だとでも言いたいのか。亜吾はぎりっと奥歯を噛んだ。
「皇太后様の顔に泥を塗るとはいい度胸だ。
どこかに転がしておくように言い終えたあと、彼らの腕に文が結ばれているのが見えた。すぐさまむしり取ると、中には「
「ぼんくらめ、見栄を張るのか」
びりびりに紙を破き、その場に散らした。相手が強がっているだけにすぎないと亜吾は踏んでいた。
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