第24話 天下五剣

「……その衣装やっぱり露出がすごいな」


 部屋に戻った最初の感想はそれだった。オタメガはあらかじめ用意していた服に着替えたのだが、それはもう凄い。

 同人アニメのキャラだし仕方ないにしても幼女がしていい格好ではない。


「似合っているでござるか?」


「おう、似合ってるとは思うけど……外に行く時は別着を用意したほうがいいかもな」


 似合う似合わないと言う話なら似合ってはいる。雪風の服を雪風そっくりのオタメガが着れば似合うのは当たり前だけど……他の意味でアウトだ。


「そ、そうでござるか……」


 あ? なんで照れてんだよ。ここは素直に喜ぶ所だろ。


「……色々聞きたい事はあるけど、これから小田くんのことをなんて言えばいいのかな?」


 確かにあいなの言うとおりだ。もう眼鏡かけてないしな。オタメガじゃなくなるのか?


「これまで通りで大丈夫でござる。拙者体は違えど小田若葉ですので」


「そ、そう? これからもよろしくね。小田くん……」


「フィオナ殿、ありがとうございました。薬の件なのですが、夢が叶ったと言えどフィオナ殿には借りができたので、これからも作っていくでござる」


「いいのか? 貴様は夢を叶えたのだ。これ以上薬を作る必要はないんじゃないか?」


「そうなのですが……薬を作れば太郎殿も助かるのですよね?」


 チラッとこちらをみてそんな事を言い始めた。


「俺は助かるけどいいのか?」


「も、勿論でござるよ! 拙者にお任せくだされ!」


「って、なんでこっちをみないんだよ」


 返事はいいのにこっちを見てくれない。何故かキマイラの牙へ向けて話しかけている。


「そ、それは………ですから」


「え? なんだって?」


 声が小さすぎて聞こえない。


「それは! 太郎殿を見ていると心臓の鼓動が速くなってまともに見られないのです!」


「……はぁ!? 何恋した乙女みたいなこと言ってんだよ!」


 俺はオタメガの肩を掴んで無理矢理こっちを向かせる。


「はわわわ……きゅう」


 熱でもあるんじゃないかと思っておでこに手を当てると何故かオタメガがぶっ倒れた。


「オタメガー!?」


 顔が真っ赤になったオタメガを抱き抱えるが返事がない。屍の様だ。


「……どういうこと? さっきの小田くんの顔……」


 あいなは心当たりがあるのか顎に手を当てて考えている。


「何か知ってるのか!? なんでもいいから教えてくれ!」


「いや、私が言うことじゃないと言うか……今ので気づかなかったの?」


 少し呆れたような表情をしているが、答えは教えてくれない。


「何をだよ!」


 やばい全く分からない。


「……はっ! 魔王様。もしかしたら彼は魔王様の血の影響で、忠誠心を抱いているのかもしれません!

 そして忠誠を誓う方が我が身を案じてくださるとならば、彼の様な反応になるのも当然かと!」


 フィオナが閃いたのかそんなことを言い始めた。


「こっちもか〜。まあ確かに魔王様の血は関係しているだろうね」


 あいなは頭に手を置いている。頭でも痛いのか?


「な、なるほど……どうしよう!?」


 だが、魔王の血が関係していることが分かっていてもどうすることもできない。

 今更吐き出してもらうのも無理だろうし。


「と、とりあえず本当の事を話してみては如何ですか?」


 巻き込みたくないんだけどなぁ。オタメガの体に異変も起きてるし、本当の事を言うしかないのかな。


「んー……分かった。本当の事を伝えよう」


 悩んだ末に出した結論はこれだった。今の状態だとオタメガも辛いだろうし、せめて理由だけでも教えないと……

 俺達はオタメガが目を覚ますのを待つのだった。


「って訳なんだ。ごめんオタメガ。俺の血を混ぜたばかりにこんなことに……」


 全ての事情を話した。俺が騒がれている魔王だと言うことそしてそのせいでオタメガは忠誠心を抱いているんじゃないかと言うこと。


「そ、そうでござったか。これは我が盟友太郎殿への忠誠心と言うことですな! 拙者! これからは太郎殿の横で力になる事を所望するでござる!」


「オタメガ。気持ちは嬉しいけど、もし一歩間違ったら捕まるかもしれないんだぞ?」


「大丈夫でござるよ! この体になってから力が溢れるのを感じますし、安心くだされ!」


「それにその気持ちは血のせいかもしれないんだ。それなのに、お前を危ない目に遭わせるわけにはいかないよ」


 うん。いくら考えてもオタメガを仲間にする事はできない。仮に血の力でオタメガが強くなったとしてもだ。


「それでも構いません! 拙者は太郎殿が居なければ孤独な学校生活を送っていたでござる。それに雪風たんの様にもなれなかったはずでござる」


「それでもなぁ……」


 俺としてもオタメガは高校できたたった1人の友達な訳で……


「それでは魔王様、私が彼、いや彼女の事を育てましょう。魔王様の血を飲んだと言う事は彼女も魔族に近い存在のはずです」


「でも……」


「太郎くん。このままだと無理矢理にでも着いてきそうだし、それなら最初から仲間にしていたほうがいいんじゃない?」


 その言葉を聞いたオタメガが首をブンブンと縦に振り始めた。


「はぁ、分かった。じゃあこれからよろしくな。オタメガ」


 それを言われたら仲間にするしかない。余計な事になるならまだ目に見える範囲にいてくれたほうがいい。


「よろしくでござる! 拙者、陰から主人をお守りするでござる!」


 それ雪風のセリフじゃん。


「ばーか。俺の方が強いんだから俺が守るよ」


 するとオタメガの顔がまた真っ赤になった。

 あっ、しまった。守るって誓った人間に逆に守るなんて言われたら怒るよな。


「はぁ、男同士で何をやってるんだか。それより太郎くん。ちょうどいいから伝えたい事があるんだ」


「ん? なんだ?」


「天下五剣の内1人が魔王討伐に出るって話だよ。今日の昼話そうとしたんだけど、あの時は確定じゃなかったから」


 あぁ、昼に言おうとしてたのはその事か。


「魔王様を討伐!? なんと生意気な人間なんだ。この私自らその不届者を始末しましょう」


「いや、太郎殿の命を狙うものは拙者が……」


 なんで2人ともいきり立ってるんだよ。


「天下五剣が俺を狙ってるか……ところで天下五剣ってなに?」


 その質問をした瞬間あいながずっこけた。


「知らないのにそんなリアクションしたんだ。……天下五剣って言うのは国が作ったダンジョン対策委員の大物。まあ平たく言えば公務員だね」


「公務員だと!?」


 羨ましい。


「うん。国家直属の冒険者だよ〜。彼らは基本的に普通の冒険者と違いはないんだけど、何か緊急事態があった際に国から指令を受けて動くんだよ。そしてその実力は確かだよ。私よりも断然強いだろうね〜」


 あいなより強いのか。それはまずいな。今のダンジョンじゃ簡単に攻略されてしまうだろう。


「あいなよりか。実物を見たことはあるのか?」


「うーん。一人だけね。その時はまだ天下五剣に入る前だったけど……剣筋を目で追えなかったんだ〜。でもフィオナ様よりかは弱いかも?」


「それは当然だろう! なんたって私は魔王様直属の親衛隊隊長だからな!」


 いや、理由になってないぞ。それ。


「ところでなんで天下五剣なんて呼ばれてるんだ?」


「国が所有する5振りを預けられているからだよ。そのうちの1振り、鬼丸国綱を所有する鬼瓦健太が今回攻めてくる相手だね」


 あっ、それは聞いたことある。鬼丸国綱と童子切安綱…あとなんか三つだよな。

 ゲームとかでもそれを題材にしてるものがあるから何となくは分かるぞ。天下五剣ってそこからとってるのか。


「でもその刀を持ったからって強さが変わるわけでもないだろ?」


「いや、そうでもないよ。その5振りは伝承に基づいた力を持っているらしいんだ」


 って、なると油断できないな。もしかしたらフィオナでも危ないかもしれない。


「分かった。教えてくれてありがとうな。あいな」


「うん。勿論だよ! 太郎くんの為に頑張るって約束したからね!」


 うぅ、笑顔が可愛い。あまり見過ぎると浄化されてしまいそうだ。


「そうだ。俺からも話があるんだけど……場所を移すか」


 ダンジョン拡張の話をしようと思ったけど、ここに結構な時間居たし、ダンジョンの方が心配だ。

 それに話すならあそこの方がいいだろうと思い、全員を転移させるのだった。

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