第8話 帰還
「………」
「……すみませーん。ボスってもう倒しちゃったんですか?」
冒険者組の紅一点ゆるふわ系女子が少しの沈黙の後、質問してきた。
沈黙はまずいよな。
とりあえず向こうは俺達を冒険者だと思ってくれているみたいだし、話を合わせるか。
「あ」
「発言を控えろ、人間共! 貴様らの前に座るお方をどなたと心得る。このダンジョンの主人、魔王様であるぞ!」
話を合わせようとしたその瞬間フィオナの奴が被せてきやがった。しかも初めて会った時の様におっかないオーラを出しているせいで、冒険者達の顔色は悪くなっている。
この馬鹿! 何やってんだよー!
思わず内心で頭を抱える。
昨日の夜、魔王について調べてみたが、やはりというか当然ネットに出てくるのはゲームやアニメのボスばかりだった。
多分、というかほぼ100%この世界で魔王の力は俺しか持っていないのだろう。
もしそんなことが世間に出れば、俺がどうなるかなんて想像すらできない。
もしかしたらダンジョンを作ったのも俺のせいにされて死刑、いやそれ以上の事を……
「ま、魔王? は、ハハッ、頭おかしいんじゃねぇのか? なぁ……」
茶髪のチャラそうな冒険者がそんな事を言った。その言葉はまずっ!?
突然風が吹いた。屋内なのに何故? そんな疑問は湧かなかった。
「殺すな!」
考えるより先に口が動いた。
瞬間、チャラ男が壁に激突した。
「……ぅぅ」
壁際で呻き声を上げるチャラ男を見て安堵した。
それと同時にフィオナに改めて恐怖心を抱いた。
俺に対してはちょっと抜けている美女という感じだったが、普通の人に対して容赦がないのだ。もし俺が殺すなと言っていなければ、あの冒険者も生きていたかどうか……
「ひっ」
「………」
恐怖で腰が抜けたのだろう。2人はその場で尻餅をついてフィオナを見ながら震えている。
そしてフィオナはそれをゴミの様な目で見下している。
「もういい。下がれ」
俺は椅子に座った状態で出来るだけ低い声を出す。
「はっ」
フィオナは俺の一言を聞くと一瞬で俺の後ろに戻ってきた。
「……今日は特別な日でな。邪魔されたくないんだ」
演じろ。今まで見た悪役を、ラスボスを演じるんだ。
「へ?」
冒険者の1人が間抜けな声を出した。
「分からなかいのか? 見逃すって言ってるんだ……何故まだそこにいる?」
椅子に立て掛けていたレーヴァテインを取り、立ち上がる。
そしてレーヴァテインの目がまるで俺の声に合わせてくれているかの様に不気味にギョロギョロと動いている。
「……あ、ありがとうございます」
何を感謝されているのかは分からないが、男と女は怪我をしている男を担いで部屋から出ていった。
マップを見ると階段を降りている。とりあえず素直に帰ってくれているみたいだ。
「ふぅ」
膝から力が抜けてその場に座り込んでしまった。
あの3人はカメラの様な物は持っていなかったし、俺の顔が広まる事はないだろう。
あの3人が配信者とかじゃなくて本当に良かった。噂にはなってしまうだろうが、顔がバレてないなら変装すれば俺と分かる事はないだろう。
「魔王様、奴らを逃しても良かったのですか?」
「顔を見られたと言っても2度と会うこともないだろうしな……ってフィオナ! 何考えてんだ! 殺すつもりだったろ、アイツらを!」
俺は立ち上がりフィオナに文句を言う。
「はい、何か問題ありましたか?」
悪びれるわけでもなく本当に疑問を抱いている表情を見て、俺とフィオナは違う生物だと言う事を思い知った。
「……殺しはやめてくれ、頼むから。俺はフィオナを」
化け物だと思いたくない、と言いそうになったところで口を閉じる。
それ以上は言いたくなかったからだ。
「……分かりました! それが魔王様のお願いだと言うのならこのフィオナ! 人は殺しません!」
「そっか、ありがとう……じゃあ帰るか」
どうせ今日もフィオナはうちに泊まろうとするだろうし、家に帰ろう。色々あって疲れた。
「はい!」
これからの事はこれから考えよう。色々と大変だとは思うけど、きっとどうにかなるだろう。
俺とフィオナは人目を避けながらダンジョンを後にするのだった。
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