第5話 魔王様と戦闘

「意外と明るいんだな……」


 ダンジョンに入った最初の感想はこれだった。


 ダンジョン配信を数回観たことあるが、その時はもっと薄暗かったはずだ。

 他は配信で見たことある通りで迷路のような道が続いていた。


「明るさはダンジョンによって違いはありますが、特別なエリアでない限りこれくらいですよ。それより魔王様。何か思い出した事などはありますか?」


「いや、特には……」


 周囲を見渡してみても、隠された記憶が!? なんて事はなかった。

 至って普通だ。このダンジョンに入る前と変わりない。


「そうですか……でも大丈夫です! 魔王様が記憶を取り戻せるように私なりに考えてきたので!」


「それは……楽しみです」


 朗らかな笑みを浮かべながら話すフィオナさんに嫌な予感を、感じながらも頷くことしかできない俺であった。



「ん? あれって……」


 しばらく一本道を歩いていると遠くに人影が見えた。

 一瞬、冒険者かと思ったが目を凝らしてみると違う事に気づいた。

 その影の正体は全身に毛が生えていてまるで狼人間のような魔物だった。


「コボルトですね。見た目は凶暴そうですが、実力は雑魚も雑魚。スライムにすら勝てない魔物です」


「そうなんですね……じゃあフィオナさんお願いします」


 一応俺も剣は持っているが、これはあくまでも護身用だ。

 フィオナさんと出会った時、冒険者を意図も容易く吹き飛ばしていたのだ。そんなフィオナさんにかかれば雑魚魔物なんて一瞬だろう。


「はい! 勿論です! 魔王様に牙を向ける輩は私が鏖殺します! と言いたいところですが、今回は魔王様が戦ってください!」


「えっ? なんでですか!?」


「私は昨日の夜考えました。魔王様には魔王様の魔力が確かに流れています。そしてそれは他者との闘争、戦闘を行えば覚醒するのではないかと! つまり、魔王様がコボルトと戦えばきっと記憶を取り戻す事ができるのです!」


「無茶苦茶言わないでください! 俺、戦った事なんてないんですよ!」


「だからこそです! では武運を祈ります!」


 敬礼が終わるとフィオナさんの凄い力で投げ飛ばされてしまった。


「うわぁぁぁ!? てててて………ども」


 体が止まって立ちあがろうと上を向いたらとても怖い顔のコボルトさんがいた。


「ぐるるるる……ぐるぁ!」


 コボルトは唸ったと思うと突然大きな口を開けて噛みつこうとしてきた。


「うわぁぉ!?」

 

 驚きで混乱しつつも無理やり立ち上がり剣を振るう。


 しかしそれをコボルトに見切られてしまい避けられてしまった。


「こうなったらやけだ! うぉぉぉ! はっ! ふっ! てやぁ! ふっ! ほっ! はっ、はぁはぁはぁ」


 ヤケクソ気味に剣を振り回すが、擦りもしない。しかも剣が意外に重いせいですぐにバテてしまった。

 コボルトは俺を小馬鹿にするようにニヤッと笑った。


「ま、魔王様ぁ! お、惜しかったですよー! そ、その頑張ってくださーい!」


 フィオナさんはぎこちない笑顔で気を遣いながら応援してくれていた。


 公開処刑かよ!! しかもアドバイスが頑張ってくださいってなんなんだよ! 雑魚魔物に馬鹿にされるし、フィオナさんは変な気を使ってくるし、こんなところ来るんじゃなかった!


「グルァッ!」


 そんな事を考えていると、コボルトの爪が迫ってきた。


「やべっ!?」


 なんとか防御しようと剣でガードしようとしたその瞬間コボルトの身に異変が起きた。

 急に動きが止まったのだ。


「えっ……はぁ!? なんで石に……」


 そしてコボルトの体は目から石のようになっていきそれが徐々に広がっていって完全に石化してしまった。



「これは、レーヴァテインの能力の1つですね! 敵意を持つものに反応して自動で相手を石化させてしまう防御機能です! そしてこの力を使えると言う事はやはり、魔王様は魔王様ということです!」


 防御でこれって反則だろ。即死技じゃん。


「たまたまじゃないですか? 記憶は戻ってないし」


「それは勿論分かっています! ですが、はっ……」


 フィオナさんは失言だったと言わんばかりに手で口を塞いだ。


「どうせ俺の剣術なんて雑魚魔物も倒せれないくらいのものですよー」


 フィオナさんも気にせず話してくれたらいいのに。わざわざそんなリアクションをして……新手のイジメか?


「そ、そ、そんな事ないですよ。とても素晴らしい剣術でした。はい……」


 フィオナさんは分かりやすいくらいに目を泳がせている。


 おい、こっちを見ろよ。


 そんな事を話していると突然コボルトの体が砂になって崩れ始めた。


「あっ、あー! 魔王様! 素材! 素材が落ちましたよ!」


 そう言ってフィオナさんはわざとらしく話題を変えて、砂の中から、牙のような物を取り出した。

 というかこんな感じで素材って落ちるんだ。ゲームみたいだな。


「態々ありがとうございます。それで、これから先は長いですけど……」


「も、勿論これから私が相手をしますのでご安心ください!」


 わざと嫌味のように言うとフィオナさんは慌てたようにそう言った。

 フィオナさんが前に出て2本の短剣を構えながら「魔物出てこーい!」と叫ぶ姿を見て俺は少し笑ってしまうのだった。



「うげっ!? ぷよぷよのジェル!?」


「スライムです! ヘルフレイム!」


「うわっ!? 緑の小人!?」


「ゴブリンです! ふっ!」


「なんかキモい二足歩行の豚ぁ!?」


「オークなど敵ではありません!」


 と言った感じで道中かなりのモンスターと遭遇することになったが、フィオナさんの圧倒的な強さによって全て瞬殺していた。

 そして現在は階段を上がり4階にまで来ていた。そして目の前には、大きな扉がある部屋がある。


「ここはボス部屋か……」


 ダンジョン配信で聞いた情報によると、でかい扉がある部屋はボス部屋になっているそうなのだ。


「流石、魔王様! 中にいるのは雑魚とはいえ気配で分かりますか」


 いや、ダンジョン配信で見たと言いたいところだが、フィオナさんが俺に向ける尊敬のオーラが強すぎて言い出せなかった。


「……ボスを倒しても俺の記憶を取り戻せなかったらどうするんですか?」


 扉に手を置いて、気になっていた事を聞いた。


「記憶が戻らなくても魔王様は魔王様です。一生従います。それに記憶が戻らなかったとしても、ここのボスを倒した瞬間に魔王様が本当に魔王様なのか分かります」


「それはどういう」


「さぁ、行きましょう! 魔王様!」


 俺が質問をしようとするとフィオナさんが声を被せて扉を開けた。


 部屋は真っ暗だったが、徐々に光で照らさせていった。

 部屋の中心には3メートルくらいの巨大なオオスズメバチに似た蜂がいた。


「は、蜂?」


「クイーンビーですね。性格凶暴な上に残忍、その上自分は高みの見物を決め込む悪趣味な魔物です。ですが、魔王様と私の相手ではありません!」


 高みの見物?


「うっ」


 クイーンビーが突然羽を羽ばたかせ天井ギリギリのところまで飛んでいってしまった。風圧が凄く足に力を入れないと吹き飛ばされてしまいそうだ。

 そしてあの高さまで飛ばれてしまっては剣が届かない。


「…………ギッギッ」


 クイーンビーが何かを言ったと思うとクイーンビーから玉のような物がいくつも降ってきた。

 そしてそれが地面に落ちると中から蜂が出てきた。そしてその蜂はみるみるうちにでかくなっていき、俺達と同じ大きさくらいになってしまった。


「どういう仕組みだよ!」

 

 蜂って幼虫から成虫になるんじゃないのか!? しかも突然巨大化してるし!


「羽虫どもが……魔王様には一歩も触れさせない」


 フィオナさんは前に出ると50匹くらい居る蜂の集団へと飛び込んで行ってしまった。

 そしてスパッ、と音が聞こえたと思うとその内の1匹の体が真っ二つになった。

 グロいななんて思った次の瞬間にはそこにいた蜂が全て真っ二つになっていた。


「……ギギギ」


 その状況を見ていたクイーンビーは子供を殺されて怒ったかのように突っ込んできた。俺に。


「なんで俺なんだよ!?」


 剣を前に突き出して抵抗しようとしたその時、クイーンビーは石になってしまい。そのまま俺の横にあった壁に激突してしまい。粉々に割れてしまった。


「……えぇ」


 ボスにも即死が効くのかよ。


「流石魔王様! 一歩も動かず殺すとはこの私にもできない芸当です!」


 この剣の強さにドン引きしていたらフィオナが眼を輝かせながら近づいてきた。


「あっ、うん。俺がすごいわけじゃないんですけどね……ってなんだこれ?」


 フィオナさんの方を向いて話していると突然、目の前にゲームなんかで出てくるようなポップアップが表示された。


 そこには管理権限を入手しました。と表示されている。


 ……何がどうなっているんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る