第2話 依頼
「……依頼か?」
訝しむ姿に
「そうだ。上層部から直々のご指名だ、ありがたく思え」
「……なぜ俺なんだ。もはやお払い箱だと思っていたんだが」
「お前は莫迦か? 益体もないやつが生きていられるほど牧歌的な組織だとでも思っているのか?」
笑えるジョークだと嫌味を言い、続ける。
「お前が腑抜けになったところで実績が消えるわけじゃあない。百戦錬磨の殺し屋『フラワー』この名が消える事はない。上層部が現場を知らないと言うのは定説だ、今のお前が腑抜けなんて知る由もない」
組織の内部構造なんて、どこも似たり寄ったりだ。現場の人間を個別具体的に把握している者はそうそういやしない。
それは組織一の功績を残した俺とて例外ではない。せいぜい長い休暇を愉しむエリートだとでも思っているのだろう。
もはや、人を殺せない欠陥品だと言うのに。
「……」
「私から言える事は——名を一人歩きさせるのは終わりだ、名実ともに職務を全うしろ」
そう言うと、クリップで止められた紙の束を粗雑に机に放る。
クリップが緩んだのか紙が広がり、そこから一枚の写真を拾い上げる。監視カメラの映像を切り抜いたものだろう、少々画質は粗いが顔貌は、はっきりとわかる。栗色の髪に紫色の瞳、まだ幼さが残るようだが、歳の頃は十八〜二十といったところか——気になるのは瞳の色。
日木にこの先を目で訴える。
「気づいたか、そいつは『魔女』だ。内在的に保有する魔力が瞳に顕著に現れている」
「眉唾じゃないのか? カラーコンタクトの可能性は?」
つまらない質問だと言わんばかりに肩を竦める日木は自身の携帯を取り出し、動画を再生させた。そこには写真の少女が映っている、人の往来の中を道に迷っているのか挙動不審にあたりを見回している。動画は少女にズームアップし、この時、瞳の色はブラウンだ、そこに一人のサラリーマンがぶつかった。驚いた少女は瞠目し——瞳の色は紫……色が変わった。
「熟練の『魔女』ならば瞳の色彩調整も容易だが、こいつはまだ若い感情の起伏や咄嗟の不祥事に対応できなかったのだろう」
『魔女』
現存する魔法使いは数える程しかいない、しかもそれは国の管理下に置かれ世間に露呈することはない。
しかし確認されていない未確認の魔法使いも存在する。そして俺達のような秘密裏に存在する秘密結社めいた組織は魔法という概念が世に確認された時、魔法を保有する事が至上命題のように『魔女』を探し管理下に置こうと躍起になった。なんでも魔法によっては一国を揺るがしかねないものがあるそうだ。
「お前のミッションは潜伏しているこの魔女を保護または抹殺することだ」
抹殺も含まれているという事は……。
「同業も絡んでるのか?」
「そうだ。理解したならば早急に取り掛かる事だ。また女を殺すのは嫌だろう?」
日木は表情こそ落ち着いているが俺にはわかる、内心ではほくそ笑んでいることを。
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