暴利を貪るタヌキ……。
最終回。連打で1点差とされ、同点のランナーが2塁。チームの最も肝心なところを任されているクローザーとはいえ、少々きつい。
月間11本のホームランを打っているバーンズと月間35打点のクリスタンテですから。
バーンズに対しては、やはり引っ張り込まれるのが怖いですかは、どうしてもアウトコースの変化球からの入りになりがち。
真ん中付近には投げられませんから、ボールゾーンに外れていってしまう。
3ー1というカウントになり、最後は真ん中低め。カチ上げたら特大ホームランになりそうなコースだったが、バーンズは若干力んだのか引っ掛け気味のバッティング。
三遊間に打球は転がる。ややライン寄りに構えていたサードは届かない。ショートが深く回り込んで処理するところだが、バーンズの足と打球の深さを考えると、1塁は無理。
だとすれば、ショートに出来るのは1塁に投げるフリをして、飛び出した俺をアウトにしてやろうというところ。
直前に平柳君の勇敢な激走がありましたから、よし俺も!と、勢いよく飛び出しそうな迫力で俺は3塁に向かう。
「ストーップ!!ベストップ、ベストップ!!」
俺の騙し走りに1番引っ掛かったのは3塁ベースコーチのおじさんであった。
ワー!ワー!と1人喚くようにして、俺にエマージェンシーチックな指示を必死に送っている。
調子に乗った俺が、打球がレフトに抜けたと思い込んで3塁をオーバーラン。
ショートからの送球に気付いて慌てて頭から戻るもタッチアウトという未来が見えたのでしょう。
しかし、訪れた未来は3塁ベース上でタッチされながらチンポジを調整している俺の姿である。
ごめんよ~!騙すつもりはなかったんだよ~!と、苦笑いするコーチの肩をスリスリ。
少し前、みのりんに献上しましたそれの位置が、また左寄りですので、それをセンターに戻すというルーティン。
相手はもしやというところから、チンポジ弄るくらいの余裕を見せつけられると、それは防御力も下がるというものでしょう。
続くクリスタンテの打球はファースト正面の痛烈なゴロ。
これをミットに当てながら後ろに打球を逸らした。
俺はもちろん余裕でホームインし、同点。バーンズも3塁へ進み、また1、3塁という形。
5番アンドリュースは、低めの変化球を上手く合わせて、ライト線ギリギリのところに打球を飛ばし勝ち越しのツーベースを放った。
打たれた相手守護神は、平柳君の内野安打からまさかの5連打で逆転を許し、1アウトも取れずに降板。
酷いブーイングに、スタンドの至るところからゴミが投げ込まれる。
よしでマイアミでも来たぞ、この瞬間が!とばかりに。
俺と平柳君はこんなこともどうせあるだろうと、何枚かのビニール袋を持って、グラウンドに出るのであった。
「新井さんはそっちの方を」
「任せろ!!」
俺たち2人が拾っているのは、ゴミではない。
好感度である。
好感度そのものではないが、だいたい好感度と副収入に変換される可能性があるやつだ。
ホットドッグを包んでいた紙くずやクラッシュアイスがまだ入っているドリンクカップ。
お約束であるフライドポテトの箱。
選手のネームが入っているグッズなんかも、いくつか投げ捨てられている。
スタジアムでは、ゴミをグラウンドに投げ込まないで下さいとかアナウンスされたり、グラウンドキーパーの方々やボールボーイ達が慌てて出てくる中……。
俺と平柳君は、慎ましいフジヤマゴライコウ魂で、汚い食べかすなんかもしっかりきれいにしながら地面に手を伸ばす。
その途中……。
ビシャッ!!
地面に屈んだ瞬間、文字通り俺の頭に冷水が浴びせられる。
細かい氷の感触と共に、上半身のユニフォームがびっしょりと濡れる感覚。
頬から滴る雫が少し口の中に入る。
レモネードの味がした。
「大丈夫ですか!?新井さん!!てめえだろっ、コラァッ!そこ動くんじゃねえぞっ!!」
今まで見たことないくらい、平柳君がめちゃくちゃ怖い顔をしていた。
そして、一瞬だけ俺を心配する声を掛けると、スタンドの一部を睨み付けるようにしながら、目の前の防球ネットに飛び付いた。
その時には、横で見ていたチームメイトやスタッフなども次々とグラウンドに飛び出してきて、物々しい雰囲気に。
俺は誰かが差し出したタオルで拭った顔をゆっくりと上げる。
ニコッ、ニコッ。
ハンチョウの新井さん、爆誕。
「まあまあまあ。みんな落ち着いて。わざわざ観客の怒りを買うような真似をしていた俺にも非があるってものさ。……許そうじゃないか。寛容な精神で。ここはベースボールのフィールド。俺達は選手なんだからさ」
とは言っても下を向きながら、調子に乗るなよアジア人という言葉は聞こえてしまいましたのでね。
仲間がそんな言葉を浴びせられて、黙っているようなチームメイトではなかった。
カァンッ!!
代わりバナ。初球。
低い重心から放たれたスイングと豪快なフォロースルー。クラッカーを叩き割ったかのような打球音を響かせて、ブラッドリーのひと振りは、白球をスタンドに届かせるに十分なものだった。
シャーロットは団結した。
アライさん、レモネードぶっかけられ事件はその日のうちに、SNSやスポーツニュース、動画サイトなどで世界中に広がった。
マイアミのスタジアムを運営する部署のお偉いさんが謝罪することになるなど、だいたい俺の思惑通りになっていたのだ。
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