【第12話】人はなぜムラムラするのですか?

「新菜、自分が何をいってるのか、わかってる? 僕たち、まだ中1だよ?」


「だからよ! だからこそ今、私とカイトはエッチすべきなのよ」


「どういうこと?」


「カイトはその……まだ、思春期……つまり、射精……まだなんでしょう?」


「ああ……うん」


「だったらエッチしても、私が妊娠する心配ないじゃない」


「え……そういうこと!? そりゃそうだけど、そういう問題なの!? 三太郎はどう思う?」


「新菜のいう通りだ! 確かに、まだ精通が始まってないカイトなら、女子を妊娠させる可能性なし! リスクゼロのセックス! クーッ! うらやましすぎる!」


「落ちつけ三太郎。リスクはゼロじゃないだろ。ひょっとしたら、エッチしたその日に精通が始まっちゃうかもしれないんだよ?」


「だったら」新菜はほほを赤らめながらいった。「今日、エッチしましょう」


「なんでそうなるの!?」


「先のばしにしたら、いずれカイトの精通が始まっちゃうでしょ。私、今日はいちおう安全日で、エッチできる日だし」


異様なほど積極的な新菜に、僕はあっけにとられてしまった。

だが、三太郎にとっては大好物の話題であった。


「うひょーっ! 生でエッチできる大チャンス! カイト、やっとけ! なんなら俺が、ちゃんとできるように、その場でアドバイスしてやるから! ただし、俺の知識はすべてネットのエロ動画から得たものだがな!」


アホか──と僕が突っ込むまでもなく、すでに三太郎は新菜のカバンを顔面に食らっていた。


気がつけば、教室内には僕たち3人の他には誰もいなくなっている。


「ちょっと、あなたたち」


しんと静まりかえった教室に響いたのは、琴音先生の声だった。


しまった、先生に話を聞かれた!?

急いで撤収だ!


「琴音先生、すみません。もう帰ります。新菜、三太郎、帰るぞ!」


「カイトさん、こういう大事な問題は、ちゃんと解決しておいたほうがいいでしょう」


やっぱり聞かれてた!

いったいどこまで聞かれてしまったのだろうか。


「……というと?」


「新菜さんは、カイトさんとセックスがしたい。でも、カイトさんはまだ思春期にも入っていないので、セックスにはそれほど興味がない。現在の状況としては、そんなところでしょうか」


げげっ、全部聞かれちゃってるし。


「はい……そんな感じです」


「では、今日は2人のために、思春期についてプライベート・レッスンしましょう」


ここで手をあげる三太郎。


「せっ、先生! 俺も聞いてていいですか? 俺も勉強したいです! 勉強、大好きなんで、俺!」


「もちろん構いません」


   *


僕たち3人を一番前の席に座らせた琴音先生は、そのまま教室で、保健体育の臨時授業を開始した。


「カイトさん、新菜さん、それから宇和さん。3人の中で、最近、自分のセックスへの興味が高まってきたと思う人は?」


「はいっ!」


元気よく、まっすぐ手をあげたのは三太郎だった。

見れば、新菜も控えめに手をあげていた。


「新菜さんはすでに初潮を迎えているという話でしたね。宇和さんも、すでに精通があったんでしょうか?」


「はい、小6からバリバリです! あと先生、俺のことも名前で──三太郎って呼んでもらえますか?」


「わかりました、三太郎さん」


下の名前で呼ばれた三太郎は、ニッコリご満悦だ。


琴音先生は話を続けた。


「セックスへの興味が高まり、異性への愛情が深まるのは、思春期に入って心が成長している証拠です。人間として、とても健全な心の動きです」


「先生、質問!」


「はい、三太郎さん」


「じゃあ、思春期に入ったら、どんどんエッチしたほうが健全っていうことですか?」


「そうとはいえません。小学生や中学生がセックスをした結果、もしも赤ちゃんができてしまったらどうしますか? 中絶手術は、女性の体に大きな負担を強いることになります。かといって、未成年であるあなたたちが、赤ちゃんを産んで育てることなんてできませんよね」


「はあ……無理です。でも、したいなあ……エッチ」


すると、珍しく新菜が三太郎の意見に乗っかった。


「私もエッチ、したいです! かといって三太郎とするのはイヤだけど!」


「うるせーよ新菜! それはお互いさまだ! おまえが相手じゃ、つものもたねーよ!」


「なんですって!」


いや、三太郎はパンチラだけで反応してたでしょ。


「はいはい、2人とも落ち着いてください。思春期には、心だけでなく体も成長しますから、当然セックスがしたくなります。思春期に入ると、脳の下垂体かすいたいというところから、生殖器を発達させる性腺刺激せいせんしげきホルモンという物質が分泌されます。この性腺刺激ホルモンによって、男性でいえば精巣、女性でいえば卵巣が発達するのです」


「先生!」


「はい、三太郎さん」


「精巣って何ですか?」


「キンタマです」


「ぶっ──」


三太郎は思わず股間を押さえた。

どうやら琴音先生の「キンタマ」発言に興奮してしまったようだ。


「では、続けます。精巣からは主に男性ホルモン、卵巣からは主に女性ホルモンが分泌されます。これら性ホルモンの分泌によって、男女の体つきの違いがはっきりしてきます。男性は筋肉質に、女性は胸がふくらんで丸みを帯びた体格に変わっていきます」


「先生!」


「はい、三太郎さん」


「その性ホルモンのせいで、男も女もエッチしたくなってムラムラするんですか?」


「ムラムラを引き起こすのは、主に男性ホルモンのほうです。女性の卵巣からも、男性の10%ぐらいの量の男性ホルモンが分泌されていて、この男性ホルモンが性欲に関係しているとされています」


「ってことは、男の性欲は女の10倍ってことですか!?」


「実は、そのあたりは完全には解明されていません。現時点では、男性ホルモンと女性ホルモンのバランスや変化、オキシトシンやセロトニンなどの脳内物質など、さまざまな要素が組み合わさって、性欲が引き起こされると考えられています」


「なんだか、ややこしいなあ」


「先生!」


「はい、新菜さん」


「ってことは、エッチしたいのは自然の摂理であって、心ではコントロールできないってことですよね。私、エッチがしたいです! ガマンできません!」


「俺も!」


なんだか今日は、三太郎と新菜の意見が珍しく一致するなあ。


琴音先生は、うんうんとうなずいて、マジメな顔でこういった。


「そこで登場するのが、1人エッチ──マスターベーションです。オナニーともいいます」


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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