【第10話】男ってサイテーな生きものですか?

行き先を部室棟から体育館へ変更。

僕は体育用のジャージ、新菜はテニスウェアのまま、職員室に入った。


「あら、カイトさんと浜尾新菜さん。どうしましたか?」


「琴音先生、授業中にカイトのことを好みのタイプだっていってましたけど、あれ本当ですか?」


「バカ、新菜! あんなの本気なわけないだろ!」


「カイトはだまってて。私は琴音先生と話してるの。先生、どうなんですか?」


「……はい、本当です」


「えっ!?」


思わず僕が声を出してしまった。


「ちっ」


おいおい、先生に舌打ちするな、新菜!


「浜尾さん、何か問題でも?」


「問題ありまくりです。先生、失礼ですが、おいくつですか?」


「22歳です」


「カイトはまだ12歳なんですよ!」


「知ってます」


「10歳も歳下の男のことを、本気で好きなんですか?」


「人を好きになるのに年齢は関係ありません。ひょっとして浜尾さん、伊勢さんのことを……?」


「そ……そうよ。好きです。悪いですか?」


「まったく悪くありません。では、浜尾さんと私は恋のライバルということになりますね。カイトさんはどう考えているのですか?」


ようやく僕が話せるターンが来た。


「僕は……あの、2人とも、好きなんです」


すると、いきなり新菜がバン、と机を叩いた。


「先生! どう思いますか? 2人を同時に、同じぐらい好きになったなんて話、信じられますか!?」


「浜尾さん、落ち着いてください。男性は2人どころか、3人や4人を同時に好きになることもできるのです」


「えええええっ!?」


「私たち女性は、たった1人の男性を心から愛するようにできています。でも、男性はそうじゃない。同時に複数の女性を愛することができます」


「男ってみんなそうなんですか?」


「もちろん1人の女性だけを愛し抜く男性もいるとは思います。逆に、複数の男性を同時に愛せる女性も、中にはいると思います」


「不潔よ不潔! みんな不潔よ!」


「浜尾さん、冷静に。『愛』というものが非常にあいまいで、定義しにくい感情である以上、議論の難しい問題ではありますが……先生はこう思います。基本的に、女性は1人の男性を愛し、その子どもをしっかりと育て上げる。男性はできるだけたくさんの女性とセックスをして子孫を増やす。人間の男女というのは、よくも悪くも、そういうふうにできているんじゃないでしょうか」


「たくさんの女性とセックスしたいの!? それが男!? サイッテー!」


「理解できないのも無理はありません。理解できないのがふつうです」


「どういうことですか?」


「はっきりいって、同じ人間でも、男性と女性はまったく違う生きものだといえるでしょう。理解なんて、できるはずがないのです」


「でも、世の中にはこんなに男女のカップルがいて、結婚もしていますよ? まあ、破局したり離婚したりする人もけっこういるけど……。つまり、お互いのことを理解し合えたカップルだけが破局しないってこと?」


「ちょっと違います。私は、男女は違う生きものであり、お互いを完全に理解し合うことはできないと考えています」


「じゃあ、どうしたら別れないでいられるんですか? 理解できない相手とずっと一緒にいるなんて無理なんじゃ……」


「男と女はお互いを理解することができない、ということを理解することです」


「理解できないことを理解する?」


「そうです。そもそも異性のことを理解することは不可能なんだとあきらめて、相手の価値観や考え方などを否定せず、そのまま受け入れること。それが、男と女がうまくやっていく秘訣だと、先生は考えています」


「じゃあ、カイトが私と先生の両方を好きなことも、受け入れないといけないってこと?」


「そういうことになりますね」


「無理! 私には無理です! 先生は平気なんですか?」


「平気ではありませんが、受け入れます」


「先生って、大人ですね」


「はい、22歳ですから」


「カイト」


新菜に呼ばれて、久しぶりに僕の話せるターンが来たようだ。


「何?」


「私、琴音先生みたいな大人の女になれるように、がんばる」


「あ……うん」


「先生、私、負けませんから!」


新菜はスタスタと足早に職員室を出ていった。

残された僕と琴音先生は、顔を見合わせて、思わず微笑んでしまった。


「なんかすみません、先生」


「ふふっ。意外と素直でかわいい子ね、浜尾新菜さん」


「そうですか? 気が強すぎて、ちょっと僕の手には余ります」


「でも、そんなところも好きなんでしょう?」


「はい。あ……でも、先生のことも……」


「ありがとう。じゃあ、あなたの好きな先生から1つだけ、お願いがあります」


「なんですか?」


「テニス部をやめないでほしい。カイトさんのことをもっと知りたい。それに、やめたら新菜さんも悲しむでしょう」


「……わかりました」


こうして、僕は好きでもないテニスを続けることになったのだった。

大好きな琴音先生と、新菜のために。


♪∽♪∝♪——————♪∽♪∝♪


『テニスなんかにゃ興味ない!』を

お読みいただいてありがとうございます。


この物語は毎日更新していき、

第50話でいったん完結する予定です。


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