愛され子爵令嬢は美貌を奪われて

けい

第1話 狂った歯車

 ニーナは暗い部屋の中でランプをかざした。

 今日は年に一度の特別な日。ニーナの誕生日。たった今、それが終わろうとしている。

 部屋にはたくさんのプレゼントが積まれていた。


(とても楽しかった……こんなにたくさんの贈り物まで)


 ニーナの誕生日パーティーにはまだデビュタント前にも関わらずたくさんの人が来た。みんな一目ニーナの美しさを見ようと集まったのだ。プレゼントはパーティーへの入場券の代わりだった。

 とはいえ、ニーナに自分が美しいという自覚はなかった。


(優しい人たちに囲まれて私は幸せね)


 無理もない。ニーナはまだ十歳だった。これから花の時期を迎えるのだから。今はつぼみでしかない。

 しかし、つぼみにして彼女の美しさはすでに同年代の少女から頭一つ抜けていた。プラチナブロンドの髪はまるで月の光を集めたような輝きを放っている。透明感のある白い肌に珊瑚色の唇。真っ直ぐに通った鼻梁。長いまつ毛に縁取られた目の奥にある大きな青い瞳は満月が明るく照らす夜空のように深く神秘的な色をしている。さらに、少女らしいすらりと健康的に伸びた手足。見る者を虜にするには十分だった。

 一番端にある平べったい箱のプレゼントにニーナは手を伸ばした。

 それは二歳年下の妹であるベルヘルミナ、愛称ミーナからのプレゼントだった。

 箱を開けると中から銀の取手がついた手鏡が現れた。裏には青い宝石がはまっている。まるでニーナの瞳のような宝石だ。


(こんな素敵な鏡、見たことないわ。きっとミーナが私のために作ってくれたのね)


 ニーナは自分の姿を鏡に映した。

 すると、鏡面が激しく光った。


 「きゃ?!」


 光が消えてから、おずおずと鏡を覗き込むと、先ほどと変わらぬニーナの姿が映った。


(今のは何? ……疲れているのかもしれないわ。早く寝ましょう)


 鏡を机の上に置き、ベッドの中に入った。他のプレゼントはまた明日開けばいい。

 ニーナは気づいていなかった。自分の容姿が少し変わっていたことに。

 それはほんの些細な変化だった。

 長い髪からは艶が失われ、瞳の輝きは濁り、鼻は低くなった。まつ毛は短くなり、肌が乾燥した。どれも少しずつ、不自然ではない程度に。

 こうしてニーナは長じて得るはずだった美しさを失った。

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