第93話 亜人キャンペーン

「おうセイス! 言われた通りSSランクの依頼を達成してきたぜっ!」


 リビランスに戻り、セイスに『ラ・ヘル』討伐を報告する。


「流石でございます、我が主よ。これで後は機が熟すのを待つのみとなりました」

「やったことは魔石集めとちょっとした依頼のクリアだけだけどね」

 日数で言うと2日くらい!


「……一般的な冒険者を使うとすると、数年はかかりそうですが」

「気分的には数年分働いた気がする」

 主にダンジョン周回に。


 あれ? ギルドに正しく報告していれば今頃Sランク……いや、最早そんな称号に意味などない!

 目指すは前代未聞のSSランクのみよ!


「主のおかげで、あのような手法を取れるのですよ。ご覧ください」

 セイスに言われて、冒険者ギルドの依頼が張り出されている掲示板を見る。


「『新ギルマス就任&トーナメント開催記念キャンペーン! 今なら亜人を指名すると依頼料10%分キャッシュバック!』……これ?」

「はい。スフォークのポケットマネーから差額を払い戻す、と言うことになっています」

「えっ、もしかしてこの10%分の差額を例の魔石の金から!?」

 つまり実質俺が払ってるってこと!?


「そうです。亜人への依頼を増やし、実際に関りを持ってもらうことで偏見を無くす。あの金はそのためのものです。トーナメントにかこつけて、実はこちらが一番の目的なのです」

「ふむむ、そう上手く行くかねぇ~?」

「どうでしょう、後は彼らの頑張り次第ですね」




 ――数日後。


「俺さ、ちょっと金に困ってたから亜人キャンペーン利用してみたんだけど、Cランクで出した護衛依頼にBランクが来てくれたよ。報酬も変わらなかったし」

「俺も利用したよ。案外気のいい奴らだったし、別に臭いとか汚いとかなかったな」


 そんな会話がいたるところで聞こえて来た。


「ギルドが保証してくれてるから安心だわ!」

「薬草が多く取れたからって、余分にくれたよ! 品質も良かったし!」

「俺ぁミィちゃんの好きなタイプを調べて貰ったんだが、おすすめデートコースも一緒に考えてくれたぜ!」


 おい! ミィちゃんは俺が先に紹介してもらう予定だったのに!




「へぇ、順調そうじゃない」

「そう上手く行くでしょうか」

 いや、お前がそう言うんかい。




 ――1カ月後。


「なになに、今度はヒトキャンペーン?」

 語呂悪っ。


「えぇ、予想より亜人たちの活躍に危機感を覚えたのでしょう。旧ギルマスが対抗手段として導入して来ました」

「ほう、こちらは20%OFFとな! これはまずいんじゃないかい?」

 さすがに10%OFFよりは20%OFFでしょう!


「スフォークも『こちらもさらに下げよう』と言っておりましたが、そうなると再びアレク様に魔石の調達に行って貰うことになります」

「うむ、やめよう」

 死んでしまいます。


「キリがないのでやりませんけどね。それに、当初の目的である亜人への忌避感の緩和もある程度達成できたと言えるでしょうし」

「そううまく行くかね」




 ――さらに1カ月後。


「なんかさ、ヒトキャンペーンで来る人達、冷たいよね」

「あぁ……大した実力もないわ文句は多いわでな……俺はもう亜人キャンペーンに戻してるよ」


 おや、様子がおかしいぞ?


「ランクが低い依頼はなかなか受けてくれないよ……トーナメントの足しにならないって」

「薬草の品質が低い! もうヒトには頼まない!」

「ミィちゃん……すっげぇ良かったよ……」


 何がやっ! ミィちゃんの何が良かったんやっ!?




「セイスさんや、この状況はどうしたんだい?」

「例のキャンペーン、値引き率はいいのですが、その負担は依頼を受けた冒険者になってるみたいです」

 ……んん!? そんなバカの事ある?


「な、何でまたそんなことに……」

「単純に財源がなかったのでしょうね。最初は0%負担、次に10%負担、最後には……と言う事みたいです」


 まぁ~、こっちは一応準備してたからねぇ。主に俺が。

 思い付きの対抗手段では、表面的には美味しいようでも実際は上手く行きっこないのは……まぁ、道理だわな。


 結果モチベーションが下がったヒト達と、権利や信頼を勝ち取るために必死な亜人達。

 クオリティの差は歴然としてくるだろう。


「ちなみにですが、娼館でも獣人の人気が高まっているようですよ」

「……どうしてちなんだかわからんなぁ」


 俺にはメイちゃんとアラアラがいるもん!

 確かに2人の体力は底なしだけども!


 ……あぁ、だから人気なのか。


 ◆◇◆◇


 そして大会開催1週間前。


 この日までで大会出場者は決定され、各冒険者ギルドで発表されるのだ。

 周囲には俺たちと同じように大会出場者の発表を確認しようと大勢の冒険者が溢れかえっている。




「主よ、あなたのおかげで順調にここまで来れました」

「いやいや、俺は最初だけであとはセイスやスフォークたちの頑張りのおかげでだろう」

 この集計期間中は、たまに様子を見に来る以外は基本的に好きなことできたし!


「おかげで亜人たちは概ね市民の方に好意的に受け入れて貰えています。冒険者ギルドとしてもこの期間だけで1年分の依頼達成ができたと。ギルマスとしてのスフォークの評価も高まっています」

「うむ、それは何より」


「さぁ、いよいよ大会出場者が発表されます!」

「おぉ!」

 大きい紙を持ってギルド職員が現れた。




「全冒険者ナンバーワン決定闘技大会! その出場者を発表します!」


 発表された冒険者は――。

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