第6章 冒険者ギルドマスター選挙
第75話 ギルドマスター選挙
「号外! Sランク冒険者5名とギルド幹部5名によりギルドマスター罷免を要求! これによりギルドマスター選挙が行われます!」
リビランスの冒険者ギルドは大騒ぎである。突然のギルドマスター選挙の勃発。無理もない。
実はこの件は『トロイア』が大きくかかわっている。
というのも、リビランスにて最初に声を掛けてきた怪しい男。彼は冒険者ギルドの幹部だったのだ。
何か怪しいと思ってアラアラを始め『おうまさん』メンバーに探りを入れて貰い、いつしかセイスにまで伝わっていた。
号外の新聞記事によると、親獣人派の候補者(動議発案者)と反獣人派である旧ギルドマスター(罷免を要求された方)の選挙が行われ、勝った方が次のギルド運営の方針を決めていく、という流れらしい。
その裏でセイスがなんやかんや暗躍し……この結果になっているそうな。
まぁ、うまく行けば獣人の冒険者活動だけでなく、日常の差別的扱い解消に向けて大きな一歩となるのは間違いないのだが……。
「で、何で俺まで行くのよ?」
セイスに連れられて、冒険者ギルドを目指す。
何でも、これからのことについて親獣人派の候補者と会談するらしい。
「ご冗談を。そもそもアレク様が我々を使ってこのような結果にしたのでしょう?」
いえ、違います……最初はなんか怪しいと思ったからなだけです……。
気付いたらこんな大事になっててビックリくりまろ!
「ふむ。まぁいいだろう。我の力が必要なのであれば、是非もなし!」
良くないです……けど今更そんなこと言えないです……。
張るなら最後まで! 男の見栄っ!
そして連れて来られた冒険者ギルド会議室にいたのは、やはり例の男。
「やや、セイスさん! ご足労賜り、恐悦至極!」
「ご無沙汰しております、スフォークさん。どうぞ楽にお話ください。我が主もそれを望んでいます」
はい、その通りです。舌が回らなくなりますんで!
「アレクだ。よしなに」
「そちらの方が、セイスさんの……始めまして、スフォークと申します。この度はセイスさんを始め様々な方にご尽力を賜りまして――」
「スフォークさん、できれば一度、確認の意味を込めて最初からご説明して頂けますか?」
セイスさん……きっと俺がほとんど何も事情を知らないことを察してくれたんだ!
サンキューな! そもそもこんなこと頼んでないけど!
「はい! では改めて簡潔に……」
そう言って、変化用の魔道具を外す。やはり狐の獣人のようだ。
「私は長年人に姿を変え、冒険者ギルドの職員として働いてきました。これも偏に――」
めちゃくちゃ眠くなるほど長い話をまとめると、次のような事情だそうな。
基本的にどこの場所でも大小はあるが不公平な扱いを受けている、獣人を始めとした亜人たち。
スフォークは冒険者ギルドでの彼らの扱いを変えたいと、姿を偽って長年頑張ってきたがリビランスの支部長となっても何も変えられていなかった。
できたのはポーター制度の抜け道を利用し、獣人を1人ずつ北区や西区に入れて高ランクダンジョンに行けるよう取り計らっていたことくらい。
最初に俺たちに声掛けてきたのも、ゆくゆくはこれを頼みたかったようだ。
しかしここに来て『トロイア』が接触、セイス主導の元、今回騒動となっているギルマス選挙に向けての行動を開始した。
というのも既にスフォークのおかげで、ある程度下地が整っていたからだとか。
既にスフォークの手助けによりAランクの、選挙権のある冒険者になっている亜人が結構いるようだ。
そのほとんどがヒトに変装しているようだが。
そして先日、魔族の騒動にてSランク冒険者の実力に疑問が生じ、現ギルドへの不満が高まっている状況に勝機を見出し、動議を実行したと言う事だった。
「私の他4名のギルド幹部とSランク冒険者、『おうまさん』4名と、こちらの『百発百中のカオルコ』の5名の賛同を以て、今回の動議を発動することができました!」
「ど~もっ! カオルコだよっ! よ~ろしくっ!」
変なとこで伸ばす喋り方をした、俺と同い年くらいの女の子。
ふむ……こいつはもしかして……? いや、それよりも今はこの騒動だ。
「特に『おうまさん』はSランクを殺害したとされる人物を撃退した、との噂もあり、今や人気絶頂の冒険者です!」
「人気だと何かあるの?」
まぁ、実際は俺が倒したわけだが……別に訂正することでもないだろう。
「えぇ、基本的に立候補者は人気のある冒険者に応援をお願いします。これが勝利に直結します!」
「冒険者は単純な考え方をする者が多いため、『あいつが応援してる方に俺も投票しよう』となりやすいと言う事ですね」
ふむふむ。さすがセイスさん、わかりやすい。
「その通りです! 加えて、投票はAランク冒険者に権利があるのですが、既に獣人のAランクもかなりの数に上っています!」
うむ、それに関してはスフォークさんの活動も功を制した形になるな!
「1カ月後リビランス北区にて、それぞれ立候補者と支援者が演説したのち投票に移り、結果が出ます。私は何としてもこの機にギルマスの座を掴み、全ての人を公平に扱うギルドとしたいのです!」
「獣人だけでなく?」
「えぇ、獣人だけ優遇すれば軋轢を生じさせますし、獣人以外にも困っている人はいますので!」
エルフとか、か。色々考えてんだなー。
「うむ、素晴らしい! 我らもさらなる尽力を約束しようではないか!」
最初は怪しい人物だと思っていたが、なかなかの善人!
そして俺は次期冒険者ギルドマスターに多大な恩を売ったことになり……ぐっふっふっ!
実に良きかな!
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