まぁまぁクズの英雄譚~今世こそ俺が搾取する側に!~
公公うさぎ
プロローグ
プロローグ①~努力は報われるとは限らない~
ここは……?
「……え、ますか? 聞こえますか?」
んん? 何やら女の人の声が……。
「……こんにちは、田中善男さん」
「はい! こんにちは! 私に何かできることはありますか!」
はっ! つい条件反射で営業向けの言葉使いになってしまった!
「そうですね~、転生して魔神をどうにかしてくれると助かるのですが~」
「私にお任せください!」
ちょっ、待って俺!
社畜生活が長すぎてつい反射的に答えてしまう……。
……悲しいぜ!
「そうですね~、その性格が原因で亡くなられてしまいましたし……悲しいですね~」
「そうなんですよ、はは」
……ん? 亡くなられた?
「はい~、善男さんは7回目の徹夜での作業中に会社で亡くなられましたぁ~」
「……え? ははは……そんなバカな……え?」
いやいやいや……それ本当ですか?
「はい~。享年29歳ですぅ~」
「そ、そんなっ! 明日には取引先土下座ツアー10連チャンしなきゃいけないのにっ!」
他にも先週飛んだ後輩の尻拭いや得意先の接待、夜には営業に必要な情報を資料にまとめて朝にはご近所の清掃活動……!
「それって、そんなに大事ですか?」
「あったりまえですっ! そうしなきゃ会社が回らないんですよっ! 何人の仲間がそれで困るか……大変だっ」
何を……何を言っているのだ、このふわふわした方は!
「それは、あなたの命よりも?」
「あたりま……え?」
「あなたは頑張りました。身を粉にして、人のために。それはとても尊いことなのかもしれません。けれど、限界を超えたあなたはそれで死んでしまった」
「……」
それは……確かにそうだけど……。
「あなたにとって、その仕事は命を懸ける程、大切なものだったのですか?」
「……」
目の前の女性の言葉に、一度冷静になって考えてみる。
新卒で入社して、必死に努力して……。
かつて上司に言われていた言葉が頭をよぎる。
『お客様のためにできることはなんでもやれ』『仲間に、家族に迷惑をかけるな』『今頑張らないと将来困るぞ!』『ここでダメだったら勤まる職場なんてないぞ』『責任感ないのか?』『仕事が終わるまでが勤務時間だ』『恩を仇で返すような人でなしになるなよ』
……。
…………。
………………。
「……私、は……」
「『耳のいい言葉を使って、いい様にコキ使われていた』」
瞬間、心にまとわりついていた靄のようなものが晴れた、気がした。
「……私……いや、俺は……何でこんな……」
「一種の洗脳状態ですね~。こわいこわい~」
のんびりな口調に戻った、目の前の美しい女性に目を向ける。
……こんな美しい女性に気付かない程、俺は仕事にしか目を向けられなかったのか。
「あらあら~、ありがとうございます~♪」
「あはは。ところで、ここは一体……?」
落ち着いてみると、今の自分が置かれている状況が普通でないことに気付く。
いや、社畜時代も普通じゃなかったけども。
何となく死にたいと思ったことは何度もあるが、まさか死んでからその異常性に気付けるとは……。
「ようやくお話が進められますね~。改めまして、私は女神です♪」
何となくそんな気はしてた。ってこれまさか!
「そう、そのまさかの~! 異世界転生です~!」
「おぉっ!」
社畜時代、碌に休憩時間もまとまった休暇も取れなかった俺は本やネット小説を読むことが唯一の娯楽だった。
……段々とそれすらできる余裕も無くなったけど。
その物語の中に、異世界転生ものの内容は多く、興味を惹かれる物も多かった。何でだろうね。
「そうです~、まさにその異世界転生~! 今なら特別な才能(ギフト)もプレゼントしちゃいます~!」
「おぉ~! でも、お高いんでしょう?」
「そんなことはありません~! なんと~、今なら魔神をどうにかしちゃってくれればいいんです~!」
「きっつ!」
魔神て。こちとら平和に過ごして来た善良な日本人ですよ?
できれば、過去世が善良だったから平和なスローライフをプレゼント系転生が良かったんだけど。
あ、でもスローライフを楽しめそうな知識とか無いや。
「まぁまぁ~。魔神といっても、いつ復活するかわからないし~。一応? 万が一の保険? 的な~」
思いのほかフワッとしてる。
「そ、そうですか……」
「はい~」
「……」
「……」
「えっと……」
「今の君なら、人生やり直したいと思えるんじゃないかな~? それに、ギフトをうまく活用すればいい生活を送れると思うよ~!」
いい生活……。
「今までいい様に使われてきたんだから、今度は自由に生きてみなよ~!」
自由に……。
「そうそう! 美味しいもの食べたり、旅行に言ったり~! 恋をしてみちゃったり~!」
……今度は。来世では!
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