剣の魔獣は、身の上を語る
結果から記す。
その日、ザヴェルバロッグは自らの身の上を語り、旅の目的のためにサヘルを同行させることにした。
剣の魔獣であるザヴェルバロッグは、魔力を込められた金塊から生まれた。
ザヴェルバロッグは、最初に呑んだ血を基礎とし、あらゆる血を呑むことで強くなる魔法をかけられていた。
ところが最初に呑んだ血は、当初予定されていた血ではなかった。
弱々しい人間の男の血を、ザヴェルバロッグは吞んだのである。
「だから人間の姿になれると」
身の上を語ったザヴェルバロッグに、サヘルが首を傾げた。
「そういうことだ」
「魔物にも色々あるのですね」
「我は魔物ではない。剣の魔獣だ」
「何が違うのです?」
「魔物は魔力を持つ動物。魔獣は魔力が主体の生命体だ」
ザヴェルバロッグは自らを指差して言った。
しかし自らの存在を誇りとしていないとも明かした。
ザヴェルバロッグは、当初の予定通りに生まれなかった失敗作なのである。
「それゆえ、我は旅をしている。本来受けるはずであった力を得るために」
「生物の血を呑めば……いつか達成できるのですか?」
「分からない。我の強さがどれほどのものか、我には分からないのだ」
「……それって、どういう?」
サヘルが首を傾げた。
ザヴェルバロッグは、自らの実力を量る術をサヘルに教えた。
それは、ザヴェルバロッグが真の姿である剣になったとき、量る方法であった。
「――つまり、本来の力を得れば、剣が輝くのですか?」
「輝くとは言っていない。外観にはっきりとした変化があるはずなのだ」
「でも、完全な剣の姿になると、意識が途切れると」
「そうだ」
「人の姿に戻るためには、誰かに呼び覚ましてもらわないといけないと」
「そうだ」
「……えええ、それって、ポンコツ……」
「斬って呑むぞ」
「うわあああ、ごめんなさい!」
サヘルが驚き半歩下がる。
ザヴェルバロッグは後退るサヘルを見て、片眉を上げた。
「お前は我が恐ろしくないのか」
「え、今、後退りましたが??」
「そうではない。魔獣である我が恐ろしくないのか。これまでの人間はみな、我の半人半剣の姿を見ればすぐに逃げだした」
ザヴェルバロッグは目を閉じる。
過去に出会った人間や、魔族たち。
いかなる種族、魔物でさえ、ザヴェルバロッグを恐れた。
姿に恐れただけではない。
魔獣という存在自体が、すべてを遠ざけていた。
ところがサヘルはどうだ。
逃げるどころか、勝手に付いてきた。
しかもこうして、普通に話しをしている。
「え、いえ、まあ、最初はそれどころではなかったですし」
「そうか」
「……命の恩人だから恐くない、というわけでもありませんけど」
「違うのか」
「……死の直前だったから。きっと、目の前の死より怖いものは、あの時の私にはなかったかも」
「そうか」
そんなものかと、ザヴェルバロッグは頷いた。
人間という者は、みながみな、同じではないらしい。
皆それぞれ違い、サヘルも違う。
単にサヘルは、魔獣への耐性があるのかもしれない。
「……もしかしたら私の頭がおかしいだけかも?」
「そうか」
「……今のは肯定するところではないですよ」
「そうか?」
「そうですが??」
頬を膨らませるサヘル。
とにもかくにも、ザヴェルバロッグはサヘルという貴重な存在と出会った。
勝手に付いてくる彼女がいれば、剣の姿になっても呼び覚ましてもらえるだろう。
そうすればザヴェルバロッグは、彼女の目を通して自らの力を量ることができる。
ザヴェルバロッグは面倒と思いつつも、サヘルとの出会いに感謝するのだった。
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