お嬢様!最低で最高です。一生スパルタで行きますからね!
いなずま。
1.教育係
「お嬢様!脱いだ服を投げないでください!」
「お嬢様!もう起きてください!」
「お嬢様―――!」
何度言えば分かるのだろうか。
毎日毎日毎日毎日言ってるんですけど、いい加減覚えてください。
だけど、私が教育係を辞めることはない。絶対に。
別荘に帰ってきた私は、お嬢様の斜め後ろをついていき、部屋に着いたところで、靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた彼女についていく……が。
私は見逃さない。
「お嬢様!靴を片付けてください!」
「え~。わたくしはご令嬢なんですの!何のためにメイドがいると思っているの⁉」
むむぅ
と納得いかない顔のお嬢様。
確かにメイドはいるが、この広い別荘にたった5名。
メイドは食事を運んだり、掃除の為のみに雇っているのである。
「お嬢様専用のメイドさんはいません!」
「ハナがいるじゃない」
ハナとは、私の名前である。
私を本名で呼ぶのはお嬢様ぐらいである。
「私は教育係であり、メイドではありません!しかもお嬢様。本名で呼ぶのはよしてください。私以外には偽名で呼べているのに……」
この世界では、誰かに仕えるものは、その仕える人に名前を付けてもらう。そして、仕事の時には基本的に偽名で呼ばれる。私の偽名はエリ。命名したのはお嬢様の父に当たる、カルピオ地方の領主様だ。本名は教えてもらえない。
名前を教えるのは、自分より上の身分か、よっぽど親しい人。
お嬢様は私よりはるかに身分が上なので、一応ということで本名を教えたら、なぜかそれで呼ばれるようになった。
別に仕事の時に本名で呼ぶのは、すごくいけないことではない。
ただ、社会のルールだから、私はお嬢様に常識として身に付けてもらいたい。
部屋に入ったお嬢様は、人形遊びを始める。
私は15歳、お嬢様は10さいである。
彼女と出会う前、なぜ自分より幼い少女が偉いのかと恨みかけたことがある。
私がエリナガル地方から追い出されたころだ。
エリナガル地方は、ここカルピオ地方の隣の敵対国である。
13歳のとき、エリナガルの豪邸で働いていた私は、エリナガルに来たお偉いさんの足で躓いた時、罰としてエリナガルから追放された。後から知ったが、国際取り締まり役だったそうだ。
追い出された私は、カルピオの裏路地に捨てられた。
そこで、たまたま迷子になったお嬢様に拾われたのだ。
「あなたは、だぁれ?」
今よりずっと幼い、8歳のお嬢様は、くたびれて座った私に向けて手を差し伸べた。まるで当然かのように。
その時、恨んでいた私は馬鹿馬鹿しくなってきたのだ。
自分が情けなく感じて。
あのまま放置されていたら、数日後に命はなかっただろう。
その後も、エリナガルからのスパイだと咎められたりはしたが、すべてお嬢様が守ってくれた。
お嬢様に甘い領主様の事だから、案外早く解決したのだが。
そして、私がここで働いているのは、教育係に、お嬢様直々に指名していただけたからである。
文字や貴族の振る舞いが分かるのは、数少ない。
それもあっただろうけど、第一候補として名を挙げてもらったのは、とても誇らしく、うれしかった。
これが、私がいまここにいる理由である。
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