69.失言癖が役に立ったみたい
食堂が一番被害が少ないと聞いて、集まることにした。エルヴィ様とヘンリが顔を見せ、無事を喜び合う。ハンナは壁際に控えようとしたが、エサイアス様に椅子へ座らされた。……あ、違ったわ。椅子に座ったエサイアス様のお膝ね。
時々反撃するものの、ハンナは彼を引き剥がそうとしない。もしかして、愛が恋してラブなの? きらきらした目を向けたら、眉を寄せて睨まれた。これは違う。たぶん……私に危害を加えないよう、エサイアス様の注意を逸らしてくれてる。
「仲がよろしくて……おほほ」
上品にエルヴィ様が牽制をかける。眩しくて目が疲れちゃう、そんな雰囲気で顔の前に手を翳す。遠回しの嫌味だった。こういう上品で婉曲な仕草も、侯爵夫人の嗜みに入るのかしら。私には無理そう。
侯爵家の侍女がお茶の支度を始め、執事が丁寧な報告をあげてくれた。私は頷きながら、時々質問で口を挟むだけ。被害がなかったのは、運が良かったのかな。
結論として、暗殺者は全部で四組。一組の人数がバラバラだけれど、全部で十三人だった。詰めていた騎士の数は二十八人なのに、揺動に引っかかり半数は脱落したらしい。他所で起こされた騒動に目が向いて、こちらに気づくのが遅れたのよ。
それでも半数は屋敷内に残っていたので、実被害なく終わった。功労者はリーコネン子爵で、三人も倒したとか。ルーカス様に頼んで、何かお礼の品を用意しよう。
「旦那様へは報告を行いました」
「ご苦労様でした」
労って、夜明けまでこのまま過ごすことにした。やはり侍女の中にも、不安を口に出す子がいる。全員が集まっていれば、警護する側も楽になるはず。
「では朝までここで休みましょう」
と提案した途端、騎士や侍従が動き出した。近くの客間や空き部屋から、長椅子を運んでくる。流石にベッドは無理なので、諦めたようだ。複数の長椅子が並ぶ食堂が狭くなり、長いテーブルを端に寄せた。
窓際は騎士が立つため、廊下に近い側へ長椅子を置く。用意された毛布を掛け、横になった。でもね、寝られるわけがない。まだ屋敷内に死体が残っているのだ。
「明日は染み抜きが大変ね」
固まって抱き合う侍女達に聞かせるつもりじゃなかったが、ぽろりと言葉が溢れた。なぜか彼女達は笑い出し、室内が明るい雰囲気になる。何か面白いこと言った? どちらかといえば、想像してうんざりする内容じゃない??
「お嬢様のそういうところ、嫌いじゃないです」
すごく遠回しに「好きでもない」と切られた気がする。ハンナの精一杯の褒め言葉と、笑いを堪える姿に肩の力が抜けた。大人しく横たわる。少しして、室内は静かになった。大笑いしたのが良かったのか、侍女の半数は目を閉じている。
私の失言癖も、時には役に立つみたい。でもこの癖は直したいわね。毛布をぐいと引っ張って、頭まで被った私は束の間の休息をとった。
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