42.今後の計画もしっかりと!

 夜は王妃様のお誘いで一緒に食事をした。当然、王女様もご一緒だ。護衛は騎士を一人と決め、私的な食事会を装った。お陰で、六人でゆっくり食事ができる。


 アベニウスから付いてきた人達も、まさか護衛騎士が一緒に食卓を囲むなんて想像しないはず。護衛騎士ヘンリは恐縮していたが、すぐに落ち着きを取り戻す。臨機応変、場に合わせる能力は高かった。今後平民に混じって暮らすなら、彼は頼もしいパートナーだろう。王女様も見る目があるな。


 出された食事に豪華さはない。海鮮料理は食べ慣れないようで、二人は海老に苦戦していた。


 向かいのルーカス様と私がすっすとナイフを入れるのを確認し、同じ位置に差し込む。肉厚な部分じゃなく、関節っぽい節に入れるのがポイントなのよね。綺麗に切れたので、王女様の表情が明るくなった。感情豊かな人みたい。


 王女様は美しいと表現するより、可愛らしい雰囲気だ。世間知らずのお嬢さんって表現が似合う。でも金銀財宝担いで逃げてくる、しっかり者でもある。私やハンナも気が合いそう。仲良くなれたら嬉しい。


 肉は珍しく鶏肉だった。皮がパリッと焼いてあり、胡麻のソースかな。甘辛い味で、柑橘の香りがした。柑橘ジャムと胡麻、後はスパイスかも。美味しく頂いた後、そのままお茶が運ばれた。


 別室へ移動すると、護衛が増えてしまうから。内緒の話をするなら、このままがいい。一般的な雑談のみだった食事会が幻のよう。王妃様は鋭く切り出した。


「プルシアイネン侯爵、領地での受け入れは問題ありませんか」


「はい、我が屋敷に近い治安のいい場所に、やや小ぶりの屋敷を手配しました」


 場所の説明から始まり、部屋数や衛兵の巡回の経路と頻度、様々な情報が明かされていく。ここで思わぬ提案があった。


「子ども達に読み書きや計算を教えてください。その報酬を、今回の宝石の代金と一緒にお支払いします」


 ルーカス様はきちんと考えていた。子どもに教えるなら、王女様もできる。何より顔見知りが一気に増えるだろう。街に溶け込みやすくなり、危険な目に遭う確率も減らせた。領民達だって、我が子の教師が襲われれば助けに入るし、衛兵を呼びにいく。


 宝石の代金を支払う名目も立つのだ。何より、夫婦で二人一緒に同じ職場なら、王女様の護衛もできてヘンリも安心だろう。一石三鳥くらいの計画に思えた。


「ありがとうございます」


 微笑む王女様に、陛下が大きく頷く。どうやら計画の立案は、陛下も関わっていそう。王妃様はある一点に気づいて、表情を曇らせた。


「この屋敷……」


「ええ、そうです」


 ルーカス様はあっさり肯定するが、私も王女様達も首を傾げる。何かあるの? もしかして……人ならざる幽霊が出る、とか! ヴェールで見えないのをいいことに、表情を引き攣らせた。


「安心してください。弟夫妻には新しい屋敷を与えましたから」


 あ、そういうこと? 領主の手伝いをする弟夫妻が住んでいた屋敷だけれど、新しい屋敷に引っ越してもらった。弟さんは元侯爵家次男なわけで、そんな人が住まう屋敷なら安全な場所だ。ほっとした私は視線に気づいて、そちらを振り返る。王女様はじっと、真っ直ぐに私を見ていた。

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