41.しっかり者の王女様でした
驚くほどとんとん拍子に話が進んでいく。王女様はすぐにでも駆け落ちしたいし、護衛騎士は自国へ連れ戻されることを恐れていた。今日このまま王宮に泊まり、明日は宰相プルシアイネン侯爵家の領地へ旅立つ。何も知らなければ、婚約が成立したように見えるはずだった。
しばらくは婚約に関する問い合わせに答えず、アベニウス王国を焦らす作戦らしい。占い師イーリスと婚約については一切発表せず、王女殿下の婚約については曖昧に誤魔化す。そのまま王女様の行方を曖昧にしてから、亡命を受け入れた旨を公表するのだとか。
「父が攻めてこないでしょうか」
不安そうに気遣う王女様は、順位に関係なく王族なのだろう。今後住まう侯爵領に迷惑がかからないか、この国の心配もしている。政略結婚の駒に使う予定なら、そこそこの教育は受けてきたのかな。その点、護衛騎士ヘンリは彼女を守ることだけに注力していた。
逆に安心した。これだけ愛し合う二人なら、多少の困難は乗り越えられるだろう。それに顔のいいルーカス様に惚れたり、言い寄る素振りを見せたりしなかった。この一点をもって王女様の恋を応援できる。未来を占ってあげたいな……ふとそう思った。
ちらりと目配せで窺えば、陛下もルーカス様も首を横に振る。私の占いの精度が他国にバレるとマズイ、とか? どこから漏れるかわからないものね。謁見の間で釘を刺したのは、私だけでなく王妃様に対してもだったようで。残念そうな溜め息を吐いたのは、王妃様だった。占い、大好きですものね。
ふふっと笑った私は、騎士ヘンリに違和感を覚えた。ヴェール越しにじっくり観察して、その正体に気づく。すごく厚着なのだ。騎士の制服は動きやすいよう、体にぴたりとした作りが多い。式典用ならゴテゴテと飾りや勲章が付くが、普段はシンプルなはずだ。なのに、コート一枚ほど余分に着込んでいる。
涼しい顔をしているが、かなり暑いだろう。脱いだらいいのに。この国は隣国アベニウスより温暖なので、こんな厚着はおかしい。何か隠してるの? まあ、武器ではないな。すぐに取り上げられちゃうし。
「生活費に関しては、私も考えましたの」
平民になれば生活費は稼がなくてはならない。だが亡命者である護衛騎士を雇えば、我が国が言い掛かりをつけられてしまう。それに王女様は侍女がいない生活なんて無理だ。着飾った姿を見ながら、前途多難だと眉を寄せた。外から見えないので、百面相しても平気なのは助かる。
「ヘンリ」
「はい」
ここでヘンリが上着を脱いだ。布が引っ張られて、ずっしりと重いのが分かる。脱いだコートを裏返し、さっと広げて見せた。……うわぁ、眩しい。豪華な貴金属が縫い留めてある。ネックレスから指輪、ティアラのようなお飾りまで。さらにポケットからも大量の宝石が取り出された。
「これをお預けしますので、換金して支給していただけませんか?」
王女様なりの錬金術だ。王家から逃げ出す手切れ金感覚で、手の届く宝飾品をかき集めたらしい。金貨や銀貨がないのは、王族が直接支払わない生活をしてきたから。驚いた顔をしたルーカス様は苦笑いした。
「それだけあれば、屋敷をもう少し大きく出来ます」
「小さな家で構いません、通いの女性が一人……それ以上は望みませんわ」
侍女というより家政婦かな。その人が賄える程度の小さな家が欲しい。そう望む王女様は艶やかに微笑んだ。
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