20.いつ、どこで知られたんだろう
「君にケガがなくてよかった」
そう言いながら、ルーカス様は手早く毛布を引っ張った。私が被っていた毛布で顔が見えなくなる。目深に被ったローブ状態で毛布を縛り、ルーカス様は私を抱き上げた。どうお世辞を言っても「
ただ、顔を隠すには向いている。ヴェールより厚手で、すっぽり被れば外から見えない。歩くとなれば足元が見えなくて危険だけど、ルーカス様は抱いて移動を始めた。ぐらっと揺れたところで、腕を伸ばして彼の首に回す。するりと白い腕が出たことで、護衛達がぱっと目を伏せた。
「悪いが、片付けを頼む」
「はっ」
一礼した護衛の兵が室内に踏み込んだ。ハンナが片付けたヴェールは後で回収してもらおう。無言で進んだルーカス様は、数部屋通り過ぎて止まった。中央の階段を挟んだ向こう側は普段使われていない。その部屋に手入れをしたのだろう。
下ろされた室内は埃もなく整えられていた。素足で降りた私に気づき、すぐにまた抱き上げてベッドの端に運ばれる。
「申し訳ございません、重かったでしょう?」
「イーリス、こういうときは『ありがとう』と言うべきです」
ぱちくりと瞬きし、確かにと納得する。本当に重くても、紳士が淑女に「重かった」と頷くわけにいかないし。それならお礼を伝えるのが正しいわ。
「ありがとうございます、ルーカス様」
「どういたしまして。羽のように軽かったよ」
うん、これはお世辞だな。毛布の重さもあったし、私はそんなに細い方ではない。かといって、豊満なお胸やお尻もなかった。同じ太さで縦にすとんと真っすぐな、残念体型なのだ。もう少しお胸があればと思うし、お尻が大きくても魅力的だっただろうに。
ぺたぺたと己の体を確認する私に、ルーカス様は眉を寄せた。
「ケガをしたのかな?」
「あ、いいえ。違います」
まさか胸のサイズを再確認していたとは言えない。慌てて顔を上げ、また美形の近距離に心臓が高鳴る。私の寿命って、一晩でかなり縮んだよね。どきどきしながら、ヴェールがないことを思い出した。
「あ、その……あの」
あたふたした後、毛布を引っ張った。覗き込むルーカス様には顔が見えている。それに薄い寝着で残念体型もバレた。はしたないとか恥ずかしいより先に、悲しくなる。挑戦する前に結果が見えたゲームを、ルーカス様がどう思うのか。
「ヴェールなら運ばせます」
「あ、はい」
そういえば、顔について言及がないな。ルーカス様と出会ってから、一度も素顔で対峙した記憶がないんだけど。いつも占い師の姿だったし……イーリスのドレスはお胸に詰め物していた。もっとスタイルのいい美人を想像していたら、がっかりしたんじゃないかな。
「この部屋には私だけだ、顔を隠さなくてもいいです」
そう言われても……俯く私に彼は思わぬことを口にした。
「久しぶりにリンネアの顔を見られました」
「は?」
え? いや、リンネア・ネヴァライネンの名は知ってると思う。宰相閣下が宮廷で働く占い師の名前ぐらい調べられるけれど、顔を知ってる? いつ、どこで、どうやって? 陛下や王妃様にお会いするときも外さないのに!
「ああ、失礼。リンネアと呼んでも?」
「それは構いませんが、私の顔をご存じで……?」
逆に驚いた顔をして、ルーカス様は肩を落とした。
「覚えてないのか」
私、何か重要なイベントを忘れているみたい?
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