12.信じたくない占い結果
子爵家の屋敷に帰りたい。五日目にして、私は温泉が恋しくなっていた。心なしか、お肌も荒れた気がする。
小屋敷には、王妃様のお気遣いで数人の侍女が派遣された。そこに加え、子爵家に連絡して、私物を送ってもらった。ドレスや装飾品は小屋敷にあるので、日記帳や靴など量は多くない。受け取りながら、客間で溜め息を吐いた。
「お嬢様、しゃんとなさいませ」
執事アルベルトに喝を入れられるが、背筋を伸ばすので手一杯だ。これ以上は無理、と崩れてしまった。
「宮廷占い師イーリス様ともあろう方が、このような」
「だって、疲れるんだもの」
ぼやいてしまうのは、息抜きができないからだ。今までは占いに行く時だけ、イーリス・ヴェナライネンを装えば良かった。でも今は、一日中イーリスでいなければならない。
この屋敷を維持する侍女を減らしてもらおうか。それとも子爵家の使用人を派遣してもらう? いいえ、どこから嗅ぎつけられるか。悩んだ末、現状を素直に受け入れるしかなく。ヴェールを外せない日々は、鬱憤が溜まった。
「お嬢様、何のための肩書きですか」
首を傾げるが、すぐに思い至った。そうだ、宮廷占い師なんだから、集中するためとか理由をつけて部屋に篭ればいい。その間、カーテンを閉めっぱなしになるけれど、邪魔されずに過ごせる!
「頑張る!」
「国のため、しっかりお励みください。ところで、未来の旦那様にご挨拶をしたいのですが」
「……忙しそうだから今度ね」
婚約の話は子爵家の使用人達に伝えた。マイラもアルベルトも、ハンナだって大喜びだ。これでネヴァライネン子爵家の血が繋がると、涙ながらに安堵されたら……偽装婚約だなんて言えない。王命だから、彼ら相手でも口にできないけれど。
「承知いたしました。では本日はこれで」
「ええ、悪いけれど頼むわね」
屋敷を……の言葉を呑み込んだ。ここ以外に屋敷があるとバレるのはまずい。ここまで警戒している理由は、王妃様が選抜した侍女や使用人から情報が漏れる可能性があるからだ。彼や彼女らは、よく情報交換をしている。その中に「あの屋敷でね、こんなことが」と口にされる危険性があった。
だったら使用人を全て断ればいいのだが、そうすると維持が出来ない。あっという間に掃除が行き届かず、庭も荒れてしまうだろう。想像がつくだけに、帰ってくださいとも言えなかった。
宮廷占い師イーリスは、宰相閣下に嫁ぐほどの家格がある。そう示しておかなくてはならない。アルベルトを見送り、私は早速自室へ閉じこもった。
ずっとは不自然なので、半日くらいを目安にする。占いに関することなので、部屋に近づかないよう厳しく命じた。慣れない命令なんてしたので、声が上擦っちゃったわ。
カーテンを閉めて、周囲を見まわし……ヴェールを外した。ベッドに寝転がり、カードを手に取る。だが自分を占う事はできないので、宰相閣下の結婚生活を占ってみた。正直、はしたない行為だと思うけれど、気になった。
偽装じゃない奥様を迎えて、幸せになるんだろうな。そう思いながら、カードをシャッフルして積み重ねる。上から一枚ずつ開きながら定位置に並べた。
国王陛下や王妃様を占う際、普段は選んでもらう。対象者が触れることで、精度が上がるからだ。しかし、本来の占いは別の形式だった。混ぜる時だけ触れてもらい精度を高め、カードを開くのも読むのも占い師が行う。
ゆっくりと開き終えたカードは、宰相閣下のやや特殊な結婚生活を示した。
「見なかったことに、しよう……うん」
さっとカードを崩し、丁寧にケースへ片付ける。そうよ、私は何も見ていないわ。奥様が閉じ込められ、それに満足しているだなんて。ちょっとおかしいもの。
新年のご挨拶を入れる予定でしたが、地震がありましたので自粛します。ご無事でありますように!
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