第81話 淡水魚


 二日ほど続いた雨がようやく上がった。

 空は気持ちよく晴れている。

 僕とシャルは久しぶりに島の探検に出かけていた。

 ガンダルシア島に移住してきてかなり経つけど、僕は島のすべてを踏破したわけじゃない。

 まだまだ足を踏み入れていない場所はたくさんあるのだ。

 本日は島の中心にある山を左側に迂回しつつ奥地を目指している。


「父上、川の音がするであります!」


 どうやら未発見の川があるようだ。

 川のほとりにはめずらしい植物が生えていることが多く、動物も集まりやすい。

 きちんと調査をしておこう。

 藪をかき分けて到着すると、それは幅が四メートルほどの小さな川だった。

 水は青く澄んでいて、水中の水草は太陽の光を受けて黄緑色に輝いている。

 水底には色鮮やかで細かい砂利が堆積していた。


「いい場所を見つけたね。ここならアユがいるかもしれない」

「魚ですか?」

「うん、塩焼きにするととても美味しいんだ」

「ぜひ、見つけましょう!」


 アユの旬は夏だから季節的にも申し分ないだろう。

 Are you ……なんでもない……。


「父上、魚がいるであります。ほら、あそこっ!」

「どれどれ……」


 って、ずいぶんと小さいな。

 それにアユにしてはカラフルだ。


「あれがアユですか?」

「ちがう、あれはグッピーだよ!」


 そうそう、アイランド・ツクールでは川でグッピーを釣ることもできたっけ。

 グッピーと言えば観賞魚の代表格だよね。

 前世でも熱帯魚として人気があったような気がする。

 ポイントを使えば水槽は手に入るのか。

 ただの水槽ではなくて熱帯魚を飼うこともできるセットである。

 よし、この水槽を使ってグッピーを飼育してみるとしよう。

 まずは1ポイントを使って魚採りの網を手に入れた。


「父上、魚を捕まえるのならシャルにやらせてください」

「魚を傷つけないようにそっと捕まえられる?」

「大丈夫です。シャルは世界一やさしい最強種になるであります!」


 熱意が伝わってきたのでシャルに任せることにした。

 シャルはずんずんと水の中に入っていき、二十匹ものグッピーを捕まえてくれた。

 

「よしよし、すぐに水槽に放してあげないと可哀そうだね。急いで帰るとしよう」


 ポイントと交換した水槽には空気を送り込むポンプや、水温を一定に保つヒーターもついている。

 川の水草なども水槽の中で育てられるだろう。

 オーベルジュに飾ればみんなが喜んでくれるかな?

 採取がすむと、僕らは小走りでオーベルジュに戻った。



 水槽に入れてやるとグッピーは元気に泳いでいた。

 天井部に取り付けられた照明のおかげで水草も輝いて見える。

 色とりどりのグッピーが群れで回遊する姿はおもしろく、ずっと見ていても飽きない。

 特にシャルとウーパーは気に入ったみたいで、二人してずうっと水槽を見つめているぞ。

 しかも、どこで聞きつけてきたのかシルバーまでもがやってきて水槽を覗き込んでいる。

 シルバーの体格でオーベルジュは狭いだろうに、強引に体をねじ込んできたのだ。

 サイズ的に無理はあるのだけど、微笑ましい光景だから好きにさせておこう。

 シルバーは賢いので廊下で粗相をするなんてこともないからね。

 このようにグッピーは皆を魅了したけど、誰より喜んだのはノワルド先生だった。


「まさに生きた宝石である。セディー、魚の種類はこれだけかね? 他にも仲間がいそうなものだが」


 これまで海で釣りはしたけど、川の魚はよくわからない。

 でも、ここはガンダルシア島だ。

 他にもめずらしい魚がいっぱいいるかもしれない。

 アイランド・ツクールでも熱帯魚は数種類いたはずだ。


「今回は見つけられませんでしたが、他にも魚はいるはずですよね」

「さっそくその川を調査してみよう」


 翌日からノワルド先生と一緒に調査を開始して、予想どおり数種類のきれいな魚を見つけることができた。

 エンゼルフィッシュやネオンテトラなど、アイランド・ツクールに出てきた魚ばかりだ。

 淡水で生きる小さなエビなども見つけた。

 小エビは水槽の底にたまった残飯を食べてくれるのでありがたい存在だ。

 それにちょこちょこと動く姿はコミカルだ。

 そして、今回は特別な発見もあった。

 それがガンダルシア・グッピーである。

 フワフワしたヒレが大きく、色が特に美しい。

 おそらくガンダルシア島の固有種だろう。

 採取した魚が多くなったので今回は3ポイントを使って大きな水槽を手に入れた。

 高さは180センチ、横幅が3メートルもあるのでかなりの迫力がある。

 まるで小さな水族館だね。


「これはいい! 実に素晴らしい!」


 新しい水槽にノワルド先生もご満悦のようだ。

 一瞬だけクレアのプレゼントに熱帯魚はどうかな、と考えたけどやめておいた。

 飽きっぽいクレアに生き物を飼うのは無理だし、使用人たちを苦労させるのは忍びなかったのだ。

 プレゼントは無難な宝飾品などにしておくとしよう。

 僕はクレアのことを頭から追い出し、優雅に泳ぐ魚たちを見入った。


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