第40話 発展してきた島
数日後、ポール兄さんからヤギ一頭と鶏四羽が届けられた。
最初は心配したけれど、どちらも家畜小屋で元気にしている。
ストレスがたまるとヤギは乳を出さなくなるし、鶏は卵を産まなくなると聞いていた。
ところが、どの動物ものびのびと暮らし、ヤギは毎日四リットルもの乳を、雌鶏もすべて毎日卵を産んでいる。
これ、特殊なことだよね?
たぶん、ガンダルシア島の特別な力が働いて、動物たちの健康と生産力を高めているのだろう。
鶏は畑の虫をついばんでくれるし、ヤギは沿道の草を食べてくれるのでとても助かっている。
卵とヤギ乳はリンが美味しく調理してくれるので、僕もシャルも大喜びだ。
オーベルジュに来るお客さんの食事にも活用しているよ。
新鮮な卵はもっといっぱい欲しいから、お金ができしだい追加注文するつもりだ。
ぜんぶで二十羽くらいは飼いたいな。
自分で繁殖させれば数は増やせるだろうか? そのあたりは今後の課題だ。
島での日々がさらに進んだ。
季節は初冬になったけど宿泊客も順調に増えている。
当初、自分が支配人をやったらお客さんが怖がるんじゃないか、とウーパーは心配したけど、結果はまったく逆だった。
マダム層を中心にファンがついてしまうくらいの人気者になってしまったのだ。
キャーキャー言われて、困ったウーパーが頭をかき、その姿をみてマダムたちがまた黄色い声を上げる、
そんな光景がオーベルジュではよく見られる。
「私としては、かわいいセディー君の方がいいけどね」
一か月ぶりにやってきたエマさんはそんな軽口をたたいた。
「からかわないでくださいよ」
「父上はかわいいのであります!」
僕が褒められてうれしいのか、シャルもご機嫌だ。
「シャルの方がずっとかわいいよ」
と、言ったら、ますますご機嫌だった。
外はすっかり寒かったので、今日はエマさんに暖かいハニージンジャーレモンをお出しした。
ハチミツを採るのはけっこう危険だった。
ここでは養蜂じゃなくて、木にできたハチの巣をとって、そこから直接ハチミツをゲットするからだ。
ノワルド先生から借りた書物の中に『眠り香』というものを見つけたので、僕はそれを使ってハチの巣を採っている。
本来は魔物を眠らせるためのお香なのだが、ミツバチにもよく効いたのだ。
ショウガは僕が畑で育てたものである。
「美味しくて体が温まるわね。本当に、この島は不思議なものがたくさんあるのね」
「喜んでもらえてよかったです」
飲み物を飲んで落ち着くと、エマさんは本題を切り出した。
「今日来たのは正式にセディー君と契約を結ぶためなの」
「というと、あれですか?」
「きのう、洋ナシの瓶詰を食べたわ。それにリンゴも。信じられないけど、本当に傷んでいなかったわ!」
エマさんは興奮していた。
「開封するときは知り合いの船長にも来てもらったの。彼もびっくりしていたわ。船長は甘党だから相当気に入っていたわよ」
「ということは……」
「ええ、コンポートの瓶詰を正式に購入しようと思うの。半年ももつのなら長い航海に持っていくのに最適ですもの。船長も旅の楽しみが増えるって喜んでいたわ」
「洋ナシとリンゴだけでいいですか? 他にも作れそうな気がするけど……」
僕がつぶやくと、リンが厨房から顔を出した。ずっとこちらの話が気になっていたらしい。
「栗のシロップ煮ならつくれるよ!」
「まあ、それも美味しそうね!」
エマさんも乗り気だ。僕はここでふと思いつく。
「要するに保存食が欲しいわけですよね?」
「そうよ。美味しい保存食がね」
だったら、あれもいいんじゃないかな。
「リン、コンフィは作れる?」
「私を誰だと思っているんだい? どこよりも美味しい鴨のコンフィをつくってあげるわよ!」
コンフィとは低温の油で食材をじっくり煮込んだ料理のことだ。代表的なのは鴨のコンフィなど。もともとが保存食だけど、消毒滅菌した瓶に空気が入らないようにオイルを充填すれば、賞味期限はさらに伸びるだろう。
「エマさん、いかがですか? デザートだけじゃなくて主菜も作れそうですが」
「絶対に売れると思う!」
唐突にステータス画面が開いた。また、何か変化が起こったようだ。
食品加工場の作製:解放条件が一部解除されました!
達成条件:商人と島の産物の輸出について契約を結ぶこと。
未達成:二人の従業員を確保しましょう。
必要ポイント:7
食品加工場には煮沸消毒のための大釜や、各種の機材がそろっているようだ。
すぐにでも作りたいところだけど、従業員を集めなくてはならないのか。
島民にはそれぞれ仕事があるから、今のところ手の空いている人は誰もいない。
もう少し様子を見るしかないようだ。
納品の個数、瓶や木箱の搬入など、いろいろ話し合っているうちに外はすっかり暗くなってしまった。
エマさんは今夜、うちの宿に泊まることになっている。
「お食事になさいますか? それとも先に温泉に入りますか?」
「さっぱりしてからご飯をいただくわ。リンの料理がとても楽しみ」
「では、お風呂まで送りますね」
外はもう上着が手放せないほど寒くなっていた。
だけど、エマさんは驚きで寒さを忘れたように立ち尽くしている。
「これは……」
暗いはずの夜道は暖かいメローな光であふれていたからだ。
「魔導ランタンを使った街灯ですよ」
街灯は十五メートルおきに設置されて、夜の道を明るく照らし出している。
こう言っては何だが、ルボンのメインストリートより明るいくらいなのだ。
街灯は道に設置できるオブジェ一覧から選択して僕が設置したものである。
消費ポイントは一本につき3だったけど、少しずつ増設して、架け橋からコテージ、コテージからオーベルジュ、オーベルジュから温泉までは暗い箇所がないようにしてあった。
「驚いたわ。前に来たときはこんなのなかったのに……」
「夜も安心して温泉までいけるようにしました。星空を眺めながらの露天風呂もいいものですよ」
「ガンダルシア島は来るたびに驚かされるわね」
まだまだこれからですよ、と僕は心の中でつぶやく。
僕のアイランド・ツクールはまだまだ始まったばかりなのだから。
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