第14話 洞窟
シャルロットと一緒に森の奥へと続く小道に分け入った。
道といってもうっすらと形跡があるだけで、草ぼうぼうで歩きにくく、気を抜くとすぐに見失ってしまうくらい、か細い道だ。
「父上、この奥には何があるのですか?」
「それがわからないから調査するんだよ」
「おお! 探検とは知らない場所へ行くことなのですね! シャルは探検が大好きであります!」
好奇心旺盛なシャルは元気いっぱいにはしゃいでいる。
剣を抜いてやぶを払いながら進んでいくとオレンジの木を見つけた。
枝には熟した実がたわわに実っているではないか。
そうそう、ゲーム内でも果物の木は何本か生えていたな。
定期的に収穫して、食べたり、販売したりしたものだ。
ゲームの初期には重要な食料・収入源になったのを思い出したぞ。
「父上、太陽の実がなっています!」
「これはオレンジだよ」
「ほほぉ、オレンジでありますか」
「オレンジを食べたことはある?」
「食べられるでありますか!?」
シャルは目をキラキラさせながらオレンジを見上げている。
食べてみたくてしょうがないようだ。
僕は剣を振って、実の一つを切り落とした。
「いただきます!」
皮のままのオレンジにかぶりつこうとするシャルを慌てて止めた。
そんなことをすれば苦くて仕方がないだろう。
「待って、皮をむいてから食べるんだよ」
「皮をむく?」
「その方が美味しく食べられるんだ。かしてごらん」
剣の柄に近い部分で切り込みを入れてから皮をむいた。
途端に柑橘系の爽やかな香りが周囲に広がっていく。
シャルは涎を垂らしそうな勢いで身をくねらせた。
「いい匂いがします!」
「ほら、食べてごらん」
子房に分けた実を渡すと、シャルはそれを小さな口に詰め込んだ。
「んーーっ! 美味しいであります! シャルロットはオレンジが大好きであります!」
ずいぶんと気に入ったようだな。
夕飯も朝食も喜んで食べていたけど、そのとき以上のがっつきようだ。
きっと甘いものが好きなのだろう。
僕も一口食べてみたけど、甘くて、ジューシーで、香りもよく、とても美味しいオレンジだった。
ダンテス家の屋敷でもこれほどのオレンジは出てきたことがないぞ。
これなら街の人も喜んで買ってくれるだろう。
「今は荷物になるから、帰りに収獲しようね。そうしたら明日の朝ご飯になるから」
「たくさん収獲するであります!」
「そんなにたくさんは無理だよ。持てなくなるもん」
「シャルがカゴを背負うであります」
そういえばシャルは力持ちだったな。
僕らはオレンジの横を通り過ぎ、さらに森の奥へと進んだ。
道は森の奥にそびえる岩山まで続いていた。
コテージからここまでは直線距離で七〇〇メートルくらいだったけど、迂回したりやぶを切り開きながらだから一時間くらいかかってしまった。
目の前にはいかにも怪しい、黒くて大きな岩がある。
そして、その岩がやっぱりキラキラと輝いていた。
作製可能なもの:小規模な洞窟。
説明:各種素材が得られる洞窟。
モンスターが襲ってくることがあるので注意しましょう。
必要ポイント:5
備考:洞窟の鍵をプレゼント。スペアキー付き。
洞窟は島を発展させるうえで重要な場所になる。
錬金術の素材や貴重なアイテムが隠されているからだ。
しかも開発を進めれば、小規模な洞窟 → 洞窟 → 地下ダンジョン、といった具合に成長して、よりレアなアイテムをゲットできるようになる。
ただし、規模を大きくしてしまうと出現する魔物も強力になっていくので注意が必要だ。
ダンジョンは装備や持ち物を充実させて臨まないと、あっけなくゲームオーバーになってしまう。
この世界でそれは死を意味するのだ。
とはいえ、洞窟が魅力的であることはかわりない。
ポイントは8あるのでさっそく作ってしまおう。
出来上がった洞窟の入口には鉄格子がついていた。
入口のドアには大きなカギが刺さったままになっている。
僕はさっそく鍵を抜いてズボンのポケットにしまった。
これで魔物が外に出てくることもないし、他所の人が勝手に洞窟へ入ることもできないだろう。
「クルルルルル……」
「どうしたの、シャル?」
シャルが洞窟の奥の暗闇を見つめながら小さな唸り声を上げた。
「魔物がいるであります……」
目を凝らしてみたけど、僕には見ることはできない。
ドラゴンの特殊能力なのだろう。
「どんな魔物?」
「虫ですね。これくらいのカマドウマが三匹」
シャルは両手を大きく広げた。
大型犬くらいのカマドウマか……。
襲ってきたら厄介そうな敵だ。
やっぱり洞窟は一筋縄ではいかないな。
「たいした敵ではないであります。シャルのパンチでやっつけるであります!」
つぶらな瞳に獰猛な色が滲んでいる。
頼もしい限りだけど今すぐ洞窟に入る気はない。
「中を調査するにはランタンが必要だよ。洞窟の中は真っ暗だからね」
だけどシャルはすぐにでも洞窟に入りたそうだ。
「明かりがなくてもシャルには見えます。父上は見えないですか?」
「うん、僕には無理だ。それにランタンだけじゃなくておやつだっているだろう?」
「おやつ⁉ それは絶対に必要であります!」
シャルも納得したようで、僕らは一度コテージへ引き返すことにした。
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