第2話
「落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます!」
どうやら、私ははしゃぎすぎて海龍とかいう魔物のオヤツになってしまったらしい。
どうやらゲーム内最初の死人になってしまったそうで、とても不名誉な称号まで着いてきた。
オンリーワンってもっとカッコイイものじゃなかったの?
死に戻ったのは先程ドームを照らしていたランプの横。海中の中なのにも関わらず確かに光を発しているファンタジーランプだ。
持っているのは先程の彼女。こちらを慮ってくれる優しいレディだ。
彼女…… キドナさんが言うことには、はしゃいで弾丸の様に泳いでいた私は、そのままスルッと海龍の口内にダイブ。飛び込んだ瞬間に牙にぶち当たり、見事な即死を遂げたらしい。
久々にすごいものを見たと驚く彼女は紫色の尻尾を振って自分が見た光景の迫力を表している。
そう、尻尾。それも私と同じ魚の下半身。
キドナさんもどうやら人魚だったらしい。ドームの中では足が生えていたように思うのだけど。
「止めるのが遅くなってごめんなさいね。泳ぎ方を教えていないのにあんなに早く泳げるとは思っていなくて」
申し訳なさげに頭を下げるキドナさん。
悪いのは私なのに、優しい美人さんだ。
「へへ…… いっつもイメージしてたので!」
「そう。トラウマになってなさそうで良かったわ。それじゃあ」
「はい!! チュートリアル、お願いします!」
流石に私も懲りた。海は確かに素晴らしいが、海には確かに恐ろしい顔もあるのだ。しかもここはファンタジー世界。
海龍なんていう超絶ボスキャラまでいる。てかあれ絶対序盤に会っちゃダメなやつでしょ。
だからこそ、チュートリアルはしっかりやっておかなければダメだろう。
βテストの情報は予め調べておいたものの、実際に自分でやるのとは違う。
「よーし、お姉さん張り切って教えちゃうぞー。リプソンったら、目を離したら簡単にオヤツになっちゃいそうだし」
「気をつけるので忘れてください!!」
このお姉さん、少し意地悪だな?
そんなところも彼女の魅力なのかもしれない。……はっ!?
「じゃあまず基本的な操作の部分から。と言ってもリプソン、貴女もうできてるわよね! ただ、少しだけ説明しとくわね」
「はい!」
「まず覚えておいて欲しいのが、貴女はもうこの世界で生きてるってこと。その体は貴女のもので、貴女が思いのままに操ることのできるものなの」
「ふむふむ」
そう、ゲームにも関わらずここには制限がない。手は上がるし、ものは掴める。コマンドではなく、確かに意識で動いているのを感じる。
「そして、あちらの世界の貴女にはない部分。今回の場合は尻尾とエラ。これが私たち人魚にとって大事な部分よ。尻尾は筋肉の塊だと思いなさい。尾びれで水を叩くように動かすの。ただ初めは疲れやすいわ。鍛えなきゃなのは勿論だけど、海流に乗ったり海藻にくっ付いたりして休むことも大切よ」
「休むのも大事……」
「もし敵が近くにいても、十分な体力があったら逃げ切れるかもしれない。だけど疲れが溜まっていたら? またオヤツになっちゃうわ」
「オヤツから離れて下さい!!」
やっぱこの人意地悪ちゃんだ。小悪魔巨乳貝殻涙ボクロ人魚だ。
「ふふ。そしてエラのお話ね」
無視された!! こやつ私の扱いが分かってやがる!!
「エラは特に意識しないで良いわ。ただ、定期的に口の中に海水を入れてあげて。そしたら体が勝手に動いてくれるわ」
「へー便利ですね!」
「そうね。ただ注意が必要なんだけど……」
「え?」
なかなか真剣な顔をしている。そんな顔も美しいぜベイビー。
「エラは空気中で呼吸をすることができないの」
「……そう、らしいですね」
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