6 野郎どもは作戦会議を開きました。 Bパート
「で、明日はどうする?」
ガラリと空気が変わった。
「どっちにしても、めくるしかないよね」
「だ、誰がめくりますか?」
三人は顔を見合わせた。
「やっぱり、孝明がめくるべきなんじゃないかな?」
三太の発言に、孝明は身を固くした。
「お、俺は、ダメだ。おまえも知ってるだろう?」
その顔から、脂汗が噴き出していた。
「そうだね。けど、そろそろいい機会なんじゃない?」
孝明は首を横に振った。
「あ、あの、藤代さんに何かあったんですか?」
「ん? う~ん、これからのこともあるし、山瀬くんには言っておいたほうがいいかな。いいよね、孝明?」
その問いに、悪友は答えなかった。
「とりあえず話すよ。じつは孝明は、小学生の頃にスカートめくりで苦い経験をしてるんだ」
「苦い経験、ですか?」
「うん。ぼくらの通っていた小学校の一学年上にね、日本を陰から操ってる、なんて噂があるほどの資産家のお嬢様がいたんだ。どうしてごく普通の公立校なんかにいたのかは、いまだにわからないんだけどね」
三太はさらに神妙な面持ちになった。
「絶対に手を出しちゃいけない、そんなお嬢様のスカートを孝明は……」
「め、めくっちゃったんですか?」
そう、とゆっくり首肯した。
「でもね、これにはやむを得ない理由があったんだけど……そんな事なんか知らないまわりの大人たちは、小学一年生の孝明にしこたまお説教をくらわしたんだ。さらに追い打ちをかけるように全校児童から……」
「そ、そんな……」
康司の全身が、小刻みに震えていた。
「お嬢様はその事件のすぐあとに転校しちゃったから、徐々にみんな忘れていったけど、孝明は……ぼくがその立場だったら、今ここに存在していないかもしれないよ」
三太はさびしそうに視線を床に落とした。
「それ以来、スカートめくりにひどく恐怖を感じるんだって。当然だよね」
「じゃあ、普段の生活から大変なんですね。特に学校じゃ、普通に見えちゃうときもありますし」
「いや、自然に見えちゃうのとか、めくれちゃうの、それから本人が見せるの、覗き込むのは大丈夫なんだってさ。ダメなのは、他人がスカートをめくる、という行為なんだって。ようするに、YESパンチラ、NOスカートめくり」
「な、難儀ですね……」
「まあ、中学以降はスカートめくりなんてするヤツはまずいなかったから、大丈夫だったんだけどね」
二人はしょんぼりしている孝明を、切なげに見た。
「でも、そうも言ってられなくなっちゃったからね。孝明にはここでトラウマを克服してもらって、がんばってもらわないと」
「む、無理だ。俺にはできない。っていうかすすす、スカートめくり怖い!」
トラウマ持ちが、突然取り乱したように叫んだ。
「孝明、よく聞いて」
諭すような口ぶりだった。
「ぼくたちはこのままじゃ、パイパンになって恋愛どころじゃなくなるよね? でもね、もし仮に、ぼくと山瀬くんでがんばって、その呪いが解けたとしても、孝明は恋愛できない体のままだよ」
どういう意味だ? 孝明の瞳が、そう言っているようだった。
「その時に、彼女のスカートをめくれないなんて失礼だし、何よりそれの醍醐味を味わうことができないじゃないか!」
孝明の頭上に、がーん! という効果音が見えた、ような気がした。
「孝明は、いつもいつも彼女にスカートを脱いでもらう気なの? そんなんじゃパイパンと同じで、まともに恋愛なんてできないよ!」
ここにいる誰よりも体格のいい男が、とても小さく見えた。
「ねえ孝明、これはチャンスなんだよ。佐野さんは、ぼくらの学校では絶対に手を出しちゃいけない人だよね? そのスカートをめくれれば、何かが変わるんじゃないかな?」
「だが……」
迷いが見え隠れする声だった。
「自分からめくれって言ってるんだよ? 前みたいなことはないよ」
「それでも俺は……」
「ああそう。じゃあ、ぼくがめくっても、山瀬くんがめくっても、孝明はかまわないんだね?」
突き放すような声が響いた。
「そ、それも……」
「山瀬くん、佐野さんのって、どんなのだと思う?」
いきなりの問いに、康司は面食らったようだった。
「え、え~とですね……」
「や、やめろ! 想像するなあっ!」
勢いよく立ち上った孝明は、康司に詰め寄った。
「じゃあ、孝明の意見を聞かせてよ」
「う、そ、それはだな……やはり白だな。フリル満載のかわいいヤツ」
ぼそぼそとつぶやく孝明の目の前に、にんまりとした三太の顔があった。
「そうだよねえ。佐野さんは、白ってかんじだよねえ。うん。やっぱり孝明がめくるべきだね。ぼくは縞パンが好きだから、ふさわしくないよね。ちなみに山瀬くんの好みは?」
「じ、自分は、パステルイエローの、と、とにかくパステルイエローが……」
「決まり、だね。どっちにしても、ぼくの能力は見た目からして怪しすぎるし、山瀬くんのは博打っぽい。大勢の人の前では、孝明のが一番いいと思うんだ」
「気はすすまんが、やるしかないのか……ん、ちょっと待て。おまえがめくらない理由は、佐野のパンツが見られないからなんじゃ……」
「よ~し、じゃあ、細かい作戦を立てていこうか!」
「おい三太、どうなんだっ!?」
作戦会議は、三時間ほど続いた。
しかし、作戦と呼べるような大層なものは、結局決まらなかった。
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