恋の女神さまのおばさんぱんつをけなしたら、パンチラバトルをする羽目になりました……
豆井悠
4月編 プロローグ
1 怪しげな美少女発見!
桜もほとんど散ってしまった学校の中庭で、
中肉中背、容姿もごく普通な三太と、すらりとして背も高く、かなりの男前な孝明は、古びたベンチの後ろに身を隠し、視線を前方に飛ばす。
そこには、見るからに艶やかで場違いな人物が、きょろきょろと辺りを窺っていた。
「ねえ孝明」
「なんだ」
「あのセクシーさんは、放課後のこんな人気のないところで、何をしてるのかな?」
「俺が知るか」
「そうだよねえ。それにしても……」
二人の喉が、ごくりとなった。なぜなら不審者は、とびきりの美少女だったからだ。
桜色の長い髪が、春風に穏やかになびいていた。ベージュのブレザーに、紺と緑を基調にしたチェックのミニ。一見三太たちの通う
「なんだかエロいね」
「ああ、エロいな」
彼女はそれほどダイナマイトなバディさんではなかった。どちらかといえば、隣の同級生的標準体型だった。しかし、その同級生さんが時折見せる色気というやつは、厄介である。なんだか見てはいけないもののようで、ドキドキなのである。
そのいけない色気が前面に押しだされているのが、彼女というわけだ。誰だってエロいと思うだろう。
「あわわ、普通に歩いてるだけなのに、パパ、パンツが見えそうだよ?」
「しっ! 気づかれるだろうが」
孝明にたしなめられ、三太は思わず自分の口を両手でふさいだ。
彼女はそんな二人にはまったく気づいていない様子で、何かを探すようにふらふらと歩いている。
一歩、また一歩と歩を進めるたびに、スカートがゆらゆらと揺らめいていた。野郎どもの視線は、もちろんその小悪魔の誘惑のような揺らめきに釘付けだ。
不意に、ぴら? と絶妙な揺れがスカートに走る。
「「ぬおおっ!」」
パンがチラしそうな決定的瞬間に、二人は反射的に立ち上がっていた。
「!」
驚いた表情の彼女が振り返る。
「あ……」
「やべ……」
ばっちりとからみあう三つの視線。一瞬、静寂が中庭を包み込んだ。
と、すう、と大きく息を吸いこんだ彼女は、逃走を開始。
陸上の短距離選手も真っ青なスピードに、二人はしばらく立ちすくんでいたが、はっと我に返ると、その後をばたばたと追いかけ始めた。
「逃げるってことは、やっぱり何かあるな」
「そうだね」
三太も孝明も、それなりに運動は得意であった。しかし、彼女との距離は開くばかり。
「こら~っ! 待て~っ!」
どこか緊張感に欠ける三太の叫び声に、彼女が振り返る。その刹那、普通教室の入ったA棟と、理科室などの専門教室がはいったB棟をつなぐ渡り廊下に差しかかった。そこへ、絶妙なタイミングでぬっと姿を現した小柄な男子生徒が一人。しかも、何か考え事をしているようで、彼女にまったく気づいていない様子だ。
「お、おい、前、前っ!」
「?」
孝明の鋭い叫び声に、彼女の顔がゆっくりと前を向く。
「!?」
そして、突然視界に飛びこんできた塊に、あらがう術もなく、ゆっくりと、スローモーションのように吸いこまれていった。
耳を覆いたくなるような鈍い衝突音が、あたりに響きわたった。
「だだだ、大丈夫……あ」
「ケガはないか……あ」
心配そうに駆けよった二人は、思わず息をのんだ。
男子生徒は衝撃で、ゆうに十メートルは吹っ飛んでいた。しかも、ぴくりとも動かない。
しかし、そんなことよりも二人の目を奪ったものがあった。
仰向けに倒れている彼女のスカートが、見事に全開バリバリで、パンがチラどころの騒ぎではなくて、清々しいくらいに『おはようございますっ!』だったのだ。
「……白だね」
「……ああ、白だな」
気になるところがばっちり見えているというのに、二人の表情はどこか複雑だった。そして、残念そうにため息を漏らした彼らは、そっとサンクチュアリから目をそらした。
「と、とりあえず保健室に運ぼうか?」
「いや、へたに動かすのはよくないだろう。三太、おまえ先生呼んでこい」
「わかった」
三太が走りだそうとしたまさにその時。
「いった~い! 信じられないんだけど?」
少女が唐突にむっくりと上半身を起こした。
ええっ! と三太は急ブレーキをかけ振り返る。孝明はぽか~んとバカみたいに口を開けていた。
「……あ、やば」
二人の驚いたような視線に気づいた彼女は、こほんと咳払いを一つ。そして、何事もなかったかのようにすっくと立ち上がり、制服? についたホコリをぱんぱんと払った。
「お、おほほほほ、ごめんあそばせ~」
ふんふふ~ん、と鼻歌まじりでゆっくりと歩きだす。あまりにも堂々としたその態度に、二人は呆気にとられるしかなかった。
「それにしても……」
彼女がB棟の陰に消えそうなところで、ようやく三太が口を開いた。
「見事なおばさんパンツだったね」
「ああ。へそまで覆ってて、色気ゼロだったな」
二人は美少女なのにもったいない、といった表情で彼女の背中を見つめている。
「おい、あれ固まってないか?」
「そうだね、動かなくなったね。やっぱり相当痛いんだろうね」
たしかにB棟角で立ち止まった彼女だったが、ケガのために動けなくなった、というわけではなさそうだった。小刻みに肩を震わせ、全身から怒りのオーラのようなものが立ち上って見える。
と、不意にくるりと彼女が振り返る。そして、逃げたとき以上のスピードで三太たちを強襲し、その勢いのまま、むんずと二本のネクタイが握られた。
ぐえぇっ! とめったに聞けない天然記念物のかえるのような鳴き声が二つ。
「今、何か言ったよね?」
ううん? と、目だけ笑っていないかわいらしい笑顔が二人に近づいた。
「あたしのぱんつがなんだって? おばさんぱんつで? 色気ゼロ?」
二人の体に衝撃が走った。彼女に突き飛ばされたのだ。
「ちょっとそこに座りなさい」
そして、やさしく地面を指さし、続けざまに少し離れた位置でいまだにのびている男子生徒に近づく。
「キミも起きなさい」
躊躇なく左手で胸ぐらを掴み引き起こすと、しなやかに右手が唸りを上げた。乾いた音が二発、三発と心地いいくらいに響いた。
「ん、んん……んぐあっ!?」
彼の目が、ゆっくりと開いた。と、同時にその表情が歪む。吹っ飛ばされた衝撃で、体中が悲鳴を上げているのだろう。
彼女は、そんな男子生徒を興味なさそうな瞳で一瞥すると、かまわず二人が転がっているそばに突き飛ばした。
「正座」
地面に情けなく転がる三人の上に、冷ややかな声があびせられる。呆然とした表情が三つ、腕組みで仁王立ちな美少女に向けられた。
「早く」
しかし、彼女はおかまいなしで言い放つ。世界の理ですら屈服必至なその口ぶりに、三太と孝明は反射的に正座してしまった。
「んん? キミはどうしたのかな?」
少女は地面でもがいている男子生徒を見ると、あからさまに眉根を寄せた。
「か、体が、バラバラになったみたいで……」
しぼりだすような声に、彼女はほんの少しだけすまなそうに目を伏せた。
「しょうがないな~、えいっ!」
そして、ぱちん、と右手の指を鳴らすと、彼の体がやわらかな光で包まれた。
「あ、あれ? 痛みが、消えた?」
ほうけたような顔で上半身を起こし、体中をたしかめるようになでる。
「どうなって……」
「なんだっていいでしょ。さ、大丈夫なら正座して」
有無を言わせないような視線に、彼もあたふたと正座した。
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