第10話[過去]初めてのキス。

【表紙】https://kakuyomu.jp/users/akatsukimeu/news/16817330668804704296


 中学二年生の夏休み、私とカンナは前の年よりずっと長い時間を二人で過ごした。

 他のお友達と遊ぶことももちろんあったけど、二人きりで遊ぶ機会は去年よりもずっと多かった。

 遊園地に行って二人きりで観覧車に乗ったり、美術館や個展を見に行ったり、少し遠出して動物園に行ったり。

 他にもあちこち遊びに行った。


 私とカンナは私のお家でくつろいでいた。

「えへへ、なんか照れちゃったな、あーいうの」

「いいじゃない、教会で結婚式ごっことかちょっとおもしろかったでしょ?」

「う、うん」

 私のお家、私のお部屋で、カンナはスケッチブックにサラサラと鉛筆を走らせ、絵を描いている。

 近所にあるさびれた協会に遊びに行った私たちは教会を探検し、そして「結婚式ごっこ」をして遊んだ。

 その時の思い出をカンナはスケッチしていた。

 相変わらず絵はゴチャゴチャしてて、デッサンも何もあったもんじゃないけど、それでもカンナは楽しそうに絵を描いている。

 私はそんな楽しそうなカンナの顔を見るのが好きだった。

「美雪ちゃん、じろじろ見られるの恥ずかしいよ」

「だって可愛いんだもん」

「もう」

 カンナの顔が真っ赤になる。そんな彼女の反応が楽しくて私はついニヤニヤしてしまう。

 カンナの描いた絵はいつも私が預かるようになった。外に持ち出して他の人に見られたくないからという理由で。

 つまりカンナの描いた絵は私が独り占めしていたわけだ。

 ふと外を見ると夕日が差し込んできた。日が落ちるまであと一時間とかだろうか?

「あ、カンナ、そろそろ帰らなくて大丈夫なの?」

「あ、う、うん。どうしよう……かな」

「泊ってく?」

「え?」

「今日、親帰ってこないから、私一人だと寂しいなぁって」

「あ、そうなんだ」

「陽が落ちた後に帰るの危ないでしょ? カンナの親がいいなら泊っていきなよ」

「うん、美雪ちゃんがいいなら、じゃあ……」

「ホント!? やったー! じゃあ、今日は二人でホラー映画でも見ましょう」

「え、またホラー? 私、怖いのやだよぉ」

「フフ♪ そんなカンナの反応が見たいからホラー見るの♪」

「もう、美雪ちゃんイジワルだ」

 二人で家にあった食材を適当に使って料理を作った。私もカンナも家庭科の授業はあんまり真面目じゃないので、魚を焦がしたり盛り付けがいいかげんだったりと、さんざんな出来栄えだったけど。

「じゃ、ポップコーンの用意もできたし、映画の時間ね」

「あー、やっぱりホラーなんだ」

「あはは、とーぜんでしょ」

 そしてリビングにあるテレビで映画を流そうとする。

 ふと窓の外を見ると、

「あれ? 何かしら」

「あ、メイ」

 それは黒いウサギだった。

 カンナは窓を開けると、メイと呼ばれたその黒いウサギを抱きかかえた。

「その子って学校のウサギじゃないの?」

「えっと、その、実はね、メイ、私が飼ってるウサギなの」

「え? そうだったの?」

「うん、よく勝手に家から出ちゃったり、私の跡をついて回ったりしてるんだ」

「へー、……あれ? じゃあ今日ももしかして、ずっと私たちについて回ってたりとか? さすがにないか、電車とか乗ったりしたし」

「あはは……」

「じゃあその子もお家に入っていいわよ」

「え? いいの?」

「だってカンナの大事なペットなんでしょ?」

「うん、ペットというよりも家族かな」

「ならいいわよ。その子も一緒に映画見ましょう」

「ありがとね、美雪ちゃん。あっ――!」

 メイはカンナの手から飛び出して、私に体をこすりつけてくる。

 私が身体をかがめると、私の頬に口をつけてくる。

「ふふ♪ この子、甘えん坊さんね」

「うん、とっても甘えん坊さんだよ」

 そうして私とカンナ、メイのみんなで映画を見て、お風呂に入って、そして私のベッドでみんなで寝た。

 真っ暗な部屋で、カンナは私の隣ですやすやと寝息を立てている。

 私はちょっとドキドキしてて、なかなか眠れなかった。

「美雪ちゃん」

「ん?」

 カンナはまだ寝ていなかったようだ。

「なんか眠れないや」

「実は私も。今日のホラー、そんなに怖かった?」

「ううん。こうやって友達のお家にお泊りするの、初めてだから」

「そっか。まぁ夏休みだし、寝坊しても誰からも怒られないって」

「そうだね、えへへー」

 二人で笑い合う。

「ねぇ、美雪ちゃん、お願いがあるの」

「なに?」

「手、つないでいいかな?」

「…………いいわよ」

「ありがとう」

 私とカンナはお布団の中で恋人つなぎする。

 なんだか余計にドキドキしてきた。

「美雪ちゃん、ありがとね」

「手をつないだだけでおおげさ」

「そうじゃなくて、私、美雪ちゃんとお友達になれてよかったなって……」

「え?」

「私、今とても幸せなの。メイがいて、美雪ちゃんがいて、とても嬉しい」

「私もよ。アンタとこうやってまた会えたの、本当に奇跡だと思ってるわ」

 カンナはなぜか困ったような笑みを浮かべた。

 その顔がなんだかおかしくて、私は笑ってしまった。

「ずっと美雪ちゃんと友達でいたいな。これからも、ずっと……ずっと…………」

 そういって、カンナは眠ってしまった。

(友達、か……)

 普通はそうだよね。

 きっと私の気持ちと、カンナの気持ちは違うんだろうな。

 ふと、ベッドのそばで寝ているはずのウサギ、メイの方を見る。

 メイもまだ寝ていなかったようで、私とカンナをじーっと見つめていた。

「あなたも寝れないの、メイ?」

「……………………」

 メイは寝ている私に近づいてくる。

 そして私のほっぺをぺろぺろと舐めた。

「ふふ♪ メイったら、くすぐったいって」

「……………………」

 メイは私のほっぺを何回も舐め、そして私とカンナの間に割り込むかたちで、布団の中に潜り込んでしまった。

 カンナの顔を見る。彼女はかわいらしい寝息を立ててる。

「……私も、ほっぺくらいなら、別にいいよね?」

 私は身を乗り出して、カンナの頬に自分の唇をつけた。

 私の唇に、カンナのしっとりとしてて暖かい肌の感触が伝わってくる。

 初めてのキスだった。

「おやすみ、カンナ」

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