社畜、任務を果たす


魔力を使うと自分の思ったものに形を変える……か

俺はそう思いながら片手剣と化したナイフを見る。


「は! これは飛んだぶっ壊れ武器だな」


はっきり言ってこれはやばい。

ただでさえやばい魔導武具アーティファクトの中でも一線を越していると思う。


普通の魔導武具の能力は魔力を消費しない。

それでいて投げたものが帰ってきたり、無限に火球を打てたりと言ったスキルじみた力を使える。

だからこそ、魔導武具はとても強く、それでいて希少なのだ。


それに比べてこの魔導武具は魔力を消費する。

能力は思ったものへと姿を変える……ということ。

魔導武具の中には二つの能力を持ったものもあるがそれを入れてもこの性能は頭おかしいレベルで高い。

魔力を消費するなんでどうでも良くなるレベルだ。


考えてみればよくわかる。

さっきまで片手剣で戦っていたのに急に銃などに姿を変えて遠距離で攻撃してくるようなものだ。

さらにそれは魔力がある限り何度でも入れ替えることができる。

言うなれば無限にも思える攻撃手段。


それは敵を惑わせる。

さっきは剣だった、継はなんなのだろうか。

もしかしたら銃、いやそのままかもしれない。

急に攻撃が変わるその恐怖は計り知れないものだろう。

それに気づいたからさっきの男はそう叫んだのだろう。


確かに敵からしたら脅威でしかない。

だが、今は俺の手元にある。

しっかりと先頭に役立ててみせる!


「合体獣キメラァ! さっさとそいつを殺せぇ!!!」


「グァァァァァァァァ」


男の指示に従い、合体獣は大きく拳を振りかざす。

俺はそれを下に避け、合体獣の腹の部分に出る。


「さぁて、デッカいの行くぞっ!」


俺は合体獣キメラに向けて魔力を込めて拳を放つ。


「グォッ……」


合体獣に大きな衝撃が駆け巡る。

だがしかし、それを合体獣はなんとか耐える。

ふと、合体獣の顔を見ると、苦しんでいるようだがニヤリと笑った。


おぉ、すげぇ、俺が今扱えるありったけの魔力を拳に込めてぶつけたのに耐えやがった。

ニヤリと笑っているのも耐え切った!

という、達成感があったからだろう。


「確かにこれを耐えたのはすごい……だがーー」


「?」


合体獣の顔に困惑の色が出る。


「2発目は耐えられるかな?」


その次の瞬間、合体獣にさらなる衝撃が走り、ダンジョンの壁までぶっ飛んだ。


「ふぅ、使えるようになったがまだ2発目の発動が遅いな……」


「なんだ貴様……一体何をしたァ!」


「圧縮だ」


「……圧縮……だと?」


「あぁ、魔力の圧縮、それによる2回攻撃! 安直だが名付けるなら二十の衝撃……二重の衝撃ダブルインパクトだ」


あぁ、めっちゃ恥ずかしい!

ノリで言っちゃったがまじで恥ずかしい。

黒歴史だ!

爺さんに言ったら絶対笑われる。

よし、黙っとこう。

絶対に爺さんには黙っとこう。

でも、まぁ魔力の2回攻撃って名前長いし丁度良かったかもな。

……ちょっと厨二くさいけど。


と、そんなことは一旦置いといて戦いに集中にしないとな。

大ダメージだと思うがまだ、合体獣アイツは生きているからな。


俺はスキルで確認しながらそう思った。





ーーーー



レリックside



なんなのだろうか、アレは……

私はもう一体の合体獣キメラと戦いながら考えていた。

さっきのストによる攻撃、アレは間違いなく2回攻撃だった。


現にストが何やら格好をつけながらそう言っていた。


「魔力の圧縮……」


私にそんなことができるだろうか。

いや、出来ない。

私のスキルがいくらストのよりも高位のものとはいえあの芸当はできない。


それに加えてあの片手剣。

さっきまでナイフだったのに大楯、片手剣と姿を変えていった。

私のスキルに似ているがストのスキルは魔力操作だったはずだ。

動画でも言ってたし。

ていうか何をしているんだろうストは。

自分からスキルをばらすなんてバカなんじゃ……?


まぁいっか。

真面目に考えていてもめんどくさいし。

もうストは、そういうものだってことでいいや。


ストは迷路とかそう言ったものをすぐに解いてたし、私よりも先に攻撃パターンに気付いてたし頭がいいんだろう。

これなら私がゴロゴロする良い方法を考えてくれるに違いない!


そうやって私は半ば投げやりに思考を放棄した。



ーーーー




合体獣キメラがぶっ飛んだことを確認した後、ふとレリックの方を見るともう一体の合体獣を切ったところだった。


どうやらレリックも終わったようだ。

そう思いながら見ているとレリックがこちらに気づき、話しかけきた。


「どうする?」


「うーんどうする?」


今悩んでいるのは男をどうするかだ。

俺たちは今男の前で話しているのだが合体獣がぶっ飛ばされているの見て既に戦意を喪失している。


「ハ、ハハハ。私はもうおしまいだ……ハハハ……」


と、もう諦めている。

演技をしているようでもないしどうやら本当のようだ。


「こんなんだし多分戦闘手段持ってないよね」


「だよね。武器の類もないし」


レリックはそう言った。

レリックは多分と言わずにそう断言しているからそれについてわかるんだろう。

スキルも武器関係っぽいし。


「殺す?」


レリックが俺にそう聞いてくる。

どうだろう。

爺さん的には連れて帰ったほうがいいんだろうけど。

流石にそう簡単に運べないしなぁ。

転移は使えないし……


「ちょっと爺さんに確認してみる。レリックは合体獣キメラにトドメをしておいて」


「わかった」


俺はレリックが頷いたのを確認すると爺さんに電話をし、事情を説明した。


『ってことでどうするよ爺さん。潰したはいいもののラスボスは連れて変えるか? それとも殺す?』


『そうだな。こちらとしては組織について調べたい。車を送るから連れてきてくれ』


『りょーかい』


「レリック、連れて変えるってさ」


「わかった。よし、これでゴロゴロできる……」


おいおい、どれだけゴロゴロしたいんだよ。

いやわかるけどね?

ゴロゴロしたい気持ちは十分わかるんだけど。

俺は苦笑を浮かべながら男を縄で縛り、ダンジョンの入り口に来た迎えに乗せてそのまま本部へと向かった。

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