ストレス発散のためにモンスターをフルボッコにしていた社畜、超人気配信者によって拡散される〜初ダンジョンだから知らなかったけどボコしたやつはSS級モンスターだったらしい〜

トラさん

社畜、ダンジョンに潜る

「俺が見ることができるのは終電が通り過ぎるのを見るだけなのか……」


深夜の駅、終電が出発した。

これを見るのは一体何度目だろうか……


「はぁ、いつもの通り歩いて帰るか……」


なんでタクシーとかを使わないのかって?

そんなの決まってるだろう、金がないからだ。

日々命を削って働いていると言っても過言ではない。



「流石にサビ残月三百時間越えで残業代無しはきついわ……」


愚痴りながらビル群を歩いていると、ビルについている大型の画面の言葉が目に入った。


『あなたも、探究者になりませんか?』


「探究者……ねぇ?」


探究者、それは数年前にできた新しい仕事だ。


数年前、突如として全世界に巨大な地震が襲った。

長い地震だった、おそらく数十分は続いていただろう。


何が起こったのか、そう全世界の人々が思った。

原因が判明したのは数日後だった。

地震の原因、それは簡単だ。

出てきたんだ……地面から。


それはレンガのような建材で建てられていた。

日本政府はそれを調査しようと特殊部隊を送り込んだ。


報告によると驚くべきことに内部は平原のような空間が広がっていたらしい。

さらに、この壁は壊すことができず持ってきた科学兵器も意味をなさない。


研究の末に分かったことは、それはアニメでいうダンジョンだということだ。

なかにはゴブリンやドラゴンなど架空とされてきたモンスターがいた。


対抗手段はない、そう思われたがダンジョンに入ると不思議な力を手に入れることができた。

いわゆるスキルと言ったものだ。


これがあればモンスターにダメージを与えることができる。

また、ダンジョンには資源が大量に眠っていることがわかった。

モンスターを倒すと、大きな結晶のようなものを落とすことがある。


それは石炭の何十倍のエネルギーがあり、さらには二酸化炭素が全く出ないという日本からは喉から手が出るほどのシロモノだった。


そこからの動きは早かった。

ダンジョンを探索し、その結晶、魔結晶を手に入れるために必要な施設、そして法を整備した。


そうして現在、ダンジョンを探索する探索者という仕事は民衆に受け入れられていた。


「ダンジョンには架空のモンスターが多数いて、それを倒すと、魔結晶が出てくると……」


そう、ダンジョンについて思い出していた俺に突如として電流が走る!


「ダンジョンならこの膨れ上がったストレスを発散できるんじゃないか?」


こんなブラックな会社で働いてストレスがたまらないわけがない。

だが、発散する機会すらあの会社は奪ってくる。

幸い明日は2週間ぶりの休み……!

やってもいいかもしれない。


そうと決まればすぐに行こう。

こう見えても決断は早い方だ、じゃなきゃあの会社でやっていけない。


「行くダンジョンはどこにしようか……まぁ、近場のところでいいか」


スマホを取り出し、近くのダンジョンの場所を検索する。


「『結晶クリスタルの洞窟』ここが一番近そうだな。よし、行くか」


なんだろう、いつもよりペースが早い気がする。

楽しみなことになると人はこんなにペースが上がるのか。

そんなことを思いつつ、俺はダンジョンに向かって移動した。




ダンジョンは思ったより近く、数分で到着した。


「ここがダンジョンか……なんか洞穴みたいだな」


見た目は完全に洞穴だ。

ただ奥の方は何も見えない、そんな場所だ。


「ん? 入れないな」


入ろうとしてもカードがないと、弾かれてしまう。

カードだと? あったか? そんなもの……


辺りを見回してみるとカード発行はこちら、と書かれた看板があった。


「お、ここか」


看板通りに行くと、一つの機械があった。


「名前を入力してください……西原海斗っと、ん? 探究者名だと?」


自分の名前以外に名前をつけるのか。

それもそうか、そのままだったらプライバシー権の侵害だもんな。


「そうだな〜、よし、決めた! ストって入力して……」


因みにストっていう名前の由来はストレスからだ。

俺がダンジョンに潜る理由がそれだからな、嫌だけど決意を表すっとことで。


もう一度入り口に向かってみると今度はすんなりと通ることができた。


「よし、早速ストレス発散開始だ〜!」


そうして俺はダンジョンの中へ入っていった。


おそらく、いや間違いなくここ数年で一番いい声だったと、俺は思った。


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