第21話 下がりゆく生活の質と見栄を張る私

 妻が入院して一ヶ月が過ぎようとしていた。

総合病院から入院の請求が来る。四日で八万円、、そして精神科の病院からも請求が来る。

額面を見るのも憂鬱であった。貯金はある程度してあったが社会人二年目の収入から見ると決して費用は安くない。


 わたしの生活の質も段々と落ちていった。元々外食など頻回にする方ではなかったが回数はより減った。幸いにも実家が農家であり野菜やお米には困らず、買うものはお肉や魚といった物が中心であった。わたし一人の食事なので食べれればなんでもいいと思っていた。できるだけお金を使わないようにし、その分を別の必要経費に充てる、そんな暮らしを送っていた。


 しかし、妻が外泊をする時にはお金の事で不安を抱えていると思われたくなく、回転寿司など外食を多くし妻が楽しめるよう試行錯誤していた。妻も妻で入院費用など気にしている様子であったが病状を悪くしてもいけないと思い気にしないよう何度も伝える。本当は毎月マイナスの生活になっているがいずれはまた二人して働き元の生活に戻れる、それまでの我慢だと自分に言い聞かせる。


 その頃から、わたしは妻に内緒でギャンブルをするようになった。元々地元では友達と行く程度であったが、学生生活に新社会人と忙しいこともあり何年も行っていなかった。仕事帰り家に帰っても寝るだけだなと考えていると普段は通らない駅の道を通って帰ると明るいネオンに騒がしい音、タバコの香り、気がつくと立ち寄っていた。楽しいのかわたしにも分からない。しかし自分の事でお金を使う事が全く無かったわたしには少し刺激が強すぎた。妻の面会や外泊、夜勤の時以外に行く事が出て来た。あそこにいると辛い出来事から逃れられると思ってしまうようになった。


 暫くすると病院から電話がかかって来た。出ると妻が退院したいと言っているとのこと、妻は任意で入院をしている為病院としては止められないが旦那さんはどうされますか、とのことであった。帰って来てもわたしがずっと見ていれる訳ではない。何かあっても困ると考えたが妻の性格から意見は曲げないだろうと思い退院を承諾した。その日は休みであった為レンタカーを借り妻の元へと向かう。片道約一時間の道のりがとても長く感じた。迎えに行ってしまうと悪い時の妻が出てくるんではないだろうか、本当に家に残して大丈夫なのだろうか、今になり不安感を覚えた。そのまま病院へつき精算をし病棟に迎えに行く。沢山の看護師さんに見送られ病院を後にする。

「もうこんな事にならないようにするからね」

と妻が車の中でわたしに話す。わたしはうなづく事しかできなかった。


元々今日は妻の浮気相手と会って話をする予定があった。


その事は妻には秘密にする。下手に刺激を与えない方がいい。わたしとその男で話をすればそれで解決する。そう考えていた。


そう、会うまではそう思っていた。

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