物静かな大型犬っぽい後輩をかわいがっていただけのつもりだったのに、本気で惚れたし愛でられています
瑪瑙茉莉絵
舌ピ開けてる後輩と自然な流れでキスに持っていきたい!
「あ、やば」
「ん?」
それは食事中のことだった。いつも通り、雀斗と一緒に昼食を摂っていた。オレは適当に詰め込んだ弁当を、雀斗は同じく弁当だったりどこかで買ってきたものだったり日によってバラバラだが、それを初めに出会った場所で食べるのが日課だった。
今日もそれに違わず、4限終わりの昼休憩に、学生たちの喧騒から少し離れた静かな場所で昼食を食べていた。オレも雀斗もあまり食事中に喋るタイプではなく、遠くから聞こえる学生たちの声をBGMにしながらの昼食にも慣れてきた。
そんなとき、雀斗が声を出したのだ。焦った様子で。
「どした?」
「や、なんれもないんすけろ、……」
口元をもごもごさせながら、雀斗はそう言ってくる。
「なんでもないこたないだろ。終わってから?でいいからちゃんと言えよ?」
口に物を入れたまま喋るタイプでもないから、なにか……なにか、食べ物ではないなにかが口にあってどうにかなっているのだろう。考えても何もわからないが。
「なに? 歯抜けたの?」
「……キャッチっす。舌ピのキャッチが取れて」
「は!? おまえ舌ピ開いてんの!?」
あれ、言ってなかったっすか、と口の中からキャッチを取り出して締め直す雀斗に、言ってねーよ、と返す。
「ほら、こんな感じっす」
「わ、うわ〜、すげぇはじめてみた」
べ、と舌を出してオレに見せてくれた雀斗の舌をまじまじと見る。丸い銀色のピアスが、舌の真ん中に輝いている。
「こんなの開けるタイプだったっけ」
「まさか。耳も開いてないっすよ、俺」
「じゃあなんで」
言うとおり、雀斗の耳にはピアスがないし、イヤリングをつけているところさえも見たことがない。オレの偏見では、舌にピアスを開けるようなやつは大抵耳にも開いているし、雀斗が嬉々として舌にピアスを開けているところの想像がつかない。理由が全くわからない。昔やんちゃしてたなら耳にも開いてておかしくないだろうし。昔付き合っていた彼女(もしくは好意を寄せられていた女の子)に開けられたんだとしたら若干嫌だけど。
「……泥酔した次の日、鏡見たら開いてたんすよ」
「まじで? かわいいな」
髪から覗く耳がほんのり赤く染まっている。雀斗からすると恥ずかしい過去なのだろう。うわ、かわいい。
「うるさいっすよ。手入れも面倒だし、開けて損しかない、後悔しかしてない」
「そーいうもんなん? オレ開けてみたいんだけどな」
「舌にすか?」
「耳。痛そうで嫌じゃん」
そう言いながら、なんとなく自分の耳たぶを触る。穴なんてひとつもない。イヤリングとイヤーカフはついてるけど。
「俺が開けてあげましょうか」
雀斗は身を乗り出してきて、オレの耳に手を伸ばそうとする。その手を掴んで阻止した。
「べろべろに酔った挙句、自分の舌にピアス開けるやつには任せらんねーっての」
「酔ってなけりゃ器用ですよ、俺は」
まだ引き下がるのかこいつ。掴まれた手を、反対の手で握り返してきた。若干呆れて、ため息をひとつこぼす。
「……まあ、一応考えとくわ」
雀斗もなぜかどうにか納得したらしく、手を離して身体を定位置に戻した。オレもひと呼吸ついて、忘れ去られた昼食に向き直った。
「ん? 時間やばいかも」
スマホの画面に表示されている時間は、休憩が終わる十分前を示していた。少しだけ食べるスピードを速める。
隣の雀斗はというと、いつのまにかすでに食べ終わっていて、片付けの段階だ。ほんといつ食べたんだよ。ひと口がでかいからか? そもそも食べるの遅くなった原因のひとつは雀斗にあると言っても間違いではないじゃん?
じと、と抗議の意味を込めて雀斗の方を見つめていると、視線に気づいた雀斗が微笑んできた。ちげーよ。
ハァ、と色々諦めて食事に意識を戻す。半分くらい食べたし、次の休みのときでもいいような気がしてきた。なんか食べるの疲れたな……。
弁当箱を袋に戻しながら、この短時間でもううとうとしはじめている雀斗に目をやる。舌ピアスって、食事に集中できなくて邪魔じゃねぇのかな。
なんて疑問を浮かべながら、雀斗を起こし、それぞれ講義に向かった。
***
「なぁ、舌ピってどうなん?」
「どうってなんだよ。耳も開いてないやつがいきなり舌にいくのか?」
「ちげーよ、なんかふと思っただけ! 食べる時邪魔じゃねえのかなーとかあんじゃん」
講義終わり、一緒に講義を受けていた友人に先ほどの疑問をぶつけてみる。交友関係が広いやつだから、舌ピが開いてるやつのひとりやふたりいるだろう、と踏んでの質問だ。
「またなんか見たんだろ。影響されやすいもんなぁ菖蒲くんは」
「うるせぇよバカにすんな! 別になんも見てねえし!」
「そういうことにしといてやるよ。で、舌ピな」
「実際どうなんかなーって。口内炎みたいなもんじゃねぇの」
「いや、どう考えても口内炎みたいなもんではないだろ。……慣れるまでは飯も飲み物も面倒らしいけど、なによりもキスが気持ち良いって評判いいんだってさ。ま、それも人によるらしいけど。イケメンが言ってた」
「イケメンが言ってんなら間違いねぇな」
じゃあ俺これからバイトだから、と軽快に去っていった友人を見送って、直前の会話に思考を戻す。
──オレと雀斗はいわゆる恋人同士、だけど、そういう関係になったのはつい先日だ。だから、雀斗とキスをしたのは一回だけだ。それも、軽い、触れるだけのやつ。どんな感じなのか、気にならないわけがない。
……ハァ、今日暇か聞いてみるかな。
***
「なんすか先輩、用事って」
1日の講義が終わった昼とも夕方ともいえない時間帯、正門前。普段は昼以降会わずに解散するため、先に雀斗にメッセージを送っておいて帰るのを待ってもらった。今日バイトがないことは確認済みのため、きっと暇なはずだ。
「いや……用事ってほどでもねぇんだけどさ」
冷静になると『キスしたいんだけど、場所ねぇし家行っていい?つか来る?』はやばくないか? なんか……言葉にしたくないが、よくない気がする。他の理由を考えた方がいい。
「先輩?」
「晩メシを……作ってやろうかなって……思って」
「えっまじですか!? めちゃくちゃ嬉しいんすけど、冗談じゃないっすよね?」
家に上がっていい理由が思いつかなくて、頭をフル回転させて出てきたのが料理って、それもどうなんだ。オレ、別に料理得意じゃねぇのに。
「……ごめん、ちょっと嘘。おまえん家行ってみたいなーって思ったから、理由つけただけだ。メシは……作ってほしいなら作るよ。大したもん作れねぇけど」
このまま料理を作りに行くことを目的にしてしまうと、オレが痛い目を見そうというか単純に雀斗に申し訳なくて、正直に言ったはいいが、これもやっぱりダメだったんじゃないか。付き合って……数日で、家に行きたいって言うの、あんまり……よくないというか、なんか……『そういうこと』を強めに意識してそうでヤなんだけど。
「本当っすか? 先輩と過ごせる時間が増えるなら理由なんてなんでもいーっすよ。帰りスーパー寄っていきましょ」
……雀斗が、純粋に喜んでるから尚更。もしかして変な風に捉えてるのってオレだけか? 普通なのか?
考えこんだところで答えは出ないし、むしろ迷宮から出られなくなりそうなので思考をシャットアウトすることにした。
オレは雀斗の家に行ってご飯を作って、ついでに舌ピアスを確かめる。よし。
「何食いたいとかある? がんばるわ」
逸らし気味だった目を合わせようと雀斗の方をちゃんと見ると、雀斗はうすく笑みを浮かべていた。オレと目があって、慌てて口元を隠す。
「なんだよ」
「いえ……かわいいなって」
「どこにそんな要素があったんだよ……ほら、行くぞ!」
***
何が食べたいのかと聞けば、カルボナーラがいいと言ってきて、しかも材料家にあるっすよとか言い出して、じゃあオレらはなんで今スーパーにいんの?
「……サラダとか、作るか」
「栄養的な問題っすね? えらいっすね」
「オレもひとりのときは考えてねぇけど、せっかくスーパーいるし……あと酒も買う?」
「いいっすね。久々に飲みたいです」
適当なカット野菜を買い物カゴに放り込んで、ついでにドレッシングと粉チーズも入れて、早々に酒コーナーへと向かう。
「オレ、あんま飲めないけどいい?」
「全然いーっすよ。何が好きすか」
「甘いやつ」
それぞれ数本、自分が好きなものと相手のおすすめを選んでカゴに入れた。重量を増したカゴを持ってレジに並び会計を済ませて、リュックに放り込む。
「若干重い」
「はは、筋力ないんじゃないすか」
「んなわけねーだろ」
軽口を叩きながらスーパーを出て、雀斗の家へ向かって歩いて行く。雀斗の家はここから十数分のところらしい。
他愛ない話をしていても、どうしても頭の隅にある『舌ピアス』は姿を消してくれなくて、その度にいらないものまで浮かんできてしまう。ああ、もう、今はその妄想はしなくていいんだって! 顔が見れなくなるだろ!
「もしかして今日カルボナーラ作る予定だったのか?」
「……ああ、まあそうですね。今日じゃなくても近いうちに作ろうとは思ってました。消費期限があれだったんで」
「オレが作るっていうか、一緒に作った方が良さそうだな。オレあんま作ったことねぇわ」
「そうっすね。味付けとかこだわってるわけじゃないっすけど、慣れた人がいたほうが楽ですし」
人々の喧騒から離れて、静かな住宅街へと景色が移り変わる。小さな子どもの声がわずかに聞こえる程度で、人の気配もほとんどなくなった。
「いーとこ住んでんな」
「はは、まだ着いてないじゃないすか」
「雰囲気ってもんがあるだろ? 静かでいーとこだ」
「ちょっと大学から遠いすけど、気に入ってますよ」
そう言って、雀斗はオレの手に触れる。とん、と手と手が当たる感覚。
少し思案して、手を握った。会話を続ける雀斗の声が僅かに喜びの色を帯びる。意識していないと気づかない程度のものだ。
……それに比べてオレは、さっきからずっと『舌ピアス』のことを考えていて。もう頭から離れない。男子中学生か、オレは。そもそもファーストキスでもあるまいし。どんだけ興味あるんだよ。
自分に対する嫌悪感でため息が出そうになる。いっそのこと、開き直った方が楽かもしれない。もう考えをそっちに集中させてしまおうか。
……なんて言って切り出すべきか。いや、わざわざ言葉にする必要はないかもしれない。そのまま、こう、雰囲気でイケるかも。
「家着いても、ごはん作るにはちょっと早い時間っすよね。何します?」
舌ピアスが気になって仕方ないからキスしよう。なんて言えるわけもない。言ったら正気を疑われるって。
「玲先輩は、したいことあります?」
「オレ? ……んー、特に思いつかねぇけど。ゲームとかある?」
「ゲーム……は、ないっすね。基本パソコン触ってるんで」
「あ、そういえばちゅん、写真撮ってんだよな? オレそれ見たい!」
「面白いかどうかは保証できないっすけど、いいっすよ」
「やりぃ。ありがとなー」
とりあえず、それらしい提案をしてそれらしい会話はできている、気がする。雀斗の写真が見たいのはもちろん本心だが、それとこれとは話が別で。
自分の視線がたびたび雀斗の唇に向かっているのが自分でもわかる。繋いだ手に汗が滲む。ほんの少し、わずかに力がこもってしまう。ああ、もう。
ぐるぐる考え込みながら、口から適当な会話を続ける自分の器用さに若干驚きつつ歩を進めていると、いよいよ雀斗の家に着いた。アパートの階段を登る。金属製の階段と靴が当たる音が響く。廊下を進んで、雀斗が鍵を取り出して、ガチ、と小さな音を立てながら鍵穴へ吸い込まれた鍵を回して、再びがち、という音と共に鍵を抜いて、扉を開く。
「じゃ、狭いですし散らかってますけど、どうぞ」
「気にしねぇって。おじゃしまーす」
なんでもない風に、ただ友人の家に上がる時と同じように、お決まりの台詞を吐きながら靴を脱いで部屋に上がる。その間も、というか雀斗が鍵を取り出したあたりからオレの心臓がとんでもなくうるさい。どうしたんだよオレ。今まで付き合ってきた女の子の家に上がらせてもらう時でもこんなに緊張しなかったのに。
「冷蔵庫開けていい? 酒なおすわ」
「え?…………ああ、入れるってことすか。いいすよ」
普段抑え込んでいる方言が出てしまうぐらいには、オレの頭はもうキャパオーバー寸前らしい。もう方言がどうとか、オレの出身がどうとか、そんな話もできない。
「俺のも入れといてください。鞄開けていいんで」
「おっけ」
雀斗からリュックを手渡される。……だめだ、顔が見れない。あくまでも自然に、自然に、目が合わなかったことも全然違和感がないように振る舞う。リュックのチャックを開けて、少しだけひんやりしている酒の缶を取り出して冷蔵庫に入れて、……扉を閉める。扉を閉めたら、当たり前だがもう冷蔵庫に用はないから、雀斗の元へ行く必要がある。写真を見せてもらうにしても、何をするにしても、とりあえず家主の近くに行かないのは変だ。
「先輩ー、入れられました?」
「あ、おう。今そっち行くわ」
どうしてか口は勝手に言葉を発しているし、言葉と裏腹にオレの頭的には雀斗の元へ行けるような状況じゃないし、もう顔洗わせてもらうか? そしたら冷静になるか?
「先輩?」
……突然後輩の家で顔を洗い出す先輩はあまりにも嫌すぎる。なるようになる。今更どうしようもない。腹を括るしかない。
深呼吸をひとつして、声の方へ向かった。
「うぉ、ソファあんの」
「ソファベッドっすよ。どうしてもソファが欲しくて」
「ソファベッドか。憧れあるわ」
「……座っていいすよ?」
「え? あ、うん」
深呼吸のひとつやふたつで今までの思考も感情も変わるわけがない。変わらずオレの心臓はうるせぇし、緊張しっぱなしだし、なんなら腕も組んでるし、座るという自然な行動ができずに立ち尽くしている。もうだめだオレは。
まじで開き直った方がいい気がする。早めに打ち明けるか行動に移した方が、絶対恥ずかしさがマシだ。時間が経てば経つほど恥ずかしさは増す。
「……おお、ふかふか」
雀斗の隣……ではなく、人半分ぐらいのスペースを開けて座った。
ああ、もうここからどうしよう。言うにしてもなんて言うんだよ。だからといっていきなりキスし始めるのも嫌だ。がっついてるみたいだし。
というかそもそも、オレは『探究心』でキスがしたいわけだ。じゃあこんなに照れる必要もないんじゃないか。好奇心なんだから。
いや、それとこれは話が別で、たとえ理由が好奇心だろうと性欲だろうと好きなやつとキスをするという行為は何をどうしたって恥ずかしくなるもんだろ。慣れた相手でもないのに。後輩なのに。
そう、オレ先輩だし。余裕見せたいのに。
「れいせんぱい」
雀斗がオレの名前を呼ぶ。いつもよりほんの少し低い声で。左手をオレの隣の空いた空間に置いて体重をかけ、身体を寄せてくる。
「な……な、に?」
自分の声が上擦ったのがわかる。微かに熱かった耳にずっと気付かないふりをしていたのに、どんどん熱が集まってくるのがわかる。
もう、こんなの余裕ないって言ってるようなもんじゃん。それどころか『期待してる』って言ってるようなもんじゃん。
「このあいだ告白して、恋人同士になって、そのときはただそのことが嬉しかったんすけど」
聞いたことのない甘い声で、オレの右手に指を絡めながら続ける。
「二人きりになって、そんなかわいい顔されたら俺、勘違いしちゃいますよ」
きゅ、と絡めた指に力が込められる。整った雀斗の顔には、いつもの淡々とした余裕はないように見えて。
顔を首元に寄せられる。驚いて肩が跳ねた。雀斗はそのまま、れいせんぱい、とやさしく囁く。
まずい、これはちょっとよくない! 嬉しいし全然嫌じゃないけど、そうじゃなくて、ちょっと待ってくれ!
「ちゅ、ちゅん?」
ひとまず冷静に、渾名を呼ぶ。名前で呼んだら、そのまま進みそうだと思ったから、ふざけた呼び名を使った。
「……冗談っす。かわいい表情してるのは本当っすけど、急ぐつもりもないですし、怖がらせちゃったならごめんなさい」
オレの首元に顔を埋めたまま、雀斗はそう言った。その声はいつも通りの気怠げな声色にもどっていた。
……もしかして、この体勢だと緊張しっぱなしで早鐘を打ちまくっているオレの心臓の音がバレるんじゃないか?
「えーっと、なんつーか、その、全然嫌じゃなかった、んだけど、それはおいといてさ」
家に招いた恋人の挙動が不審で、耳も赤くて、となればそれはつまり『そういうこと』に発展しても全然おかしくなかったわけで、それでも雀斗はそこまでで止めた。加えて怖がらせてしまっていたらごめん、と謝ってくれた。実際、雀斗の方が体格がでかいし、力も負けてるし、体術を習ってるわけでもないから、抑え込まれたらオレはきっと逃げられないだろうし。
それじゃあ、オレも誠意……果たして誠意なのかこれは? まぁその真偽は置いておくにしても、ちゃんと、応えなきゃいけないと思った。だってオレは、自覚ができるぐらいには変な振る舞いをしていたわけだから、その理由ぐらいは話さなきゃいけない。
例えそれがめちゃくちゃ恥ずかしい理由でも!
「……あの、ここまでの道、つーか、正門前で会った時から、オレの様子おかしかったじゃん?」
「まあ、いつもとは違いましたね。そわそわしてるというか」
雀斗は顔を上げてオレを見る。さっきまで雀斗の顔は首元にあったから、ものすごく距離が近い。ああ、心臓に悪い。
「でさ、その理由なんだけど、話していい? 笑わねぇ?」
「笑いませんよ。話してください」
きっと笑うだろうけれど、これはもうお約束というやつだ。オレは今から、しょうもないことを話しますよっていう前振りだ。
雀斗の手が絡んでいる左手を表に向けて、ちゃんと手を繋いだ。ぎゅ、とほんの少し力を込めて気合を入れる。
「し、舌ピアスしたやつとの、」
「はい、」
恥ずかしさに思わず目を逸らしかけて、慌てて視線を戻す。きっとオレの顔は真っ赤だし、情けない表情をしているだろう。
こちらを見つめて離さない、雀斗のうすい茶色の瞳が熱を帯びている気がした。
「キスが気持ちいいって、聞いたから……その、」
「それは、俺じゃなくてもいいんすか?」
オレを遮って、雀斗は答えなんてわかりきっているだろう質問をする。
繋いだ手が汗ばむのを感じる。耳がじわじわ熱くなっていくのも。
「……雀斗とがいい。雀斗とキスが、」
したい、という言葉は、合わさった唇のなかに溶けてしまった。
〔 丸く輝く、魅惑の 〕
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