第31話 レンベルティン解放作戦の下準備

 レンベルティンの街を解放して勢力下に置けば、当座の間の皇族派への牽制になる。

――と言うことでユーディン率いるペガサス飛翔騎兵隊の精鋭3名+俺達が偵察に赴くことになった。俺は実戦経験が無いから、こう言う所から経験を積んで行かせるとネイ将軍も言っていた。


「隊長、ちょっと質問して良いでしょうか」

朝、まだ薄暗い時。

シーウンの街の上の空を飛びながら、俺は偵察部隊の隊長のユーディンに訊いてみる。

「何だ?」

「基本的なことかも知れなくて恐縮ですが、どうして敵にはペガサス飛翔騎兵がいないのですか」

精々、飛竜という、ペガサスよりも機動力も持続力(航空能力)もない小型の竜をわずかに飼い慣らしている程度だと聞いていた。

「神馬であるペガサスが忠誠を誓うのが『女神に認められしロースタレイ皇帝』の兵のみだからだ。それ以外の者が騎乗を試みると振り落としたり蹴り殺そうとしたりして、酷く暴れてしまう」

今はユーディンも偵察部隊の隊長として威厳のある態度なので、俺もため口は利かないように気をつける。

「皇女殿下こそが真の次なる皇帝陛下だと、女神がお認めなのですね」

「そうだ。少なくとも我らがロースタレイ帝国ではそう伝わっている」

「……どうして貴族派や皇族派は皇女殿下に刃向かうのですか?」

「貴族派は愚かしいほどの血統主義故に、側妃の子である皇女殿下を何一つお認めではない。皇族派はそれに輪をかけた血統とスキル至上主義だ。皇女殿下は才覚ある者や実力のある者であれば血統もスキルも構わず取り立てて下さる。連中とは絶対に相容れることは無いだろう」

なるほど。

……これから偵察に行く先は、アザレナ王国みたいな連中が支配する先ってことか。

「納得できました。ありがとうございます」


 レンベルティンの街の上空にやって来た時、ガルムとフェンリルが異変に真っ先に気付いた。

「臭い!」

「毒!これ、ペガサスの毒!」

街のあちこちから立ち上る炊事の煙から、妙な甘い香りがする。

「何だと!?」とユーディンも驚愕した瞬間、ペガサス達が口から泡を吹いて嘶いた。「っ!撤退だ!」

しかしペガサス達はよろめくように街の中に落ちていく。

「フレスベルク!ニーズホッグ!」

俺とフレスベルクとニーズホッグは、どうにかユーディン以外の3人を拾った。だが、その間にユーディンが街の中へと落ちてしまう。追いかける俺達めがけて、城壁や物見の塔からこれでもかと弓矢が飛んできた。フレスベルクとニーズホッグの巨体に幾本か突き刺さった。

「撤退しろ!」

そう叫んだ直後に、ユーディン本人は街の中の泉へと落下して派手に水しぶきを上げた。

「おい!――手を!!!」

「う……ぐ……」

落下の衝撃で体を動かせないようだ。

なおも下降してユーディンを拾おうとした俺達を3人の叫びが押し止めた。

「――撤退だ!」

「撤退するんだ!」

「我らは、情報を生きてもたらさねばならない!」

「絶対に生きて帰るのだ!」

……『時間停止』を使ったとしても、この状態じゃ俺まで街の中に閉じ込められるだけだ。

俺一人の時間しか止められないことを本当に悔やんだが、それ以上に迷っている暇が無かった。

「戻るぞ!」


 俺の呼び声でフレスベルクとニーズホッグは高々とレンベルティンの街の上空へと舞い上がり、まっしぐらにシーウンの街めがけて空を突っ切った。

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