第25話 『支配』された街
シーウンの街に戻った後、ガブリエルに訊いてみる。
「レンベルティンってどんな街なんだ?」
ガブリエルの顔がサッと曇った。
「レンベルティンは……奴隷の街です」
「奴隷って……!?」
ロースタレイ帝国には元から奴隷制度は無かったはずだ。アザレナ王国でも200年前ほど昔に奴隷制度は廃止された。
「8年前までは普通の、帝国東方の平和な街だったと聞いています。8年前に帝国の両陛下が病で身罷り、帝位継承戦争が始まるまでは……」
「皇太子が、レンベルティンの街に……何をした?」
ガブリエルはちょっと黙ってから、
「レンベルティンの街の住民全員を『支配』したのですよ。『支配』は必ず不満を産む、その不満の矛先を向けるための『奴隷』にするために。デズ卿は……その街の出身だと聞いています」
「……」
ドアがノックされて、ガブリエルに渡す書類を手にしたデズ卿が部屋に入ってきた。
きっと補給物資の手配業務をまたガブリエルに頼みに来たんだろう。
「あの、レンベルティンの街って……」
俺が口にすると、デズ卿は慇懃無礼な態度はそのまま話してくれた。
「君達はさぞや不思議に思ったでしょう、軍事費について渋ることが多い私が快諾したのですから。
――私はゲマトリウス様がレンベルティンの市長夫妻に託した孤児でした。二人とも厳格な人で散々に私はしごかれて育ちました。でも不満は無かった。レンベルティンの市長夫妻には愛娘のセレナ嬢が一人いまして、私は彼女の所に婿入りするはずだったから」
嫌な予感がした。
「気が弱い人で何かあるとすぐ泣いてしまうような女性でしたが、私は心から愛していた。今でも愛していますし、彼女も私を正真正銘に愛してくれていた。嘘偽りなく『幸せ』でした。
私が貴族派との折衝を頼まれて出かけた8年前のあの日に、皇太子率いる皇族派の軍団が攻め込んでくるまではね」
「『支配』……されたのですか」
苦いものがこみ上げてくる。
「ええ、全員。男は闘技場で殺し合う闘奴、女は娼婦にされました。使えない老人と子供は処分されていました。一人の例外も、慈悲もなかった」
「どうにかして、救えないのですか」
「もしかして……君達は『支配』の側面を知らないのですか?」
俺は頷いた。
「一度『支配』したら解放できないのですよ。それこそ死を以てしか、ね。実証済みです」
洗脳と淫紋と常識改変と人格排泄の合わせ技……みたいなものか。
「私は、セレナを含めたレンベルティンの街の住民を全て救いたい。
元々は、そのために議会派を掌握したのですからね」
軽やかに言って、デズ卿はガブリエルに書類を渡して去って行った。
――俺には、その背中に怖いくらいに孤独と絶望と憎悪の影が落ちているように見えた。
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