第17話 恐怖と感覚遮断
「皆、悪い知らせを伝えねばならぬ」
「――どこぞの街が陥落しましたか」
デズ卿が忌々しそうに呟いたのに、皇女殿下は頷く。
「叔父自らがディッガダッカの港町を攻撃したそうだ。あの巨大な港湾都市が『恐怖』で混乱状態に陥った」
「難民はどれほどで?」
「……ほんの数十名……」
皇女殿下がそう言って黙った瞬間、議会派の何人かが鋭い悲鳴を上げた。
「ディッガダッカには私の親戚がいるのです!まだ成人していない子供達も、」
「運良く逃れた者以外は一人も余さず、さらし者になっておるそうだ」
「あ……ああ……っ」
そのまま彼らは青い顔をしてへたり込んだ。
女子供相手に酷いことをしやがる……。
「……。食事会は中断し奪還作戦の計画を練りたい。済まないが料理を片付けてくれ」
ディッガダッカの港町。議会派の主要拠点の1つだった。シーウンの街のほぼ南西に位置するマール大海の要衝で、ここを奪われると、シーウンの街を拠点とする議会派勢力のほとんどの補給及び連絡路が圧迫されることになる。
占領している軍隊の数は3000もいないそうだが……問題は指揮官だった。
皇帝の弟にして『恐怖』のクロディアス・ユトラキア・エム・ロースタレイン。
敵兵に『恐怖』を与えて大混乱させ、そこを一気に壊滅させる戦法で、凄まじい戦果を上げてきた。
「此奴に立ち向かえたのは『支配』で兵の自我を奪った兄の軍隊のみだった」
でも自我を奪った軍隊なんて大して使い物にならなかったので、その時は数に押されて撤退しただけだと言う。
「今までは叔父がいない部隊を各個撃破してきたのだが……」
皇女殿下は唇を噛んだ。
「兵糧攻めは?」
1人が提案したが、
「ディッガダッカの港町にある物資の量を考えよ。3000の少数兵で来たならば2年は籠城も出来ようぞ」
「クソッ!」
「それも狙っての皆殺しか!」
親戚をさらし者にされた何人かが我を忘れて頭を掻きむしり床や壁を殴りつけた。
「失礼します……籠城している兵種は?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「歩兵2000と騎兵が1000だ。後は軍船が少し」
「奪還作戦と言うことはディッガダッカの港町施設に損害がない方が良いんですよね?」
「……部外者が何をッ!」
怒りと悲しみを俺にぶつけようとした者をデズ卿が素早く制した。
「トパーリン公爵家は武門の名家、彼も武人としての教育を受けている。――そうですね?」
……優秀な兄と妹に挟まれて、家族からは完全な『出来損ない』の扱いだったけどな。
「実戦経験はありませんが。ペガサス飛翔騎兵による奇襲を提案します」
血走った目があちこちから俺を睨んだ。
「『恐怖』がそれを許さないのだ!それさえ出来るならば既に行動している!」
「あの……軽蔑しないで下さい」
「「「「「……は?」」」」」
「俺のスキルの中に『感覚遮断』ってのがありまして。そのー……あのー……本来はどすけべなことに使うスキルなんですが」
デズ卿達は呆れたように、
「何ですそのいかがわしいスキルは。……で、『恐怖』を遮断すると?」
やっぱり軽蔑された……。
畜生、そうだよな!
絶対に軽蔑されるんだよ、もう諦めろよ俺!
どう足掻いたって、俺にあるのはどすけべ系スキルだけなんだから……!
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