【一話完結】雪降るクリスマスの夜は、寒くて温かい

果物 太郎

雪降るクリスマスの夜は、寒くて温かい

 クリスマスの夕方、高校二年生の俺――元本新太郎もともとしんたろうは、カラオケの多人数用の一室で、三人の男子と一緒にソファに横一列になって座っている。ちなみに、テーブルを挟んで向かい側のソファには、誰も座っていない。

 そして、カラオケにいるというのに、誰も歌わず、一人を除いてこの場にいる全員が緊張した顔をしている。もちろん、俺も含めてだ。


 さて、なぜこのような状況になっているのかを説明しよう。話は冬休みに入る直前、終業式の日まで遡る――



 終業式と帰りのHRが終わり、俺が部活に行くため、教室から出ようとすると、一人の男子から話しかけられた。


「元本ストップ!少し話があるんだけど、良いかな?」


 こいつは新城翔琉しんじょうかける。俺のクラスメートで、サッカー部のキャプテンをしているイケメン。入学当初はイケメンという理由から女子たちからモテていたが、性格がかなりチャラいため、今では恋愛対象としての人気は少ない。しかし、チャラいところを抜けば、普通に良いやつなので男女問わず友人は多い。

 俺も友人の一人であるのだが……


「なんだよ。ニヤニヤして……気持ち悪いぞ。」

「そりゃあだって、クリスマスに合コンを開くからな!可愛い女の子たちとクリスマスを一緒に過ごせる……最高だろ?」

「こいつ、チャラいからってより、純粋に気持ち悪いからモテないのでは?」

「おーい、心の声が漏れているぞー?」


 おっと、俺としたことが、失敗失敗。


「それで、まさか俺を合コンに誘うんじゃないだろうな?」

「そのまさかです!クリスマス予定が無いって言ってただろ?」

「お前……俺は行かないぞ?」

「なんで!?女の子と仲良くなって良い雰囲気になるチャンスだぞ!?」

「いや、普通にめんどくさいし、お前の理由は気持ち悪いし。」

「ナチュナルにディスられた!?」


 そもそも、高校生で合コンって……どれだけこいつは女に飢えているんだ?


「それに……俺みたいな眼鏡より、他にも人はいるだろ?」

「いやー、それが今回の男のメンバーは、全員運動部のキャプテンにするつもりでさ。」

「あーそれで、卓球部のキャプテンである俺を誘ってきたわけか。」


 そう、俺は卓球部のキャプテンをしているのだが、まさかそれで合コンに誘われるとは。


「ちなみに、女の子たちは水ノ宮だぜ!」


 新城がニヤリと笑みを浮かべる。


「はっ!?水ノ宮ってお嬢様学校じゃねーか!」

「そうだぜ!華のお嬢様たちと合コンが出来るんだ!どうだ?行きたくなっただろ?」

「いや、そもそもどうやって女子校の子達を誘ったんだよ……」

「妹を使った。」

「クズかよ!」


 合コンのメンバー集めに妹を使うとか、兄として失格なのでは?

 それにしても、水ノ宮か……確か、がいる学校だったな。


「それで、どうだ?参加するか?」

「いや、めんどい。代わりにうちの副キャプ貸すわ。」

「いや、あいつ彼女持ちだろ。」

「そうだった。チッ!使えーねな。」

「お前も大概だな……」


 その後、結局新城に押し切られた俺は、合コンに参加することにした――



 それで今に至る。

 俺は今、カラオケのソファの端っこに座っており、カラオケマシンから離れた位置であり、出入り口に近い位置にいる。

 横を見てみると隣に座っている新城は、女の子たちに会えるからなのかニヤニヤしている。その奥では、俺と同じく新城に誘われた野球部とバドミントン部のキャプテン二人が緊張した顔をして座っている。てか、野球部のキャプテンって女の子苦手じゃなかったか?大丈夫なのか?


 そんなことを考えていると、テーブルの上に置いてある新城のスマホから通知音が鳴った。


「おっ、女子たち着いたってよ!」


 新城のウキウキとした言葉に、俺たちはより一層緊張をする。


 それからほどなくして、部屋の扉が開き、私服姿の女子四人が入ってきた。ちなみに、俺たちも私服であるのだが、その内の一人を見て俺は目を見開く。

 その女の子は、青みがかった黒髪ロングで、ぱっちりとした目に収まるその瞳は、髪と同じく青みがかった黒色をしており、いわゆる童顔であり、かなりの美少女である。服装はブラウンのコートを羽織っており、その下には淡い水色のワンピースを着ている。そして、コートよりも明るめのブラウンのカバンを肩に掛けている。

 しかし、美少女なのだが、俺はそこに驚いたわけではない。そもそも、他の三人もかなりの美少女、美女なのだから、そこは問題ではない。

 ならなぜ、俺が驚いているのかというと。


「なー、もしかして……優華ゆうかか?」


 新城促されて、俺の目の前に座った女の子に俺は思わず聞く。

 すると、その子はニコッとした笑顔で答える。


「そうだよ。ひさしぶり、。」


 俺の中で、疑惑が確信に変わる。


「なんでお前がここに……?」

「さあ?なんででしょうね?ふふ……」


 困惑する俺に対して、優華は心底楽しそうに笑う。

 そんな俺たちのやりとりを見ていた新城から質問が飛んできた。


「もしかして、知り合いか?」

「あ、あーそうだよ……」

「うん!幼馴染みです!」

「え!幼馴染み!?」


 優華の幼馴染み宣言に新城が驚きを顕にする。他のメンバーも各々驚いている様子。

 それは置いといて、そう、この女の子――清水優香は俺の幼稚園からの幼馴染みであり、俺のことを「しーくん」と呼ぶ。しかし、中学のときの起きたとある一件で疎遠になっており、家は近いものの優華が通う水ノ宮高校がそれなりの距離にあるため、朝に会うこともないし、連絡すら取り合っていない状態になっていた。

 そんな優華と、まさか合コンで再会するなんて……


 それから、調子を取り戻した新城の司会のもと、合コンがスタートし、それぞれ、向かい側の相手と話すという構図が出来上がった。

 つまり、俺は今、テーブルを挟んで前に座っている優華と話している。


「それにしても、しーくんがまさか合コンに参加するなんてねー。」

「それはこっちのセリフだよ。まさか優華が合コンに参加しているなんて。」


 幼稚園の頃から優華は、おとなしくて、あまり外に出ようとせず、家の中で遊ぶ女の子だった。中学生になってからも、その容姿から男子に遊びに誘われても断り、俺の部屋でおとなしく本を読んでいた。

 そんな優華が合コンという男女が出会いを求めて行うものに参加していることに俺は驚いていた。

 そんな俺の様子を見て、優華は楽しそうに笑う。


「んー、意外とみんな行ってるよ?女子校って本当に出会いがないから、自分から動かなきゃダメだからね。」

「あー、つまり、お前も出会いを求めているってわけか。」

「いやー?別に出会いはもういらないけど?」


 ん?どういうことだ?あの優華がとうとう恋愛に興味を示したのかと思ったら、出会いはいらないって?


「じゃあ、なんで合コンに来たんだよ?」

「んー、なんでしょうね?」


 わからない。優華の考えていることがわからない。もともと、よく意味のわからないことを言うやつだったけど、それは変わっていないようだ。


「まー、そんなことは置いといて、中学を卒業してからの話、聞かせてよ。」

「う、うん、まーそうだな。」


 優華の考えていることはわからないが、考えても仕方がない。

 そうして、俺たちは中学を卒業してからのお互いのことについて語り合った――



――すっかり外も暗くなり、合コンはお開きとなった。

 そして、俺は今、優華と並んで帰路についている。なぜ一緒に帰っているかというと、家が近いのと、外も暗くなり女子を一人で帰らせるのは危ないからだ。

 その間も、優華とは昔の話や今の学校について会話をしていたのだが、家の最寄りの駅を通りかかったところで、急に優華が立ち止まった。

 駅の周りはクリスマスということで、イルミネーションが行われており、多くカップルがいる。てっきり、イルミネーションのその輝きに目を奪われたのかと思ったのだが、優華の雰囲気から察するに、どうやら違うようだ。

 俺は不思議に思い、優華のほうを見ると、優華は黙って俯いていた。


「え、えっと、どうした?なんかあった?」


 優華が泣いていると思った俺が慌てていると、優華は自身の両頬を「パチン」と叩き、顔を上げ、俺をほうを見た。その顔は、まるで何か覚悟を決めたかのようだった。

 そして、優華が口を開いた。


「ねぇ、ずっと、聞きたかったことがあるの。」

「えっと、聞きたかったこと?」

「うん、中学二年の冬から……私のことを避けていたよね?」


 俺は思わず黙ってしまう。


「私が話しかけても、素っ気ない返事をして……私が家に行ってもいい?って聞いても、いつもは頷いてくれるのに、断って……」


 優華の顔が少しずつ下を向く。


「私、なにか……したかな?私のこと……嫌いなっちゃった……?」


 優華の言葉に、俺は思わず声をあげる。


「そんなことはない!」

「じゃあ、なんで私のことを避けていたの!?」


 俺の言葉に、優華が顔を上げ疑問を投げつける。

 そう、優華の言うとおり、中学二年の冬から俺は優華のことを避けていた。でもそれは、優華のことが嫌いなったからではない。

 俺は、あのときことを思い出しながら、理由を話した。


「同じクラスの野上のがみのことは覚えているか?あのイケメンの。」

「……うん、サッカー部のエースだった子だよね?」

「うん、その……野上から言われたんだよ。優華に近づくなって。」

「え……?」


 そう、中学二年の冬……二学期がそろそろ終わろうとしていた頃、俺は当時クラスメートだった野上に呼び出された。

 そこで俺は――


「お前、邪魔なんだよ。お前がいるから優華ちゃんが俺を見てくれない。さっさと消えてほしい。お前みたいな眼鏡じゃ、優華ちゃんを幸せにすることは出来ない。って。」

「……!」


 優華が目を見開いて黙る。


「実際、優華は男子たちの誘いを断って俺とばっかり遊んでいたし、俺も……顔は普通だし、勉強は出来ないし、スポーツも卓球しか出来ないし、全然かっこいいところなんてないからさ。俺なんかと居るより、優華にはもっと良い人が居て、その人と居るべきなんじゃないかな……って。」


 優華は黙ったまま、俺の目をジッと見つめている。


「えっと、だから、その……」

「だから、私のこと避けていたの?」

「え?」


 優華が俺の目を捉えたまま、口を開く。その目からは涙がポロポロとこぼれていた。


「野上君に言われたから、私のことを思って避けていたって言うの?」

「うん……」

「ふざけないで!!」


 優華が声を荒げる。


「しーくんがかっこよくない?そんなことはない!確かに勉強もスポーツも出来ないけど、私が困っていたときには、いつも助けてくれた!幼稚園で他の子たちに私のぬいぐるみを盗られたときも、小学校でバカにされたときも私のことを助けてくれた!」


 優華の言葉に、俺は目頭が熱くなるのを感じる。


「そのときのしーくん……すっごくかっこよかった……!」

「……」

「しーくんのそばにいると、安心できるの……だから、あのとき、しーくんから避けられて……辛かった……怖かった、嫌われたと思って……」


 優華の声が弱々しくなり、目からは涙が止まることなく溢れでいる。

 そんな優華を見て、俺は思わず優華を抱きしめる。


「ごめん、ごめん……辛い思いをさせて。」


 優華は一瞬びっくりした様子を見せたが、すぐに顔を俺の胸に埋め、抱きしめ返してきた。


「本当だよ……すっごく辛かったんだから。」

「ごめん。」


 俺は謝ることしかできなかった。


「でも……」


 すると、優華が顔を上げ、涙を流しつつもニコッと笑った。


「でも、良かった。しーくんに嫌われたわけじゃなくて。」


 優華の言葉に俺は目を見開く。


「しーくんのこと許すよ。」

「……いいの?」

「うん、でも条件がある。」

「え……?」

「私には他にも良い人が居るって言ってたでしょ?」


 優華の質問に俺は頷く。


「でもね、そんな人はいらないの。私には、私のそばに居てほしいのは、しーくんなの。他の人じゃない、しーくんなの!」


 優華の言葉が俺の身体に染み渡るかのように響いていく。気がついたら、俺も優華と同じように涙を流していた。

 優華が顔を赤らめながら言う。


「だから、しーくん……好きです。私の……恋人になってください。」


 優華からの告白、そんなの答えなんて一つじゃないか。あのとき、言えなかった言葉、今なら言える。


「俺も……優華のことが好きだ。大好きだ!あのとき、優華には寂しい思いをさせた。だから、もう絶対にそんな思いはさせない!もう絶対に放さない!」

「うん!」


 俺の言葉に、優華は俺を強く抱きしめる。そしても、俺ももう放さないと誓い、優華を強く抱きしめた。

 いつの間にか雪が降るなか、俺たちは、イルミネーションの前で抱きしめ合う。



 雪降るクリスマスの夜は、寒くて……温かい、と俺は感じた――

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