ユリアイ
GARAHIくホ心京ハeu(がらひくほみ
プロローグ
女は嫌いだ。こっちの気持ちも考えないですぐにくっついてくるから。
女は嫌いだ。私が女だからって、何の躊躇もなく私の前で裸になるから。
女は嫌いだ。めんどくさい性格で、可愛くないと気が済まないから。
でも、一番嫌いなのは、そんな女が好きになってしまった同性愛者の私。
「もしも、女の子同士の恋愛が当たり前で、女の子しかいない世界だったら、私は自分が好きになれたのかな」
放課後。夕暮れの日差しが入り込んでいる教室で、並んでいる机の椅子に十二月の寒さを感じながら、私と親友の吉原彩弥が隣同士向かい合って座っている。
「私さ、ずっと隠してたんだけど親友の彩弥だから話すよ」
「ゆきがそんな改まるの珍しいね、どうしたの急に?」
「この前道徳の授業でLGBTの話があったときに、『レズの人が居たっていいじゃん』って言ってたでしょ」
彩弥は首を縦に振った後、もう一度首を傾げる。
「それがどうしたの?」
強く早くなる鼓動を感じ、制服越しの胸を手で押さえながら私は話す。
「……私実は、レズなの!」
「……?」
彩弥は私が言っていることが理解できていないと、傾いた首はそのままになっていた。
「でも、彩弥を恋愛感情で見てるとかじゃなくて、ただ女の人が好きなの!」
数分が経って理解できたのか、返事が返ってくる。
「そ、そうなんだ」
「彩弥! 誰にも言わないでね」
「わ、分かった」
そう答えた彩弥はサッと立ち上がり、教室から姿を消した。
翌日、誰にもバラされていないかとハラハラしながら学校に登校する。
いつも通りを装い、いつも通りに靴から上履きに履き替え教室に向かう。
寒さとは違う震えを感じながら教室のドアに手をかけスライドさせる。
ドアを開き、一直線に自分の席に座る。はずだった。
そのいつも通りの行動を邪魔したのは、黒板に書いてある文字。
思わず手に持っていた通学バッグを落とし、教室の後ろで立ち尽くして固まってしまう。
『高橋百喜はレズビアン!』
『たかはしゆきは女が好き!』
『たかはしは同性愛者!』
『彩弥とゆきは付き合ってる⁉︎』
黒板にデカデカと大文字で書かれている。その黒板に書かれている文字を理解するのに時間は要らなかった。
バラされたんだ。
教室にいる男子や女子、私を軽蔑する目や楽しげに笑っている目を感じる。
その中で私は椅子に座っている彩弥の後ろ姿を見つけた。
「彩弥」
落ちたバッグと周りの視線を気にせずすぐ窓側に向かい、彩弥が座っている席の横に立つ。
「ねぇ、彩弥」
返事は無く、本人は関係無いと言いたげに本を読んでいた。
「ねぇってば!」
私の右手は勝手に彩弥が読んでいるであろう本を取り上げる。
「私はレズじゃない、ゆきと関わったら私までレズだって思われる。ゆきが私に話したのが悪いんだよ」
彩弥の言ったことを聞いた時、私は嫌々感じる。私は馬鹿だ。いくら仲が良いからといって、ラインは存在する。きっと私はそのラインを超えてしまったんだ。
そう、私が悪い。そう思うと、涙が溢れてきたから私は走って教室を出て家に帰った。
家に帰ったその日、中学三年生。三年五組、十五歳の高橋百喜は自分の部屋で自殺した。はずだった。
確かに私はあの時、家で、私の部屋で首を吊って自殺した。
「なのに」
いつも着ている紺色の長袖ど長ズボンのパジャマを着て、ベッドに腰掛けている私が目の前にある鏡に映っている。周りを見渡すもいつもと変わらず、机や床が抜けそうなぐらいに本が入った本棚。
「百喜ー! ご飯できたわよー!」
時計を見ると、時刻は朝6時30分で一回から大声で母が読んでいる声が聞こえる。
これが夢だと思った私は一度自分の頬をつねるが、痛みを感じ、すぐに現実だと知った。
「わかったー」
現状が分からず理解できていないが、とりあえず私のお腹が空いていることはわかったので、一度顔を洗いリビングのテーブルに座る。
「あんた急がなくていいの? 今日、始業式でしょ」
「え?」
家のカレンダーは過ぎた日にバツと印をつけているため、今日が何月の何日かすぐに分かったが、理解はできなかった。
カレンダーに目をやると、日付は四月六日と書いてある。
「今日って何月何日?」
きっとお母さんの間違いでカレンダーが進んでいるんだ。
「今日は四月六日でしょ。まだ寝ぼけてるの?」
私は、お母さんの言っていることが信じられず、近くにあるリモコンでテレビをつける。
『今日は四月六日。新しく始まる学校生活! そんなおめでたい一日は、朝から夕方まで晴れが続くでしょう!』
色々感じた違和感を確かめるために、お母さんに質問を問いかけた。
「この天気予報の人って男の人じゃなかった?」
「男って、あんたまた本を読んでて寝ぼけてるんでしょ」
確かに本は好きで夜遅くまで読んでいたことはあるけど、よりお母さんの言っていることが分からなくなる。
「私、自殺したんだよ」
「はいはい、分かったから急ぎなさい。もう十五分しかないんだから」
お母さんは私の言っていることを聞いてくれず、ため息を吐きながら洗い物を終わらせた。
とりあえず高校に向かうことにし、朝ごはんを食べ、部屋に向かい制服に着替える。
高校は決まっていたし何回か高校に体験で行ってたから、場所や行き方はわかる。
だけど、彩弥や私をいじめた人たちと同じ高校。
行きたくない……
そう思いながら重い足を動かし、上がらない腕で鞄を持ち玄関で靴を履く。
「忘れ物ない? 気をつけてね」
「はーい。行ってきます」
そう返事を返して立ち上がり、嫌々ドアを開き
「行ってらっしゃい」
とお母さんの声を聞いて外に出た。
外はやけに明るく暖かい。私が覚えているのは、寒くて冷たい十二月。
「はぁ……」
ため息を吐きながら歩いて登校する。
*
未だに現在の状況を理解できていないまま高校に着いてしまった。
歩いて20分の場所にある高校。
校門に「由里高校」と表札がついており、その表札を見て足が止まる。
「女子校にすれば良かった」
今になり、唐突に後悔という感情が込み上げてくる。
女子生徒達は仲良く楽しげに話しながら校門を潜って行く。
その光景を見てまた一つの疑問が生まれる。
「男子生徒が一人もいない」
たまたま男子生徒を見ていないだけだと思いながら、下駄箱に向かう。
生徒のクラスが記入されている紙を見て自分のクラスを確認し、自分のクラスがある方に足を向けるが、やはり男子生徒の姿が見えない。
「ゆきー!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟に振り返る。
「久しぶり! 同じクラスで良かったよ!」
そこには私の知っている吉原彩弥が上履きを持って立っている。
「どう? ショートカットにしてみたの! 可愛い?」
その微笑んだ顔を見た瞬間私は息が出来なくなり、その場にゆっくりとお尻をつける。
「ゆきどうしたの? 大丈夫?」
そんな優しい彩弥の気遣いが私には、とても意地悪な声で聞こえた。
あんなことがあったのに、一体どういう神経してるんだろう。
「あんなことがあって、今更何の用……」
数秒を使い一度呼吸を落ち着け、絞り出した声は怒りと悲しみが重なり、始めて自分の声が嫌いだと感じた。
「あんなこと? 何の話?」
彩弥は今まで私に対して嘘をついた事が無くそのとぼけ顔は、本当に何も無かったかのような表情をして私を見る。
でも私には、そんなとぼけた顔が嘘をついているようにしか思えない。だって、実際に私は彩弥に裏切られ、クラスメイトからいじめられたのだから。
「嘘つかないで」
消えそうな声で話を続けるが、それでも彩弥は何も無かったかのように小首を傾げている。
「彩弥は私がレズだって言ったらクラスメイトにバラしたんだよ!」
上から見下す彩弥の顔を睨みつけ、声が詰まりそうになるも、大きく息を吸い込み思ったままの言葉をぶつけた。
「ゆきは何言ってるの? レズって何?」
その言葉に対する返事は、私が思っていたものとは大きく違い、困惑してしまった。
「レ、レズって女の人が女の人を好きになることだよ! それを私は彩弥だから嫌われないと思って恥ずかしくても話したんじゃん!」
私は立ち上がり、怒りのままに声を出して彩弥の顔を睨む。
「本当に何言ってるの? 女同士が恋をするのって当たり前でしょ?」
その言葉を聞いて、怒りは遠のいて行き困惑が襲ってくる。
「だって、この世界には女しかいないじゃん」
ユリアイ GARAHIくホ心京ハeu(がらひくほみ @such
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