第20話東雲クリニック 立てこもり事件

 僕は、丈さんとそのままソファーで寝ちゃったんだ。大好きな丈さんの匂いは僕を安心させたくれる。


まだ夜みたいだったけどしばらくすると、母さんと丈さんの話し声といつもの出汁の香りで目が少し覚めた。


「颯がね。丈ちゃんがいつ来ても、疲れて来ても食べられるように卵のうどんの準備しておいてって毎日言ってたのよ。」

「そうか。颯は人を思いやれる、優しい子の育っているんだな。良かった。」

「本当にそうね。」


母さん、私に似てとか、私が育ててるからとか、言わないんだね。


「颯も喜ぶし、今日はこのまま颯のとなりで休んでいけば?」


 ーそうだよ、丈さん一緒にいてよ。ー


「そうしたいけど、、、。この家に泊まるのは、、、ケジメだから。」

「、、、そう。」

「それに、明日も早いしな。東雲先生の所に呼ばれているんだ。」

「そうなのね、うん、わかったわ。帰ったら早く寝なさいよ。明日起きれなくて、東雲先生との約束に遅刻しないでよ。」


 ーな〜んだ。帰っちゃうのか、、、ー


ちょっとガッカリしたらまた眠くなってきた。

それにしても、ケジメってなんだろう。

 朝起きると、やっぱり丈さんはいなかった。僕はそのままソファーで寝ていたんだ。いつもならベッドで寝るようにって起こすのに、今日まで休みだから母さんもソファーで寝てもいいとしたのかな。

母さんは、朝ごはんの支度をしながら電話もしている。忙しそうだね。


「あー。困った。」

「何を困っているの?」


僕は寝起きで、頭もボーっとしてたけど、おはようも言わないで尋ねた。


「あ、ビックリした。颯、おはよう。起きたの。ソファーで眠れた?」

「おはよう。眠れたよ。丈ちゃんいなくてガッカリだけど。かあさま、どこかに行くの?」


母さんはそうね、残念だったねって笑いながら


「行かないよ。おばあちゃまの都合がつかないから。」

「お仕事でしょ。」

「颯は心配しないで。大丈夫だから。」


母さんは、笑顔でそう言ったけど、


「一人でお留守番してるよ。もうすぐ六年生だし。どこにも行かないし、誰が来てもドアを開けない。どお、それなら大丈夫でしょ。」

「颯、、、」

「かあさま、お仕事行ってらしゃい。」


母さんは、そんなに早く大人にならないで〜って僕を抱きしめたけど、よっぽどの緊急事態だったのか、


「終わったら、速攻で帰ってくるから。絶対にドア開けないでよ。」


もの凄く慌ただしく出掛けていった。


 僕は休み中の一週間分の宿題もとっくに終わっていたし、ドラマとかアニメとかにも興味がなかったけど、やることもなくて、静かなのが少し怖かったからテレビをつけたんだ。


 朝ってニュースやワイドショーをやっているんだね。

映った画面はなんだか慌ただしくて、キャスターの人が仕切りに現場を呼んでいる声がしてた。

僕には騒がし過ぎるからスイッチを切ろうとした時


「ん?今、東雲クリニックって言った?」


テレビ中継は、男が立てこもっている現場らしい。


「東雲心のクリニック内には院長と家族がまだ残されています。犯人が凶器類をどれだけ所持しているか分からず、警察も踏み込めていないようです。」

「え、何?東雲先生のクリニックってこと?そこで事件が起きてるってこと?えーーーーー。」

「立てこもり犯は患者の家族の男と見られています。何か医師とトラブルを抱えていたのでしょうか?」


昨日の夜、丈さん東雲先生に呼ばれてるって言ってた。きっと陽奈乃さんの事だ。

患者の家族の男?陽奈乃さんの父親?まさか、丈さんもクリニックの中にいる?


 僕は、テレビの中継を食い入るように見た。母さんはいないし、仕事をしているんだからきっとこの事態を知るはずもない。

一人でテレビを見ながら、丈さんが映っていないかを必死に探したよ。

画面の中の警察ぽい人の中に、丈さんの姿は見つけられなかった。

丈さん、クリニック内にいるかも、凶器を突きつけられてるかも、


 ーあーーー。僕はパニックになりそうだ。ー


テレビ画面を通しては『めめ』の力は全く役に立にたたないし、こんな事態に『めめ』がなんの役に立つかさっぱりわからない。でも、人の記憶の中が残像になって見える他の人にはない力が、これまでも役に立ってきた。

母さんとの約束を忘れてないけど、どうしても東雲先生の所に行かなくちゃっと思い始めていた。


 東雲先生のクリニックは学校の近くにある。学校にはいつも母さんの会社まで車で行って、そこから歩いっている。家から東雲先生の所まで僕の足で歩くとなると、きっと一時間くらいかかってしまう。


 ー丈ちゃんに何かあったら間に合わないー


どうしたら良いのか全く思いつかないでいると、インターホンが鳴った。


「颯ちゃん、おはよう、開けて。おばちゃまよ。」


見ると母さんのお兄さんの奥さん。櫻子さくらこおばさん立っていた。


「櫻子おばちゃま、どうしたの?今、開けるね。」


おばさんは、ニコニコしながらプリンを片手に入ってきた。


「おばあちゃまがね心配して、颯ちゃんの所に行ってほしいって。蘭ちゃんから連絡もらったのよ。颯は一人で大丈夫だけど、もし時間があったらお願いしますって。愛されてるね颯ちゃん。」


母さんもおばあちゃまも過保護って言うやつだね。

でも櫻子おばさんが来てくれたのはラッキーだった。


「櫻子おばちゃま。お願いがあるの。」

「あら、颯ちゃん。あらたまって何かしら?」

「おばちゃまは、今日車で来た?」

「ええ。来たわよ。」

「じゃあ、僕を学校まで連れって行って。お願いします。」


櫻子おばさんは、忘れ物でもしたの?って笑いながら良いわよって、僕を連れ出してくれた。


 ー良かった。これで、東雲先生の所に行ける。ー


僕は、何か護身用になる物って思って、とりあえず手近にあったけん玉をもたんだ。

役に立つのか全くわかんなかったけどね。


 東雲先生のクリニックは家からだと学校に行く途中にある。

もうすぐクリニックという所に信号があって、赤信号で車が止まっている時にも気持ちが焦っていた僕は窓から外を必死に見ていた。

信号が青になり発信した時、横断歩道に立っている全身黒ずくめの男の人と目が合った。


 ーあれ、今の陽奈乃さん?

  お母さんみたいな人も?ー


僕は、瞳の中に二人を写しているその男の人が、陽奈乃さんのお父さんだと直感したしたんだ。


 ーだけど、それならなんでここにいるの?

  立てこもってるんじゃないの?ー


「おばちゃま、車を止めて。」

「えっ。学校はまだ先よ。」

「良いから。お願い。僕、降りなくちゃ!」


櫻子おばさんは、路肩に車を停めると


「颯ちゃん、どういうこと?ここはなんだか危なそうよ。あそこは人だかりが凄いし。えーっ。あれってテレビの中継車じゃないかしら?」


櫻子おばさんは辺りをキョロキョロ見てた。


「必ず戻るから、ここで待ってて。」


僕は、車を飛び出した。


 ー丈さん、待てて。なんだか嫌な感じがする。

  怖い何かが迫って来てる。ー




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