第12話平家組の憂鬱

 二週間もすると、幼稚園から合格通知が届いた。

封筒には、しっかりと金色の二本線が記されたいた。

そう、母さんはニンマリさ。僕はめでたく入園児代表になったからね。


「本当に、黄金ラインが2本入ってるんだな〜。」

「そうよ。あら、丈は見たことないの?」

「はいはい、ないですよ。一度もありませんよ。」

「そうよね〜、ないわよね〜。代表はに選ばれるのは成績一番のただ一人。丈の学年は、あら、私だったわ!」

「お蘭。ほんと、その性格直せよ。また刺されるぞ。」


 ー母さん、僕もそう思うよ。ー


「で、あの子はどうなったか知ってるのか?」


丈さんは、本当に優しい。仕事柄もあり、被害にあった人や、子供への気遣いはいつも心からのもの。


「ええ。畑中先生から連絡をいただいたわ。もちろん入園させるわけには行かないそうよ。」

「そうだろうな。あの場には他にも園児やその両親がいたしな。」

「うん、仕方ないことなんでしょうけど。あの子は何も悪いことしてないのよ。今は家族で東雲先生からカウンセリングを受けているんですって。」

「そうか。女の子も落ち着いて生活できる事を祈るよ。」


丈さんの思いやりのこもった声が、僕は大好きなんだ。


「丈ちゃん、女の子じゃないよ、結華ちゃんだよ。」

「そうか、結華ちゃんか。颯、また会えると良いな。」

「うん。」


 ーやっぱり丈さんは優しいね。ー


「あの時、颯が私の傷口にハンカチを当ててくれたでしょ。畑中先生もその場にいらした他の先生方もとても褒めてくださったのよ。賢いくて母親思いの子供だって。颯、本当にありがとう。ママ最高に嬉しかった。」


母さん、思いっきり僕を抱きしめてくれた。


 ーふふふ、くすぐったいよ。ー


「でも、不思議よね。あの時どうしてママに抱きついてきたの?大騒ぎでみんな感じていなかったけど、すごいタイミングだったし。颯がママに抱きついて来てくれたからあの程度の怪我で済んだと思うわ。そうじゃなかったら、、、。颯、誰かの瞳に何か見たの?」

「まだ起きてない事なんだからそれは無いだろう。なあ颯。」

「うん。見てないよ。結華ちゃんが教えてくれた。逃げて、って。」

「教えてくれた?結華ちゃんが?逃げてって教えてくれたのか?」

「そうだよ。」


母さんと丈さんは、不思議そうに顔を見合わせて、


「娘だから、母親から逃げる常習性が身についていたんだろうか。」

「だから逃げて、、、なんだかかわいそうね。体に染みつくほどに怖い思いをしていたって事よね。」


僕は、母さんや丈さんの言ってることは違うと思ったけど、どう話したら良いか分からなかったから、結華ちゃんのことはそのままにしちゃったんだ。

 入園までは制服を取りに行くくらいだったけど、入園児代表になったから、僕は前の日に練習に幼稚園に行ったんだ。

一生懸命頑張ります、的な事をみんなの前で言うのと、それぞれの学年に学年旗があるので、それを先生からいただく。


 ーそんなに難しくなくて良かった。ー


ただ、この二つの事を僕一人ですることに少し反発が来た。しかも園児のお世話係で来ている初等部の人から。


「へ〜。きみ、一人で両方するんだ。随分と優秀なんだね。」

「両方やるとか。人生終わったな。ははは。」

「本当。この先地獄の人生だな。お勉強です。お勉強ですってな。」


僕には何を言ってるのか全く分からなかったけど、その初等部のお兄ちゃん達の瞳には、すごく怖いガミガミと起こってる人が見えたんだ。

母さんにはもちろん瞳の中は見えてないけど、お兄ちゃん達が僕に言った言葉はとてもよく聞こえたようで


「初等部の皆様。ごきげんよう。鏑木坂蘭子です。私の息子に何かご意見がおありの様ですが、先輩としてアドバイスなら、コソコソせずに堂々と大きな声でおっしゃったらいかがかしら。」

「か、鏑木坂様、ご、ごきげんよう。あの、その、僕たちは何も。」

「あらそうでいらっしゃいますか。今後も何かアドバイスがございましたら、私の前で堂々とお願い致しますわ。息子の人生が終わっては困りますので。」

「は、はい。ごめんなさい。ごめんなさい。」


お兄ちゃん達、瞳の中の人に怒られてる時みたいに小さくなってる。


「まあ、今回の事であなたがたの人生が終わらないことをお祈りいたしますわ。この子は、私、鏑木坂蘭子の息子ですので。今後もこの様な事

があれば、あなた方の人生の終焉もそう遠くはない事をどうぞお忘れなきよう。では、ごきげんよう。」

「気をつけます。ごきげんよう。」


母さん、自分の名前二回言ったね。大人気ないかも。

初等部のみなさん、走って逃げて行っちゃった。


「かあさま。」

「颯。怖かった?これからもあんな野蛮な子供がいたら絶対に教えるのよ。かあさまが、やっつけるからね。」

「うん。でもね、あのお兄ちゃま達、みんなの瞳の中にずっと怒ってる人が見えたんだよ。僕も見ててなんだか怖くなっちゃた。」

「ふ〜ん、そうなんだ。相当無理をして初等部に入ったのかな〜。」

「むり?」

「そうよ、無理。あの子達、平家なんでしょうね。成績下がると退学だろうから、親もガミガミうるさく勉強しなさいって言ってるんでしょ。」

「たいがく?」

「そうよ。お勉強できなくなると、学校やめてくださ〜いって言われちゃうのよ。」

「えーー。」

「おばかさんの平家組はね。あ〜良かった。あの子達、颯が初等部に行く頃にはきっといないわね。颯に意地悪する子はいなくなって結構よ。」


母さんは、めちゃめちゃ高笑いしてた。

母さんは本当に優しい人だよ。

でもさ、今は悪魔に見えますよ、蘭子様。



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