てぃーちゃーおぶうぃっちーず!~先生、魔女の生徒を受け持つことになりましたが問題児だらけで心が折れそうです……~
夏歌 沙流
0章 魔女特区の日常
1時間目 プロローグ
『状況を整理します』
片耳に差したインカムからそんな女性の声と共に、ターゲットの情報が流れる。夜の繁華街……とある雑居ビルの屋上で、人々が逃げ惑う騒音とパチパチと炎が弾ける音が聞こえていた。
ビルの屋上からフェンス越しに地上を見下ろせば、眼下に広がる火の海とその中心にターゲットが。俺はターゲットから目を逸らさずに、そっと片手をインカムに当てて入ってくる情報に耳を傾ける。
『ターゲット、《
「こちら一年M組、現場に到着しています」
現場に到着したむねを俺が返すと、インカムにざざっと一瞬ノイズが入る。個人回線に切り替わったのを感じつつ、俺は持ってきていた手提げ鞄を屋上の床に落とした。
『こちら職員室です。住民の避難がまだ終わっていませんので、『生徒指導』には周りの被害が及ばぬよう鎮圧装備を使用してください』
「鎮圧装備、点検から戻ってきてないのですが……」
『何しに来たのよ全く……武器はスペアがあるでしょ、時間も無いからさっさとしなさい』
そんな時、敬語がはがれて呆れた声がインカム越しに聞こえてきた。俺はターゲットから目を離し、眼鏡を外して鞄から一丁の真っ白な拳銃とゴーグルを取り出しながら口を『へ』の字に曲げる。
「人使いの荒い学年主任ですね……」
『仕方ないでしょ? 三年が修学旅行の
「『生徒』に文句を言う先生とか終わってません?」
マガジンの中に鎮圧用の麻酔弾が入っているのを確認しつつ、戦闘用の眼鏡であるゴーグルを着用する。スーツのジャケットを脱いで動きやすい格好になった俺は、ショルダーホルスターにその拳銃を入れた。
ビルに設置されたフェンスに足をかけて一気に乗り越える。フェンスの上からもう一度ターゲット……うちの学校の制服を着た女子生徒を見降ろして俺は目測を調整する。
『南には工業区もある、炎がそこまでいったらインフラ含めて壊滅よ。ここで止めてちょうだい』
「他の『先生』の援護は?」
『五分後よ』
五分か……装備無しでもそれぐらいなら時間稼ぎは出来る。俺はパッとフェンスから手を離し、ビルの屋上から飛び降りる!
黒煙が立ち上り視界が悪い、がそれが気にならないほどに中心で明るく燃え上がっている
ぐんぐんと加速していくように落ちていく俺の身体。地面に近くなっていくのに連れて、地上で燃え盛る彼女の表情が分かるようになってくる。炎を縦横無尽に飛ばしつつ周りを火の海に変えている彼女の顔は――涙でぐしゃぐしゃになっていた。
大きな感情の激流に呑まれて暴走している状態か……思春期の魔女によくある光景だ、ここまでの被害は中々ないが。
「一年M組担任、
そんな彼女たちを教え導くのが俺たち『先生』の役目。全く、先生ってのはハードな仕事だな……俺はそう思いながら、拳銃を取り出して彼女に発砲するのであった。
ここは日本のとある場所に存在する『魔女特区』、四方を壁に囲まれた箱庭の都市。『魔女』と呼ばれる特異体質を持った女性たちと普通の人々が暮らすこの街で、俺は今日も
――ジリリリリリリッ!
「ん……うぅ、うるせぇ……」
けたたましい目覚ましの音が、心地よい深い眠りから叩き起こしてくる。俺はぼやきながら目を開けずに枕もとをごそごそと手さぐりに探るが、おかしい……無い。
何度もあったはずの目覚まし時計の位置をポスポス叩くが結局見つからず、目覚ましのうるさい音はなったまま。
流石に気分が不快になってきたので目を開けると、ベッドの下から目覚ましのアラームが鳴っていることに気が付きげんなりする。
寝ている間に落としたか……仕方が無いのでベッドから転がり落ちる様に抜け出し、ベッドの下を見るとぼんやりとした視界の中目覚まし時計が。
「ん……っと、うるせぇなぁ」
――ジリリリリリリ……
目覚ましを止めてやっと静かになった自分の部屋。立ち上がって持っていた目覚ましを乱雑にベッドの上に放り投げ、
時刻は朝の6時4分。ベッド脇の机に置いておいた眼鏡をかけて、高くそびえたった四方の壁のせいで朝日がまだ昇っていない『魔女特区』をカーテンを開けて窓越しに眺めつつ、俺はケトルに水を入れる。
そのついでにキッチンの蛇口で顔を洗い、タオルで顔を拭きながらケトルの電源をオン。コーヒーの適温は93度とか言われているが知るか、沸騰したお湯で作ったコーヒーも十分美味い。
「っと、ヒゲ伸びてきたな」
トースターにパンを突っ込んだところで、顎を触るとジョリっとした感触が。後でも良いが、一度気になってしまうとやはり剃りたくなってくる。
俺は洗面台に立ち、髭剃り機をコンセントにさして充電しつつその間に歯磨き。
ダボっとした青と白のストライプのパジャマに身を包んだ、黒い髪の毛がボサボサの青年の姿が鏡に映っている。
結局……巻き起こる風やら炎やらが邪魔で拳銃の弾速だと麻酔弾を撃ち込むためにゼロ距離から撃たなきゃいけなくなった俺は、最後は燃え盛る炎の中に手を突っ込んで撃っていた。
後から駆け付けた『先生』たちに「一人で何とかしようとするな!」と死ぬほど怒られたが……まあ、事態は沈静化したので上出来だろう。
むしろ戦っている間に鎮圧装備を着ていないことを忘れて腕を突っ込んで、火傷を負いながらも事態を収めた俺を褒めて欲しい。
「いや、ただの自業自得だな……」
髭を剃りながらははっ、と俺は力なく笑う。いつも鎮圧装備を着ていたから、点検に出してたこともすっかり忘れて戦闘をしてた……学年主任に怒られるんだろうなぁ。
生徒たちに見られないように包帯と手袋で誤魔化すかと考えていた時、鼻に焦げ臭いにおいが。やっべ!トースターにパン入れっぱなしだ!?
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