百物語

@rona_615

第1話

 参加者は十二人だから一人につき八話か九話。重複がないよう事前にあらすじを送ってもらう。丑三つ時に百話目を語りたいので一話あたり三分を厳守とする。全部で五時間かかる計算だから開始時刻は夜九時。学会やセミナーでの発表に慣れた面子だから時間通りに進行するだろう。

 蝋燭などの小道具はなし。電気を消した部屋の中で話をするのみ。旅館の宴会場を借りられたから中央を向いて車座になる。担当する話数が多い四名を一箇所に集め、その右端の者から始めてもらう。タイマーを三分毎に鳴らし、それを合図に左隣の人に順番を移す。各々が用意した話を終えれば、ちょうど百話が揃う。簡易的な方法ではあるが、最中は話だけに集中できる。自分が語った数だけを個々人が把握していれば良い。

 全員が座ったのを確認して、部屋の明かりを消す。戸口から自分の座る場所までは、懐中電灯を頼りに進む。雰囲気を出すために雨戸を立ててもらったので、手にした明かりを消すと、自分の手すら闇に呑まれる。

 トップバッターは私。タイマーをスタートしてからスマホの画面を暗くする。小学校時代に聞いた素朴な怪談を披露した。左隣の男は本で読んだという海外の話。以降、取り決め通りに会は進んでいく。用意していた九話目は大学内での噂。有名な話だと思っていたが、部屋の反対側から息を呑む音がした。

 そこから三話で全ての話は終了。暗闇に目を凝らすが、塵の一つも見えやしない。そのまま三分が経ち、アラームが鳴る。それを合図に私は懐中電灯を手に取った。

 部屋の入り口まで歩き、電気を点ける。瞬きをしながら時計を見上げる。

 二時二十五分。

 そこここで上がるひっという声。素早く部屋の人数を数える。

 十二人。

 八話分、一人分、時間が多くかかっている。言い伝えとは違って、百物語の怪異は、その最中から現れていたようだ。

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