第9話 またもや面倒事になるようです。
久遠が来た道へと戻ること2時間。行きよりも少し急いだことで、1時間ほど早く地上へと到着した。
「……っと。うん。地上に着いたし、ここら辺で配信は終わろうかな。多分、近いうちにまた配信するから良かったら見てね」
:もう終わりかー
:めっちゃ面白かったし、興奮した!
:次の配信も楽しみにしてる!
:地上着くの早いな……、それはそれとしてお疲れ様!
:イレギュラーに遭遇した訳だしゆっくり休んでくれ!
最後に、配信の終わりを感じとった視聴者達のコメントを確認しお礼を言ってから、久遠は配信を終了した。
初めての配信は行きと帰り合わせて計5時間。肉体的には疲労は無いが、精神的に疲れた久遠だった。
……ふう。初めて配信っていうのをやってみたけど、案外楽しかった。視聴者の皆と話しながら探索するっていうのは今までになかったから、結構新鮮だ。
今後も時間があったら続けていきたいと思う。
……それで、ダンジョンの入口まで着いたわけだし早く出たいんだけど、いかんせん人がなぁ……。
久遠は、目の前の惨状(自身にとっては)を見て溜息を
何故久遠が目の前の光景を見て溜息を
ダンジョンに入場する際、各ダンジョンの入口には
そして、そのギルドの一番奥にダンジョンへの入口、【
言ってしまえば、その扉の前に居れば、待ち伏せなども簡単に出来てしまう。まぁそんな事をする者は滅多に居ないのだが……、今回は運が悪かったと言えるだろう。
普段の探索者達は常識やマナーがしっかりしている者達がほとんどだ。
何故ならば、探索者という職業は助け合い。
どんなベテランも昔は誰かに助けられている。故に、探索者達は"お互いを可能な範囲で助け合う"という認識がある。そのおかげで、探索者達は迷惑を掛けるような行動は慎んでいる。
現在、久遠は世界初の『
そして、配信上で久遠は何処のダンジョンに潜っているかを言ってしまっている。
それ即ち。
「めっちゃ人居る…………」
という訳である。
いや、人多すぎじゃない?いくら僕が
…………でも、さっきの配信で視聴者さんが言ってたことが本当なら、僕は世界初のユニーク2個持ち探索者。
……うん。注目されるだろうね。世界初という肩書きが付いてしまったんだから仕方ない。にしても……はぁ。
世間からの注目を少しでも減らすために配信始めたのに、そのせいで更に注目されちゃうとはね……。どうやら僕はかなり運が悪いらしい。
……にしても、どうやって出よう。
魔法を使えばすぐ出られるけど、今僕がいる場所はダンジョン入口。ほぼほぼ外と言っていい。
法律で、特別な理由がない限りダンジョン外での攻撃魔法は使用を禁じられている。
……うーん、でも僕が今いるのはダンジョン入口。つまりまだダンジョン内に居る。一応言い訳はできる。
それに、あくまで今回使うの気配などを消す魔法。攻撃にも使えるけど、今回はそのつもりは無いからきっと平気だろう。多分。きっと。そう信じたい。
………よし、
「
この『
気配や魔力、その他諸々の全てを断ち、認識できなくなる。ダンジョン深層の更に奥の奥、位の魔物じゃないと認識などできない。
それに、配信前に調べてみたらネットに出てくる情報ではこのスキルを持ってる人は居なかった。まぁ何人かは持ってる人がいるんだろうけど、そんな人ほとんど居ないだろうし余程のことがない限りバレはしない……と思う。
という訳で、このまま
「……よし。早く帰らないと真白が心配する」
そう呟いて久遠は、
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昼の十二時から配信していた為、現在時刻は午後五時。すっかり夕方である。
「真白ー、ただいまー」
久遠が家の中へ向けてそう声を上げると、奥のリビングから トタトタトタ 、という軽い足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃんお帰りなさい!」
向日葵が花開くようなにぱっとした笑顔を浮かべ、妹の真白は久遠へと抱きつきながら尋ねる。
「今日が初めての配信だったけど、お兄ちゃん的にはどうだった?」
……ナチュラルに久遠に抱きついているのはスルーして欲しい。この家ではこれが日常なのだ。
つまりこれが平常運転なのである。
決して、彼女は2次元の存在なのではないかと疑ってはいけない。
……しかし勘違いしないで欲しい。これ程兄を好いてくれる妹など
久遠も特に咎めることはせずに、真白に尋ねられた事について答える。
「……そうだねぇ、個人的にはやってて楽しいと感じたよ。これからもあまり高頻度では出来ないけど、ちょくちょくやる位なら続けていきたいなと思ったくらい。」
「ほんと!?じゃあじゃあ、これからのお兄ちゃんの配信で深層の更に奥とか見れちゃったりするっ!?」
「どうどう。……そんなすぐに、って訳にはいかないけどある程度配信にも慣れてきたら深層の奥、の前にまだ誰も行ったことが無い深層の階層に行く事になるかな?」
久遠がそう言うが、イマイチ理解できなかったのか真白が首を傾げる。
「真白って、今人類の最高到達階層は知ってる?」
「えーっと……、アメリカのクランの人達の 深層117階層、だよね?」
「そう。だから、深層の更に奥と言ってもまずは深層118階層からになるかな。もっと奥は流石に見せれないというか……、視聴者の皆が118階層以降である程度耐性つけてくれないと見るのが辛いと思うし。」
知ったようなことを言っている久遠だが、ぶっちゃけ配信を始める前は彼は人類の最高到達階層なんて知らなかった。つまり見栄である。お兄ちゃんとしての意地でもある。
「それでも楽しみだなぁ!まだ誰も見た事ない物やモンスターが見れるかもしれないんでしょ!?」
「……うん。まぁ、お楽しみってことで。
「はーい!」
そう元気よく返事した真白は、ようやく久遠から離れる。彼女的にはまだ抱きついていたかったが、それだといつまでも話が進まない為仕方なくである。
久遠としては ようやく離れてくれたか、別に嫌って訳じゃないけど、といった感じだ。
……兄妹間で感じ方の格差が激しい。
それはそうと、真白は久遠が帰って来たら伝えようとしていた事があるのを思い出した。
「あっ、そうそうお兄ちゃん。お兄ちゃんが配信始めて2時間半位経った所で色んなクランが声明出してたよ。」
「……ん?」
「私はお兄ちゃんの配信に集中しててさっき気づいたんだけど、なんかお兄ちゃんを勧誘、もしくはスカウトする、みたいな感じだったよ」
「あー……、また面倒事の予感がする」
当たり前の話ではある。配信1時間時点で、通常の上位探索者よりも圧倒的なスピードで階層を
それに加えて、
「……にしてもスカウトかぁ。その可能性は考えてなかった。まぁ全部断るけどね。僕は自由に探索したいし。」
「そうだよね!お兄ちゃんならそう言うと思った!」
「うん。もちろんそう言うよ。それじゃあ真白、ずっと玄関で話しててもあれだし、夕飯の準備がてらもっとゆっくり話そうか」
「了解ですっ!」
ビシッと敬礼のポーズを決める真白。久遠はそんな真白の事を微笑ましく思いながらリビングに入ろうとした、瞬間。
Prrrrrr……
久遠の携帯からは着信を告げる音が鳴り響いていた。
凄く嫌な予感がした久遠は、その着信を…………拒否し、何事も無かったかのように夕食の準備へと取り掛かった。
「……お兄ちゃん、今の切って良かったの?」
「多分良くないだろうね。真白も今日の配信見てたならわかると思うけど、きっと僕の
そう言った久遠は遠い目をする。果てしなく遠い目で虚空を見つめているかのように、その瞳からはハイライトが失われていた。
「お兄ちゃんも大変なんだね……、でも大丈夫!疲れたら私がお兄ちゃんの事癒してあげる!」
「……ありがとね、真白」
「ふっふっふ、私はできる妹だからね!」
自分を元気づけようとしてくれる真白に心が温かくなった久遠。口元には微笑を浮かべ、真白の頭を撫でながら彼は考える。
きっと、ここで電話がかかってきたということはほぼ確実に
そんな事を考えながら久遠は、今日の晩御飯であるカレーライス作りを進めるのであった。
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アメリカ合衆国内にあるホワイトハウス。その地下にて、国の要人達が集まってとある1つの議題について議論していた。
大統領である アスター・コンスタンティは深刻な表情で集まった者たちへと告げた。
「何故皆が呼ばれたか、その理由はわかっていると思う。日本に突然現れた"世界初の
そう。世界初の
アスター大統領が呼びかければ多くの者が挙手をした。その中の一人を彼は指名する。
選ばれたのはアメリカ合衆国国防長官の男。
「大統領。私としましては
「……ふむ。確かに一理あるな。」
「お待ちください大統領!!」
国防長官の男がそう意見し、大統領が頷いたところに声を上げる者が居た。アメリカ合衆国国務大臣の男である。
「国防長官殿!我が国がたかだか1人の探索者に遅れを取ると!?いくら
大臣は、国防長官とは真反対の意見を挙げる。他にも、様々な役職の者たちが好き勝手に意見し始める。殺せ、いや友好的に接するべきだ、裏切られたらどうする、我が国に従わせれないか、などなど。
そんな混沌とした場の中でアスター大統領は声を張り上げた。
「静粛に!!私としては、何人かの探索者達を日本に向かわせたいと思う。そして実際にどんな人物なのか見極めてから対処しても遅くはないだろう。異論のある者は居るか?」
大統領の意見はどっちつかずの意見、とも言える。だがしかし、実際に接してみないと分からないことは多いのだ。故にこの案が一番現実的であり、アメリカの利益に繋がる為、反論する者は居なかった。
こうして、アメリカは久遠に接触することを決めた。他の国々でも同様の会議が行われ、
どこの世界にも反発する者たちは居る。全員が全員、接触し、判断するという現実的な案を出せる訳では無い。
……久遠を困らせる面倒事の火種は着々と大きくなっている。
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薄暗い部屋。天井から落ちる水滴。そんな部屋の中で不自然に光り輝くモニター。
そのモニターの前には黒をさらに黒くしたような、漆黒、虚無、虚空とも言える色をした外套を羽織り、フードを深くまで被った謎の男が居た。
「クククッ。いいですねえ……
彼が何者なのか。それを知る者はまだ居ない。
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はい、どうも作者です。
投稿が遅れて申し訳ありません。なるべく週一で投稿したいのですが、いかんせんリアルが忙しく。
話は変わり、作者は毎回その話を書き終えたら自分で読み直して誤字は修正しているのですが、見落としがあったらすみません。良ければ報告していただけると幸いです。
これからもスローペースで投稿していくと思います。それでもいいよ、という方は応援してくださると嬉しいです。
以上、作者でした。
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