第21話 彼女の言葉が俺を支えてくれる~ローイン視点~
マーガレット嬢が去った後、俺も自室に戻ってきた。
“ブルーとエメラルドグリーンの2つの色を持っていらっしゃるだなんて、最高ではありませんか。皆きっとローイン様の瞳が羨ましいのですわ”
目を輝かせながらそう言ってくれたマーガレット嬢の言葉が、俺の心に響き渡る。そっと鏡を見てみる。
正直鏡なんて見たくなかった。でも…
「海をイメージさせる右目と空をイメージさせる左目か…」
今まで大嫌いだった色違いの瞳。でも、なぜだろう。あれほどまでに目を輝かせ“ローイン様の瞳、本当に素敵です!”と言われたら、なんだか俺の瞳も悪くない気がして来た。
それに、俺の瞳が羨ましてくて、皆が俺にいろいろ言ってくるだなんて…
鼻息荒く熱弁しているマーガレット嬢の顔がふと蘇る。その瞬間、吹き出してしまった。
「悪いがこの前髪、切ってもらえるかな」
近くに控えていた執事に前髪を切ってもらう様に依頼をした。
「坊ちゃま…よろしいのですか?」
「ああ、問題ない。それに俺の瞳、悪くないと思わないかい?ある令嬢に言わせれば、1人で2つの瞳の色を持っているのは、贅沢で羨ましい事らしい」
俺には全くそんな発想はなかった。彼女があまりにも目を輝かせて言うものだから、なんだか俺もそんな気がしてきた。そうか、俺の瞳は贅沢なのか。だから皆、嫉妬しているのだな。
そう思ったら、なんだか胸の奥がスッと軽くなった。
そしてその日から俺は、外に出る様になった。最初は好奇な目で見る者もいたが、あいつらは俺を羨んでいるだけだ、そう思ったらどうってことなかった。
次第に俺の瞳の色にも慣れて来たのか、皆何も言わなくなった。中には
「ローイン殿の瞳、左右で色が違っていて綺麗だね。ある国では左右違う瞳を持つものは、神の使いとして崇められているらしいよ。いいなぁ、僕もその瞳が良かったな」
そう言って俺の瞳を羨む奴まで出始めたのだ。こいつが後に俺の親友になる、第三王子のノエルだ。ノエルと仲良くなったことで、俺は色々なお茶会に参加する様にもなった。
以前とは比べ物にならない程明るくなった俺を、両親も嬉しそうに見守ってくれている。
「ローインはやっと瞳の色を克服できたのだな。もしかして、マーガレット嬢のお陰かな?」
「あの時、マーガレット嬢が大きな声で、ローインの瞳を褒めて下さったものね。伯爵からは後日謝罪されたけれど、逆に感謝している事を伝えたわ。本当に素敵なお嬢さんだったわね」
確かにあの日、マーガレット嬢が俺を変えてくれた。彼女のお陰で俺の人生は180度変わったのだ。あの日芽生えた俺の恋心は、日を追うにつれて、少しずつ大きくなっていく。
彼女と共に未来を歩めたら…
次第にそんな事を考えるようになっていった。
あの日以来父親からきつく言われているのか、俺を見ると嬉しそうにするものの、こちらにやって来たり話し掛けられたりすることはなかった。やっぱり自分から話し掛けないとダメだよな。
ただ、なぜかマーガレット嬢を見ると、緊張してしまって話しかける事が出来ないのだ。そんな俺にノエルが
「ローインはマーガレット嬢の事が好きなのだね。そんなに好きなら、婚約を申し込めばいいのに。君は侯爵令息、向こうは伯爵令嬢、きっと大喜びされるよ」
ノエルがクスクス笑いながら、俺をからかってくる。確かに身分の高い我が家から婚約の申し込みがあれば、きっと断られることはない。我が国は未だに両親が結婚相手を決めるという、時代錯誤の古いしきたりがあるのだ。
他国では貴族であっても、自由恋愛が盛んなのに。本当に考え方が古い国だな。て、今はそんな事どうでもいい。マーガレット嬢も、親が決めた結婚相手と結婚するのがあたり前と思っているだろうし、両親もマーガレット嬢の事を気に入っている。
早速両親に頼んで、マーガレット嬢の家に婚約申込をしよう。両親にもマーガレット嬢と婚約したい旨を伝え、後は両親がマーガレット嬢の両親に話をするだけ。あと少しで俺とマーガレットは婚約できる。
そう思っていたのだが…我が家がマーガレット嬢の家に婚約申込をする前に、何とマーガレット嬢は伯爵令息のジェファーソン殿と婚約を結んでしまったのだ。
まさかマーガレット嬢が、別の殿方と婚約してしまうだなんて…目の前が真っ暗になった。
俺は一体、今の今まで何をしていたのだろう。初めて出会ったあの日から、俺はマーガレット嬢を好きだったのに…それなのに行動に移せずにいるうちに、他の令息に奪われてしまうだなんて…
ショックでしばらく食事も喉を通らない日々が続いた。俺がさっさと両親に話し、伯爵に話していれば、今頃マーガレット嬢は俺と婚約していたはずなのに…いくら後悔してももう遅い。
諦めなければいけない事は分かっている。でも、どうしても諦めきれないのだ。俺のあまりの落ち込み様に
「ローイン、私たちが早く伯爵に話しをしなかったばかりに、本当にすまない」
「あなたがずっと、マーガレット嬢に好意を抱いていたことは知っていたのに…本当にごめんなさい」
そう言って両親が謝っていた。いいや、これは俺の責任だ。俺がのんびりしていたからいけないんだ。せめて、マーガレット嬢の幸せを陰ながら見守ろう。この時の俺は、そう思っていた。
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