第20話 マーガレット嬢との出会い~ローイン視点~

俺の瞳は、右目と左目の色が違う。この国では非常に珍しいらしく、貴族の中でも俺くらいしかいない。この国は閉鎖的で考え方も古く、自分たちと特徴が違う人間を受け入れられない性質を持っているのだ。


他国では一般的な俺の瞳。でも、この国では一般的ではない。そのせいで子供の頃から、ずっと瞳の色の事を言われ続けていた。


“左右で瞳の色が違うだなんて、なんだかおかしいわ”


“右目と左目で色が違うだなんて、お前何かの病気なんじゃないのか?俺たちに近づくなよ”


“もしかして夫人は、他国の殿方との間に子供をもうけたのではなくって”


など、俺の瞳の色のせいで、母上までも悪く言われる事もあった。どうして俺は、左右で瞳の色が違うのだろう。


外に出れば俺は好奇な目で見られる。それが辛くてたまらなくて、次第に引きこもる様になっていった。わざと前髪を延ばして、瞳を隠したりもした。


そんな俺に母上は


「ローイン、あなたの瞳、とても素敵よ。私のおばあ様が他国出身で、あなたと同じように左右で瞳の色が違ったのよ。この国では珍しいかもしれないけれど、他国では割と普通なの。この国の人は、閉鎖的な人が多いだけよ。そのうち皆慣れるわ」


そう言って慰めてくれた。そしてなんとかして俺を外に出そうと躍起になっていた。両親に強引に外に連れ出されては、令嬢や令息たちに好奇な目で見られたり、時には心無い言葉を吐かれる事もあった。


中には


「見てみろよ、ローイン殿の瞳。俺が言った通りだろう?左右で色が違うんだ」


「本当だ。あんな人間がこの世にいるのだな」


そう言って俺を見て笑う奴もいた。俺は見世物じゃない!どうして俺は、皆と同じように両目同じ色じゃないんだ。どうして俺だけ、皆と違うんだ。そのせいで俺は…


こんな瞳、大嫌いだ!完全に心がひん曲がった俺は、増々引きこもる様になっていった。部屋からほとんど出ず、毎日を過ごす。そんなある日、俺の8歳の誕生日パーティーが行われた。と言っても、俺はもちろん参加せずに部屋から出る事はない。


ただ、両親は


「あなたのお誕生パーティーなのよ。せっかくだから、少しだけでも外に出てみましょう」


そう声をかけて来たのだ。


「嫌だよ。どうせまた皆、俺の瞳を見てバカにするのがオチだ。俺はもう、傷つきたくはない」


もう俺は、傷つきたくはないのだ。


「ローイン、お前は侯爵家の嫡男だ。いつまでも引きこもっている訳にはいかない。さあ、一緒に来なさい」


「嫌だ、離してくれ」


父上に担がれ、そのままパーティー会場へと強制的に連れてこられた。案の定、俺を皆が好奇の目で見つめる。


“あの方が噂のローイン様ですの。本当に左右で瞳の色が違うのね”


“本当だ、色が違う。変なの”


あちらこちらから、心無い言葉が飛び交う。だから俺は、外になんて出たくなかったんだ。悔しくて涙が込みあげてきた時だった。


「まあ、なんて美しい瞳なのでしょう。あなた様が噂の、ローイン様ですね。初めまして、私はマーガレット・アディナスと申します。どうぞお見知りおきを」


満面の笑みで近づいてきた令嬢、この子、俺の瞳を見ても驚かないのか?


「本当にお美しい瞳ですわ。真っ青な雲一つない空をイメージさせる美しいスカイブルーの左目、どこまでも広がる壮大な海をイメージさせる、エメラルドグリーンの右目。なんて綺麗なのでしょう。私、先日家族で旅行に行ったのですが、そこで見た青い空とエメラルドグリーンの海の色と同じですわ。私、スカイブルーもエメラルドグリーンも、大好きなのです。羨ましいですわ、美しい色を2つも持ち合わせているだなんて…」


うっとりと俺の瞳を見つめるマーガレット嬢。


「君は俺の瞳の色が変だとは思わないのかい?」


ポツリと呟くと


「何をどう見たら変なのですか?とても美しい瞳ではありませんか?ブルーとエメラルドグリーンの2つの色を持っていらっしゃるだなんて、最高です。そういえばさっきから、失礼な事を申していた方たちもいましたけれど、きっと皆、瞳の色を2色持っていらっしゃるローイン様が羨ましいのですわ。私も羨ましいですもの」


そう言ってマーガレット嬢が笑ったのだ。


「それにしても、鬱陶しい前髪ですわね。せっかくのお美しい瞳の色が、見えませんわ。ローイン様の瞳、本当に魅力的ですのに。勿体ない」


俺の前髪を上げて、呟いているマーガレット嬢。


「コラ、マーガレット。お前は何をやっているのだ。ローイン殿、娘がとんだ無礼を働き、申し訳ございませんでした。ほら、マーガレットも謝りなさい」


マーガレット嬢の父親がやって来て、彼女を叱りつけている。


「ごめんなさい、あなたの瞳が、あまりにも美しかったから、つい興奮してしまって…馴れ馴れしくしてしまい、申し訳ございませんでした」


さっきまで嬉しそうにしていたのに、今度はしおらしく謝るマーガレット嬢。そのギャップがおかしくて、つい声を上げて笑ってしまった。


「アディナス伯爵、気にしないで下さい。マーガレット嬢、俺の瞳、そんなに素敵かい?」


「ええ、とても素敵ですわ。本当にあの時見た空と海の色と同じで。私、空と海の色、大好きなのです。両方持ち合わせているだなんて、贅沢ですわ」


俺が話しかけると、途端に笑顔に戻ったマーガレット嬢。この子、なんだか可愛いな。


「コラ、マーガレット。ローイン殿、本当に申し訳ございません。マーガレット、もう帰るぞ!それでは私たちはこれで」


アディナス伯爵が、マーガレット嬢を連れて行ってしまったのだった。

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