第16話 私はそこまでお人好しではないので

「マーガレット、私達ずっと仲良くしていたじゃない。そもそも、ジェファーソン様には手を出すつもりはなかったの。でも、彼に他の令息との関係がバレてしまって。それで仕方なく、ジェファーソン様と関係を持つ事になってしまって…」


マリンがポロポロと涙を流しながら必死に訴えている。


「マーガレットは私にとって、大切な友人だと思っているわ。それは今でも変わらない。だから、お願い。私を訴えるなんて、ひどい事を言わないで」


この人、一体何を言っているのかしら?散々私の事をバカにしていたくせに。


「さっきから黙って聞いていれば、よくもそんな事が言えるな!マーガレットを何だと思っているのだ。マーガレットは…」


「お父様、私は大丈夫よ。どうか私に、話しをさせて」


怒り狂うお父様を制止した。そしてマリンの方を真っすぐ見つめる。


「私がマリンと仲良くなったのは、貴族学院に入ってからだったわね。可愛くて優しくて、友達想いのマリンが私は大好きだったわ。どうしてこんな私と友達でいてくれるのだろう。そう思う事もあった。今まで楽しい学院生活を送れたのは、あなたのお陰だと思っているわ」


マリンと友達になって、毎日がとても楽しかった。でも…


「マリンを信じていた分、今回の裏切りがとてもショックだった。と同時に、気持ち悪いとさえ思ったわ。マリンはジェファーソン様と一緒に、私をあざ笑っていたのだと…」


「マーガレット、私はあなたの事を、あざ笑ってなんていないわ。本当に大切な友人だと…」


「そんな嘘は、もういいわ。私はあの日、はっきりと聞いたのよ。“ジェファーソン様もあんな女と婚約させられて可哀そうに。後7ヶ月すると、あの女と結婚しないといけないのですものね”という言葉を。あなたはずっと、私を見下していた。そうでしょう?」


「あれはその…そう、ジェファーソン様に話しを合わせただけだわ」


「そうかしら?2人の関係が分かった後、クラスメイト達に、ジェファーソン様と少し話をしただけで、私が怒り狂ったと嘘をついたわよね。まるで私が異常ほど嫉妬深い女だと、皆に植え付けた。さらに、我が儘で傲慢な女だとも…ただでさえ、2人に裏切られて辛かったのに、その上ありもしない事で皆に攻められ無視され、本当に辛かった」


「誰も私の言う事を信じてくれない。唯一私の言う事を信じてくれたリリアンだけが、私の支えだった。いつか2人の不貞を暴いてやる!そう躍起になった事もあった。でも、私にはあなた達の不貞の証拠を見つける事が出来ずに絶望したの。今日のパーティーが終わったら、正式に修道院に行きたいと父に申し入れるつもりでいたのよ」


「マーガレット、そこまでお前を追い詰めていただなんて、本当にすまなかった」


「本当にごめんなさい。マーガレットを追い込んだのは、私達にも責任があるわ」


修道院という言葉が出た瞬間、再びお父様が頭を下げて来た。お母様は泣いていた。私、両親をもこんなに傷つけてしまったのね。


「お父様もお母様も、もう私に謝らないで。ローイン様のお陰で、真実が全て明るみに出たのだから。私は、ローイン様が与えて下さったこのチャンスを、決して無駄にはしない。マリン、あなたは私が皆から無視され、暴言を吐かれているのを嬉しそうに見ていたわよね。何度も何度も、ニヤニヤとこちらを見ている姿、今でも目に焼き付いているわ」


「そんな、私は…」


「もうあなたの涙には騙されないわ。私は絶対にマリンを許さない。それでまた周りから“非道な女だ”と非難されたとしても、もう気にしない。それだけの事を、あなたは私にしたのだから。マリン、私はあなたを訴えます。カスタヌーン伯爵家には、正式に抗議文と共に、慰謝料も請求するつもりです」


そう宣言した。この1ヶ月、本当に辛かったのだ。だからこそ、私を地獄の底に突き落とした、マリンを許すことはできない。


「そんな…この鬼、悪魔!今まで仲良くしてやったのに」


「私が鬼で悪魔なら、あなたは鬼畜よ!私と仲良しの振りをして、陰で私の婚約者に手を出してあざ笑っていたのだから!その上、貴族学院での私の居場所まで奪って。今回の件で、私がどれほど傷ついたか!あなたにはきちんと罪を償ってもらうわ」


涙が次から次へと溢れ出す。


「そんな…マーガレット…嫌よ。あなたに訴えられたら私、犯罪者収容施設に入れられるわ…お願い、助けて…私はただ、ちょっと火遊びをしただけなのに…ローイン様とも婚約破棄をされたし…私が一体どんな悪い事をしたと言うの?酷すぎるわ」


「酷すぎるのはどっちだい?マリン、まだ自分のやったことが理解できないのかい?君のせいで、今日沢山の貴族が、婚約破棄をする羽目になった。こんな事、前代未聞だ。君は稀に見る悪女だ!」


大きな声で叫んだのは、ローイン様だ。

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