第13話 パーティーが始まります

しばらく進むと、グランディス侯爵家の前で馬車が停まった。久しぶりに来たグランディス侯爵家。最後に来たのは、ローイン様の8歳の誕生日の時だったわね。あの時一度だけ、ローイン様とお話ししたのだったわ。


美しいオッドアイの瞳を見て、つい話しかけてしまったのだ。今思うと、自分よりも身分の高いローイン様に話しかけるだなんて、恐れ多い事をしたわね。


今は思い出に浸っている場合ではない。一体どんな話をでっち上げられるのだろう、正直不安でしかないが、とにかく行くしかない。両親と共に、今日の会場でもある中庭へと向かった。


周りを見渡すと、なぜか家のクラスの令嬢や令息たちが沢山来ていた。ただ、見た感じ皆侯爵以下の貴族たちばかりだ。一体どういう事だろう、グランディス侯爵家程身分の高い貴族なら、公爵家や下手をすると王族の方たちなど身分の高い人たちが中心に参加していてもいいくらいなのに。


それでも公爵家の人間も数人、さらに第三王子も来ている。確かローイン様と第三王子のノエル殿下は、仲の良い親友だったわね。改めてローイン様って身分の高い人だと実感した。そんな身分の高い人を敵に回したら、我が家はあっさりと潰されないかしら?


そんな不安が私を襲う。その時だった。


「マーガレット、パーティーに来ていたのだね。今日はさすがに来ないかと思っていたのだが。エスコートできなくてごめんね。侯爵家から今日は、家族で来る様にとのお達しがあって」


私達の元にやって来たのは、ジェファーソン様だ。


「あれ?今日のドレス、青色なんだね。君のメイドは何を考えているのだい?僕の瞳の色に合わせた緑色のドレスを着せないだなんて」


一気にジェファーソン様が不機嫌そうな顔になった。どうして私が、浮気者のあなたの瞳の色のドレスを着ないといけないのよ!そう言いたいが、もちろんそんな事は言えない。ただ、リリアンをバカにされた事は、我慢できないわ。


「ジェファーソン様、このドレスは…」


「ジェファーソン殿、実はマーガレットのドレスも侯爵家から贈られたもので。ぜひこのドレスを着て欲しいとの事だったのです。どうして侯爵家がここまでなさるのか、私共にも分からなくて…」


お父様が困惑顔でそう呟いたのだ。


「いくら侯爵家でも、婚約者のいる令嬢にドレスを贈り、それを着ろだなんて。少し横暴すぎではないのかい?ただ、抗議なんて恐れ多い事は出来ないがな」


近くで聞いていたジェファーソン様のお父様がそう呟いた。確かに伯爵家の人間が、侯爵家に意見するだなんて命知らずな事は出来ないだろう。それにしてもこのドレス、侯爵家から贈られたものだっただなんて、知らなかったわ。


「まさか別の家から贈られたドレスだなんて。このパーティーが終わったら、すぐに脱いでくれ。そうだ、今から僕が手配したドレスを、執事に持ってこさせよう。すぐに手配を」


「ジェファーソン、落ち着きなさい。何の意図があってマーガレットちゃんにドレスが贈られたのかは分からないけれど、穏便に済ませるためにも、このドレスは着ておくべきだわ。それに周りをよく見て。何人かの令嬢は、婚約者の瞳の色ではなく、自分の瞳の色のドレスを着ているわ。きっとマーガレットちゃん以外にも、ドレスを贈られた令嬢がいるのよ」


確かにジェファーソン様のお母様がおっしゃった通り、私と同じように、婚約者がいるにも関わらず、自分の瞳の色のドレスを着ている令嬢たちが複数いた。そのほとんどが、同じクラスの令嬢たちだ。


と、次の瞬間、クラスの令嬢と目があったのだ。きっと睨まれるわ。そう思ったのだが、なぜかこちらに向かって歩き始めたのだ。まさか両親のいる前で暴言を吐きに来るのかしら?


その時だった。ローイン様及び、グランディス侯爵と夫人が入場してきたのだ。一斉に皆が侯爵家の方たちの方を注目する。



ふとマリンの姿が目に飛び込んできた。私の方をちらりと見ると、ニヤリと笑ったのだ。やっぱりマリンは、何か企んでいるのだわ…


そう思ったら、血の気が引いた。それでももう逃げる事は出来ない。腹をくくるしかないのだ。


「本日は我が息子、ローインの為にお集まりいただき、ありがとうございます。本日で息子も17歳になりました。この歳で誕生日パーティーだなんてと、思う方もいらっしゃるかもしれません。ですが、今日はどうしても息子から発表したい事があるとの事で、この様な場儲けさせていただいた次第になります。詳しくは息子から」


グランディス侯爵の話が終わると、ローイン様が一歩前に出た。その瞬間、バッチリと目があった。すると、なぜかにっこりとほほ笑んだのだ。


一体どういうつもりなのかしら…

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