第2話 信じていたのに…

無我夢中で走る。ただ、あまりにも衝撃的な姿に、途中で気持ち悪くなってその場に座り込んでしまう。


ダメだ、吐きそう…


その時だった。


「待ってくれ、マーガレット!」


後ろからやって来たのは、ジェファーソン様だ。その姿を見た瞬間、吐いてしまった。


「大丈夫かい?マーガレット、体調が悪かったのかい?」


ジェファーソン様が私に触れた瞬間、体中を嫌悪感が襲う。


「いや…触らないで!」


とっさにジェファーソン様の手を振り払った。さっきまでマリンに触れていた手で、私に触れないで。


「マーガレット、さっきのは違うんだ。僕は…」


「何が違うのですか?この国では、婚姻前にそういった行為をする事はタブーとされております。ましてや婚約者以外の異性とその様な事をするだなんて。これは立派な婚約破棄理由になりますわ」


我が国では、男女ともに結婚までそういった行為を行う事をタブーとされている。そして婚約者以外の異性と関係を持った場合は、正当な婚約破棄理由になるのだ。そもそも他の異性と婚姻前に関係を持つだなんて、汚らわしい事この上ないわ。


「マリン、あなたも見損なったわ。まさか私の婚約者に手を出していただなんて。2人して私をバカにしていたの?それにあなたには、立派な婚約者がいるじゃない。こんな事がローイン様にバレたら、あなただってただじゃすまないのよ!」


近くにいたマリンに向かって怒りをぶつけた。親友だと思っていたのに、こんな形で裏切られていただなんて!


悔しくて涙が込みあげてくる。ただ、なぜかマリンがニヤリと笑った。


「一体あなたは何を言っているの?私とジェファーソン様が男女の仲だなんて、言いがかりはよして頂戴」


「あなた、何を言っているの?さっき2人が抱き合って何度もその…口づけ…をしていたじゃない。それにマリンの服ははだけていたわ!たとえ行為に及んでいなくても、立派な不貞行為よ!」


「ギャーギャーうるさいわね。それじゃあ、私たちが抱き合って口づけをしていたという証拠はあるの?もちろん、あるのよね。我が国では、証拠が全てなの。あなたがいくら、私とジェファーソン様が抱き合って口づけをしていたと騒いだところで、意味がないのよ。本当に、バカな女ね」


そう言ってマリンが笑っている。確かにこの国では、証拠が全てだ。いくら私が2人が抱き合っていたと訴えたところで、証拠となる映像などがないと認められない。


悔しくて唇をかむ。


「そもそもあなた、ジェファーソン様と口づけすらしていなかったそうじゃない。だから私が教えてあげただけよ。ちょっと口づけしたくらいで、ギャーギャー騒いで。本当におバカな女」


どうして私がそこまで言われないといけないのよ。


「悔しかったら私の様に、魅力的な女になったら?そうすれば、ジェファーソン様も私を求める事はなかったのに。とにかく、変な言いがかりをつけるのはよして頂戴」


「マリン…あなたって人は…」


こんな女を私はずっと親友と思っていただなんて…きっと2人で、私をあざ笑っていたのだわ。そうとも知らずに私は…


次から次へと涙が溢れ出す。


その時だった。


「随分と賑やかだね?おや、マーガレット嬢、涙を流してどうしたのだい?」


私達の前にやって来たのは、何とマリンの婚約者のローイン様だ。我が国では珍しいオッドアイの持ち主で、右目はエメラルドグリーン、左目は青色をしている。


「ローイン様、聞いて下さい。マーガレットが酷いのです。ジェファーソン様の相談に少し乗っていただけで、浮気者だのふしだらだの汚らわしいだの言ってきて。私はただ、親友でもあるマーガレットが少しでも幸せになれる様に動いていただけなのに…」


何を思ったのか、ローイン様に涙を流しながら全くの出鱈目を訴えるマリン。あまりの変わりように、私の涙は一気に止まった。


「相談に乗っていたねぇ。とにかく今日は遅いから、もう帰ろう。マーガレット嬢、体調が悪そうだけれど、大丈夫かい?とにかく、皆で馬車に向かおう」


ローイン様に促され、そのまま4人で校門を目指す。相変わらず綺麗な瞳ね…


初めてローイン様にお会いした時、あまりにも美しい瞳に、つい興奮して声を掛けたのだったわ。懐かしい…そんな思いでローイン様を見つめると、ふと目が合った。


いけない、きっとじろじろ見て変な女だと思ったわよね。彼は私達より身分の高い、侯爵令息だ。無礼があっては大変。そんな思いで、視線をそらした。


何とも気まずい雰囲気のまま馬車までやって来た。


「それでは私はこれで失礼いたします」


正直マリンやジェファーソン様と1秒だって一緒にいたくない。そんな思いから、急いで馬車に乗り込もうとしたのだが…

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