勇者と魔王が最強タッグを組みました!

ねこしぐれ

第一章 旅立ち

出会い

第1話 勇者との出会い

「やっ!」

 杖を一振りすると、どこからともなく現れた水が、まるっとした体の、小さな黒い羽の生えた魔物に降りかかった。

 桃色に近い紫色の煙を出しながら、魔物は姿を消す。

 これで、五体目か……。

 ほうっと息をついて、空を見上げる。

 鉛色の分厚い雲が、太陽の光をさえぎっている。

 どんよりと薄暗いためか、魔物たちの動きもゆったりしていた。

 そのおかげで、いつもよりも魔物を倒しやすい。

 魔物の仲間が来ないのを確認したあと、ふたたび歩き出した。

 あいつら、仲間がやられたら、すぐに飛んでくるからな……。

「あとちょっとで、大人の国につくな」

 オレの目的地は、大人が住む「大人の国」だ。

 老若男女さまざまな人がいる。

 いないのは子どもだけ。

「初めての大人の国、緊張するな……」

 子どもは大人の国で生まれるけれど、離乳食が食べられるようになると「子どもの国」に送られるそうだ。

 オレも大人の国で生まれたんだろう。

 だから大人の国には、お父さんやお母さんがいるかもしれない。

 小さいころは、お父さん・お母さんって存在を知らなかったから、なんとも思わなかった。

 でも本を読んだときに、子どもには親がいることを知った。

 それなら、オレにもきっといる。

 一度でいいから、お父さんとお母さんに会ってみたい。

 大人の国を目指しているのは、そういう理由だ。

「キィーッ!!」

「うわっ!?」

 うるさっ!

 背後から聞こえてきた耳ざわりな鳴き声に、耳をおさえてしゃがみこんだ。

 この鳴き声は、さっき倒した魔物と同じだ!

 もしかして、仲間がかけつけたのか!?

 振り返ると、そいつが突進してくるところだった。

 頭にある一本角は、人に向けると簡単に凶器になる。

 それをグルグル体ごと回転してドリルのようにしながら、こっちに向かってくる。

 よけられない……!

「ハァッ!」

「キッ」

 恐怖に固まっているところへ、金色に光り輝く剣を手にした青年が走ってきた。

 タンッと軽い足音を立てて空へ飛び上がると、魔物との距離を一気につめて切りつけた。

 魔物は力ない声を上げると、煙となって消えていった。

 青年はそれを見送ると、剣を一振りした。

 すると、金色に輝いていた剣は、跡形もなく消えてしまった。

 残ったのは、彼が手に持っている柄だけだ。

 彼は剣をさやにおさめるように、柄をしまった。

「大丈夫か?」

「は、はい!」

 すっごくカッコいい。

 あっという間に倒しちゃった。

 オレより頭一つ分背の高い彼は、金髪で琥珀色の瞳をしている。

 首には青いマフラーを巻いていて、上下の服を見ると冒険者ってかんじがする。

「見たところ、君は魔法使いだな」

「はい!」

「その三角帽子もローブも、似合ってるぞ」

「ありがとうございます。……あなたは、一体……?」

「ああ、自己紹介がまだだったな」

 彼は、意思の強そうな目で、オレを見つめた。

 意識を吸いこまれてしまいそうな、そんな引力がある。

「俺は勇者のユーセイだ。よろしく頼むぞ、少年」

 ゆ、勇者!?

 本当にいるんだ……!

 この世界に伝わると言われている、ある一つの伝説。

 魔王が生まれし時、勇者が現れる――。

 誰もが知っている、不思議な話だ。

「君の名前は?」

 勇者さまは首を傾げた。

 そうだ、自己紹介がまだだった。

「オレは、ホマレです。大人の国を目指しています」

「ホマレか。いい名前だ。俺もこれから大人の国に行くんだが、一緒に来ないか?」

 へ? それって、勇者さまからのお誘いってこと?

 そんなの、ついていくしかないでしょ!

「はい!」

 オレは、元気よく返事をした。

 勇者さまは嬉しそうに笑顔になると、大人の国への道を進み始めた。

 オレは、それについていく。

 勇者さまは背が高いから、歩幅も大きい。

「ホマレは、なぜ大人の国へ行くんだ?」

 前を歩く勇者さまが、オレを振り返った。

「両親に会うためです。オレは子どもの国から来たんですけど……そこには、大人がいなくて。親という存在を知ったのも、数年前に本を読んだからなんです」

「本を読んで数年間、お前は何をしていたんだ?」

「国を出て旅ができる年齢になるまで、旅の資金をコツコツ貯めていました。あとは魔法の練習をしたり、魔物についての勉強をしたり」

「真面目なんだな」

 勇者さまはほほ笑むと、また正面を向いた。

「ほら、そろそろだ」

「わあ……!」

 感嘆の声が溢れ出る。

 そこは、初めて見る景色だった。

 一番大きな建物は、もちろん城だ。

 青を基調とした、The・お城といったかんじの姿をしている。

 オレたちが着いたのは、城下町らしい。

 石造りの家が多い印象だ。

「すっげー! めちゃくちゃ人がいる!」

 オレが見たことがある大人は、お爺さんやお婆さんだ。

 白髪で、顔は深くシワが刻まれていて、手は骨と皮しかないのかと思うほどゴツゴツしていて、しわがれている。

 今、オレの視界で動いているのは、そんな人間ではなかった。

 様々な髪色で、肌にはハリがある。

 身体のどこも、しわがれていない。

「若い人が多いな」

「若い?」

 勇者さまの独り言に、オレは首を傾げた。

 すると勇者さまは、オレの肩に手を置く。

「ほら、よく見てみろ」

 言われたとおり、オレは人々を観察する。

 ある人は、ピチピチという表現がピッタリだ。

 この大勢の中で、最も多い年ごろらしい。

 ある人は、顔にシワやシミが出始めたころのように見える。

 ある人は、オレが知っている大人の姿だ。

「初めて見ました! あんな、お爺さんやお婆さんらしくない人!」

「ハハハ、俺もだよ」

「勇者さまも? へえ……オレたち、おんなじですね」

「そうだな。同じだ」

 勇者さまは、朗らかにほほ笑む。

 オレも、つられて笑ってしまう。

「よーし、これから困っている人を捜しに行くぞ」

「困っている人を?」

「ああ! 俺が生を受けたのは、困っている人を助けるためだ!」

「か、カッケー……!」

 勇者さま、めちゃくちゃカッコイイ。

 ものすごいドヤ顔だけど、それすら格好よく見える。

「オレ、ついていきます!」

「おう! 一緒に行こうな!」

 勇者さまは、オレの背中をバシッと叩いた。

 そして、先頭を切って、歩みを進め始めた。


 ☆


 世界の最北端にある国――魔物の国。

 空は暗雲が立ち込め、時おり赤や紫の光がほとばしる。

 住民は、みんな魔物だ。

 そんな国にある真っ黒い城に、魔王がいた。

 水晶玉を覗き込んで、頬杖をついている。

「ふぅ〜ん……。勇者が仲間を見つけたか……」

 魔王は手元の水晶玉で、日々、勇者の動きを監視していた。

 勇者が、この世に現れた日から。

「これは、面白くなりそうだ」

 そして魔王は、一人、高らかに笑い声を上げたのだった。

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