勇者と魔王が最強タッグを組みました!
ねこしぐれ
第一章 旅立ち
出会い
第1話 勇者との出会い(2025/01/07改稿)
「やっ!」
自分の身長より少し小さいくらいの杖を一振りすると、どこからともなく現れた水がまるっとした体の小さな黒い羽が生えた魔物に降りかかった。
桃色に近い紫色の煙を出しながら魔物は姿を消す。
「これで五体目か……」
ほうっと息をついて空を見上げる。
鉛色の分厚い雲が太陽の光をさえぎっている。
どんよりと薄暗いためか、魔物たちの動きもゆったりしていた。
そのおかげで、いつもよりも魔物を倒しやすい。
魔物の仲間が来ないのを確認したあと再び歩き出した。
あいつら、仲間がやられたらすぐに飛んでくるからな……。
今回は大丈夫そう!
「あとちょっとで大人の国につくな」
オレ――ホマレは、つい最近旅に出たばかり。
青みがかった黒色の三角帽子とローブを身に着けている、見た目も能力もれっきとした魔法使いだ。
目的地は大人が住む「大人の国」。
老若男女さまざまな人がいる。
いないのは子どもだけ。
「初めての大人の国、緊張するな……」
子どもは「大人の国」で生まれるけれど、離乳食が食べられるようになると「子どもの国」に送られるそうだ。
オレも大人の国で生まれたのだろう。
だから大人の国には、お父さんやお母さんがいるかもしれない。
小さいころはお父さん・お母さんって存在を知らなかったから、なんとも思わなかったけど、ある本を読んだときに子どもには親がいることを知った。
オレにもきっといるはず。
一度でいいから、お父さんとお母さんに会ってみたい。
大人の国を目指しているのは、そういう理由だ。
「キィーッ!!」
「うわっ!?」
うるさっ!
背後から聞こえてきた耳ざわりな鳴き声に、耳をおさえてしゃがみこんだ。
この鳴き声は、さっき倒した魔物と同じだ!
もしかして仲間がかけつけたのか!?
振り返ると、そいつが突進してくるところだった。
頭にある一本角は、人に向けると簡単に凶器になる。
それをグルグルと体ごと回転してドリルのようにしながら、こっちに向かってくる。
まばたきすると瞬間移動したように距離が縮まっている。
速すぎて避けられない……!
「ハァッ!」
「キッ」
恐怖に固まっているところへ、金色に光り輝く剣を手にした青年が走ってきた。
タンッと軽い足音を立てて空へ飛び上がると、魔物との距離を一気につめて切りつける。
魔物は力ない声を上げると煙となって消えていった。
青年はそれを見送ると、剣を軽く一振りした。
すると金色に輝いていた剣は跡形もなく消えてしまった。
残ったのは彼が手に持っている柄だけだ。
彼は剣をさやにおさめるように柄をしまった。
「大丈夫か?」
「は、はい!」
すっごくカッコいい。
あっという間に倒しちゃった。
オレより頭一つ分背の高い彼は、金髪で琥珀色の瞳をしている。
首には青いマフラーを巻いていて、上下の服を見ると冒険者って感じがするけれど……まとうオーラが普通じゃない気がする。
「見たところ、君は魔法使いだな」
「はい!」
「その三角帽子もローブも似合ってるぞ」
いきなり見た目から褒められた。
初対面の相手にここまでフレンドリーに話せるとは……ただ者じゃない。
「ありがとうございます。あの、あなたは一体……?」
「ああ、自己紹介がまだだったな」
彼は意思の強そうな目でオレを見つめた。
意識を吸いこまれてしまいそうな、そんな引力がある。
「俺は勇者のユーセイだ。よろしく頼むぞ、少年」
ゆ、勇者!?
本当にいるんだ……!
な、なるほど。それなら不思議なオーラにも説明がつくかもしれない。
この世界に伝わる、ある一つの伝説。
魔王が生まれし時、勇者が現れる――。
誰もが知っている不思議な話だ。
「君の名前は?」
勇者さまは首をかしげた。
そうだ。自己紹介がまだだった。
「オレはホマレです。大人の国を目指しています」
「ホマレか。いい名前だ。俺もこれから大人の国に行くんだが、一緒に来ないか?」
へ? それって、勇者さまからのお誘いってこと?
そんなの、ついていくしかないでしょ!
「はい!」
オレは元気よく返事をした。
勇者さまは嬉しそうに笑顔になると、大人の国への道を進み始めた。
オレは一歩遅れてついていく。
勇者さまは背が高いから、歩幅も大きい。
「ホマレは、なぜ大人の国へ行くんだ?」
前を歩く勇者さまが、オレを振り返った。
「両親に会うためです。オレは子どもの国から来たんですけど……そこには、お爺さんやお婆さん以外の大人がいなくて。親という存在を知ったのも、数年前に本を読んだからなんです」
「本を読んで数年間、お前は何をしていたんだ?」
「国を出て旅ができる年齢になるまで、旅の資金をコツコツ貯めていました。あとは魔法の練習をしたり、魔物についての勉強をしたり」
「真面目なんだな」
勇者さまはほほ笑むと、また正面を向いた。
「ほら、そろそろだ」
「わあ……!」
感嘆の声が溢れ出る。
そこは初めて見る景色だった。
一番大きな建物はもちろん城だ。
青を基調とした、ザ・お城といった姿をしている。
オレたちが着いたのは城下町らしい。
石造りの家が多い印象だ。
「すっげー! めちゃくちゃ人がいる!」
オレが見たことがある大人は、お爺さんやお婆さんだ。
白髪で顔は深くシワが刻まれており、手は骨と皮しかないのかと思うほどゴツゴツしていて、しわがれている。
今オレの視界で動いているのは、そのような人間ではなかった。
様々な髪色で肌にはハリがある。
身体のどこもしわがれていない。
お爺さんより子どもに近い。
「若い人が多いな」
「若い?」
勇者さまの独り言に首をかしげた。
すると勇者さまはオレの肩に手を置く。
「ほら、よく見てみろ」
言われたとおり、オレは人々を観察する。
ある人は、ピチピチという表現がピッタリだ。
この大勢の中で最も多い年頃らしい。
ある人は顔にシワやシミが出始めたころのように見える。
ある人はオレが知っている大人の姿だ。
「初めて見ました! あんな、お爺さんやお婆さんらしくない人!」
「ハハハ、俺もだよ」
「勇者さまも? へえ……オレたち、おんなじですね」
「そうだな。同じだ」
勇者さまは朗らかにほほ笑む。
優しい笑顔につられて笑ってしまう。
「よーし、これから困っている人を捜しに行くぞ」
「困っている人を?」
「ああ! 俺が生を受けたのは、困っている人を助けるためだ!」
「か、カッケー……!」
勇者さま、めちゃくちゃカッコイイ。
ものすごいドヤ顔だけど、それすら格好よく見える。
「オレ、ついていきます!」
「おう! 一緒に行こうな!」
勇者さまはオレの背中をバシッと叩いた。
足を大きく踏み出して歩みを進めはじめたのだった。
☆
世界の最北端にある国――魔物の国。
空は暗雲が立ち込め、時折赤や紫の光がほとばしる。
住民はみんな魔物だ。
そんな国にある真っ黒い城に魔王がいた。
水晶玉を覗き込んで頬杖をついている。
「ふぅ〜ん……。勇者が仲間を見つけたか……」
魔王は手元の水晶玉で、日々、勇者の動きを監視していた。
勇者がこの世に現れた日から、毎日欠かさず。
「これは面白くなりそうだ」
そして魔王は一人、高らかに笑い声を上げたのだった。
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