じつは義妹と過ごすこんな毎日も悪くないなと思っていたりしまして……
海猫ほたる
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歌手や歌い手の人達がサビ終わりで歌詞にない歌を歌ったり叫んだりするのは、それが歌詞にできない感情だからだろう。
歌詞にはないけど、確かにそこに存在する、言葉にできない感情。
そんな物が、歌手や歌い手じゃない一般人の俺たちにもあるのかと考えると……ある。
むしろ最近の俺は、言葉にできない感情ばかりに苛まれている気がする。
俺の弟——最近出来た
その事に、俺は3週間もの間、気が付かなかった。
気が付かないまま、弟だと思って数々のスキンシップをしてしまっていた。
極め付けは、晶が妹だと気付くきっかけになったあの事件なんだが……ああ……思い出すと色々ヤバい……あれはもう、思い出したくない……
そう、俺はここ最近、色々な事がありすぎて、毎日言葉にならない感情に振り回されてっぱなしなんだ。
「兄貴、読み終わったから次貸して……て、何見てるの?」
親父と美由貴さんは仕事で遅くなると連絡があって、今、家には俺と晶の二人だ。
リビングで夜のバラエティ番組を何となく見ていると、晶が降りてきた。
手には、俺が貸した漫画本。どうやら読み終わったらしい。
「ああ、おしゃべりセブンティーだ」
有名な芸人さんが司会をしていて、毎回芸能界の有名どころをゲストに呼んで、司会者がゲストの面白い所を引き出して行くトークバラエティ番組だった。
ちょうど、ゲストが韓国の女性アイドルグループだった。
「へー、兄貴こう言うのが好みなんだ」
晶はそう言いながら、スッとおれの隣に座った。
持ってきた漫画は横に置いて、ソファの上に体操座りする晶。
漫画よりも、俺が見てるテレビの方に興味が移ったのだろう。
「いや、別にそんなに好きじゃない。ただ最近学校でも話題になってるし、気になってたから……」
「ふーん。兄貴もやっぱり男なんだ」
晶はソファの上に体操座りしたまま、俺の方にもたれかかってきた。
「やっぱりってなんだやっぱりって。て言うか俺は男だよ」
晶の身体が密着する。晶の体温が伝わってくる。晶の髪からいい匂いがして、俺の鼻口を
「兄貴は僕の事は弟だと思い込んでいたのにねー」
晶は俺の肩に頭を預ける様にもたれている。俺の思考はもう、テレビどころじゃない。頭がどうにかなりそうなのを必死でこらえる俺。
「うっ……いや、それは……悪かったって……あと……晶、少しくっつき過ぎ……じゃないか」
女の子と密着していると言う事を考えてしまうと、俺は理性を失ってしまいそうになる。
だから、俺は必死で違う事を考えようとしていた。
「えー、兄貴だよね。僕たちはきょうだいだから、もっと仲良くしたいって言ったのは」
晶はそんな俺の事はお構いなしに、ぐりぐりと背中を押しつけてくる。まあ、今回は背中で良かった。晶の事だから、別の所を押しつけてくる事だってあって、そうなったら本当に理性が砕け散りそうだ。
「そ、それはそうだが……まあ」
だが、それはそもそも、俺の所為なのだ。ここで晶から逃げる事もできなくはない。だけど、それはそれで俺が自分を許せない。
「あれは嘘だったの?兄貴、僕にあんな事をしたのに……ね」
イタズラっぽく笑う晶。だが、俺にとっては全然笑えない。何しろあんな事をしてしまったのは間違いなく、俺なのだ。
「いや、嘘じゃないぞ。晶と仲良くなりたいって思ったのは間違いないんだ……あ、あれはだな……本当に……すまない。
「いいって。僕はちょっと恥ずかしかったけど、でも嬉しかったよ……でも、やっぱり兄貴にあんな事されちゃったら、やっぱり責任……とってもらわないとねー」
晶はそう言ってくすくす笑う。晶の髪が揺れて俺の頬に触れる。晶の髪はさらさらしていて、気持ちがいい。
「ほんと、すまない……いや、マジで」
「ごめんごめん、冗談だよ兄貴。本気で謝らないでよ」
晶はさすがに言い過ぎたと思ったのか、俺にもたれかかっていた身体を戻して、背中を正して座り直した。
晶にもたれかかられていると気まずいのに、離れられると少し物寂しさを感じてしまう。
いつのまにかテレビのバラエティは終わっていた。
そのまま夜のドラマが始まった。
バラエティ終わりでCMを挟まずにドラマが始まるのは、視聴者を別のチャンネルに逃さないためなのだろう、ドラマの制作者も色々考えてるんだな。
俺は、なんとはなしにそのままドラマを見ていた。
このドラマは親父が美術を担当している物では無さそうだが、ついセットに目が行ってしまう。
いい感じのセットを見つけたら、今度、親父に教えてやろう……なんて思ってみていたら、いつのまにかセットに目が行く様になってしまったんだ。
だから……俺は……
つい……今も……
背景のセットばかりをみていた。
そう、俳優さんの方をあまり気にしていなかった。
だから、晶が俺の方をちらちらみていた事にも気が付かなかった。
そして、気がついた時には……チャンネルを変えるタイミングを逸していた。
「兄貴、兄貴もなんだかんだ言って、こう言うの好きなんだ……」
晶に言われて、はっとした。
ドラマの中では、男女の俳優さんがいるのは、部屋の中。
だから俺は部屋の中のセットに目が行っていたのだが、俳優さんがいたのは、部屋のベッドの上だった。
そう、ドラマはいきなり男女二人のラブシーンから始まったいたんだ。
その事に俺は、気がつくのが遅れていた。
「あ、晶、違うぞこれは……俺はセットを見ていたんだ!」
「ふーん……まあ、そう言う事にしてあげる」
隣の晶は、半目で俺を見つめている。
俺の言い訳を、言い訳としてはちょっと詰めが甘いな……くらいに受け止めている気がする。
「いや、本当だぞ!ほらあの時計とかセンスなかなか良いだろ……親父に教えてやろうと思ってな……」
「まあ、いいけど……僕は兄貴がこう言うの好きでも構わないし」
うっ……晶は完全に俺の事を誤解している……
しかも、言い訳すればするほど泥沼にハマって行く気がする……
目の前の俳優さんは、ベッドの上でキスを始めた。
もう今からチャンネル変えても手遅れだ……
早くこのベッドシーン終わってくれ……
「兄貴、僕らもキスしようか」
再び晶は俺の方にもたれかかってきた。
晶の甘い声で囁くキスと言う言葉に、俺は危うく理性を失いそうになる。
「しないから、そ、そろそろ親父も美由貴さんも帰ってくるし……」
「兄貴……わざとらしいよ」
「そ、そうだ!美由貴さんが帰って来るまでに、冷蔵庫の鶏肉に下味つけて野菜切っておこうぜ。きっと美由貴さん喜びんじゃないか?」
「兄貴……いつもはそんな事絶対しないでしょ……でも……まあ、それはそれでいいかもね」
「だろ、さ、やろうぜ」
俺はテレビを切って晶と夕飯の下ごしらえをする事にした。
ふう……なんとか、やり過ごせたな……
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