主人公を庇って死ぬだけのモブキャラ、生き延びてしまった上に、主人公が激重過保護ヤンデレになってしまった件について。
seeking🐶
第一章 プロローグ
第1話 庇いました
俺は俗に言う転生者というヤツだった。
俺の転生前は、どこにでもいる会社員だった。
ちょっとだけアニメが好きで、ちょっとだけ小説を読む。
そんなどこにでもいる人間だった。
そんな俺がある日突然、異世界に転生してしまった。
最初は異世界転生ものの物語のように、どんなチートスキルを持っているのかと期待したものだった。
しかし、俺のスキルは本当にゴミみたいなスキルで、俺の夢見ていたような異世界転生は叶うことのない夢だと察してしまった。
そう、俺は前世と同じく、ただのモブだった。
この世界での俺の名前はグレイグだ。
ただのモブでしかないであろうグレイグ。
しかし、そんな自分の名前に、少し聞き覚えがあった。
俺はグレイグというキャラクターを知っていた。
俺の転生前の世界には『勇者転生』というアニメがあった。
勇者転生は、異世界に転生した勇者がなんやかんやで魔王を倒すという、あまりにありふれた物語だった。
そんな異世界転生作品に少し飽き飽きしていた俺でも、主人公の可愛さに釣られ、最終話まで見入ってしまった記憶がある。
その勇者転生のアニメ最終話付近で、グレイグというキャラクターが登場した回がある。
グレイグは案の定、その回しか登場しない。
しかし、グレイグは俺にとって強烈なインパクトを残していった。
なんと、その回でグレイグは主人公を攻撃から庇って死んだのだ。
1回しか登場させて貰えなかった挙句、主人公への攻撃を庇いゴミのように死んでしまったのだ。
少しダークな世界観とはいえ、こんなにゴミみたいに殺されるキャラクターはあまり見たことがなかった。
俺は当たり前ながら、グレイグというあまりに不憫なキャラクターに同情した。
しかし、同時に、あんなに可愛い主人公を命を懸けて守れて嬉しいだろうなぁとも思ってしまった。
勇者転生の主人公はノアという名前で、長い金髪に赤い瞳が特徴的な少女だった。
ノアの容姿は俺のストライクゾーンにぶっ刺さり、おまけに性格は品行方正かつ清楚系聖人キャラという最高のものだった。
こんな可愛いくて強くて、世界を救う主人公ノアを守れたら、どれだけ嬉しいんだろうか。
前世の俺はそう考えていた。
その妄想は奇しくも叶ってしまった。
俺の転生した異世界は転生勇者の世界だったのだ。
そして、その世界の中で俺は、主人公を庇って死ぬモブのグレイグに転生してしまったのだ。
*****
深くて暗くて、ジメジメとした嫌な湿気を感じる。
まるで深海のようなダンジョンの最奥。
グレイグとノアを含めたダンジョン攻略隊は、ダンジョン最深部の66階層に突入していた。
この日だ。
この日、俺はノア様を庇って死ぬ。
もう20年近く、俺はこの世界で過ごしてきた。
第三者でしかないアニメ視聴者とは違い、俺は本当に住んでいる現地民になっていた。
俺にとって、そんな慣れ親しんだ世界を救うノア様は、神のような存在として意識に刷り込まれてしまった。
あの頃のように、ノア様を呼び捨てにするなんてことはできなかった。
そんな神のようなノア様を守れるとはいえ、この世界に居れなくなるのは少し寂しかった。
死にたくない。それは言うまでもない感情だった。
しかし、俺がここで死なないとノア様が死んでしまう。
ノア様が死ねば、世界は終わりを迎えてしまう。
魔王は倒されず、人類は絶滅させられてしまうだろう。
それに比べれば……俺が死ぬことなんて屁でもない。
俺が命を投げ捨て、代わりに命を救うのは最強美少女勇者のノア様である。
何も恐れることはない。
俺は息を吸い込み、視界の先の『敵』を睨む。
敵はダンジョンに住んでいる原住モンスター。
その平均ランクはAランクを優に超え、Sランク超えがゴロゴロいる。
そんな敵はダンジョン攻略隊を取り囲み、俺たちを逃がすまいとその強大な力を振るう。
俺がそんなモンスターたちの攻撃を一発でも喰らえば、即死は免れない。
そう、チャンスは一回しかないのだ。
無駄死にだけはダメなんだ。
ちゃんとノア様を守るんだ。
ノア様を庇うためにだけ、この命を使うんだ。
俺はじっとノア様の前に立ち塞がるSランクモンスターの攻撃を見極める。
このカニみたいなSランクモンスターが、原作通りならばグレイグを殺すはずのモンスターだ。
このカニの固有スキルである《透明化》を使われ、ノアは不意の一撃を受けるのだ。
その不可視の攻撃を庇うのが、グレイグだ。
どこだ? 透明化されてる部位はどこだ?
不自然に消えている脚の根元を探せ。
俺はカニの不自然に消えてる部位を必死に探す。
「あれだ!」
俺はカニの根元から消えている不自然な部位を見つけた。
そして、それとほぼ同時に、その根元が急に動きだしたのも見えてしまった。
「ここだ!!」
俺はそう叫びながら突っ走り、ノア様の目の前に飛び込んだ。
「え……?」
ノア様の唖然としたような声が聞こえてくる。
それと同じくして、カニの透明化攻撃が俺の腹に突き刺さった。
痛い。
そう感じる暇もなく、俺は意識を手放さざるを得なかった。
ああ、せめて最後くらいはノア様の顔を見て死にたかったな。
俺は最後の最後にそんなことを思ってしまった。
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