《声劇台本》愛浴

和泉 ルイ

【BL】愛欲

表記説明・役:紅(読み:ベニ) 藍(読み:アイ)

どちらもマッチョバーで働く店員。


SE:入店を知らせるベルの音/又はドアを開ける音

紅「いらっしゃいマッスル!!」

藍:という独特な声で招かれるのは大通りから少しそれた小路の脇。知る人ぞ知る…店である。

藍:これは、そんな店で働く男たちのある夜に起きた一コマである。


※場面変更

(盛大に酔っぱらってください)

藍「紅~開けてくれよぉ~」

紅:決して新しくないアパートの扉の前で聞きなれた男の声がする。

紅「ちょ、お前まーた一人で帰れなくなるくらい飲みやがったな?!」

藍「飲みたくなるくらい酷いことがあったって察しておくれよ~」

紅:…そんなこと言われなくても分かるけど。

藍「そんなことより中に入れてくれよぉ!いつもみたいに元気よく《いらっしゃいマッスル》って言って迎えてくれよぉ」

紅「言うわけないだろこんなところで!あれは店仕様だ!」

紅:何を馬鹿なことをと眉間にしわを寄せたものの、奴は俺の部屋のテーブルの上にある酒とつまみを見つけてにんまりと笑った。そして、

藍「おっじゃましまーす」

紅:と陽気に、勝手に玄関に入ってくる。


紅:これも、ある意味日常になりかけていた。


紅:特別酒に強いわけではないのに嫌なことがある度、俺の家を避難所扱いしては一晩ここで過ごしていく。そんな回数が増える度、俺の心情がどう変化しているのかも解ろうとしもしないで。

藍「でさあ、店長はいうわけ!君より(被せる様に次の台詞)

紅「新入りの方が人気が高い…とか?」

と缶ビールの最後の一口を呷りながら言えば

藍「そう!ったく酷いと思わねえ?最近こんなんばっか!同僚も俺より新入りの方に構いっぱなしだし!新入りには魅せ方がなってない、だとか、もっと色っぽくだとか!んなもん知らねえよお!俺には俺の接客があるんだよぉ…第一比較とか超失礼じゃんかよ!」

紅:それはそれは随分とご立腹のようで。呷る酒も止まらなければ愚痴も文句も止まらない。

紅「なんでそんなのばっか拾うわけ?もっといい奴いねぇの?」

紅:良い顔の新入りにすぐ心変わりしちゃうような同僚の恋人とか要らなくない?

藍「顔が好みの男がもれなく中身がク・ソなんだよ!うわん、つらいぃ…」

紅「ふーん、どんな顔が好みなの」

藍「目が大きくて、睫毛バサバサで、笑顔が可愛い男」

紅「俺みたいな?」

藍「確かに。お前も可愛い顔してんもんな!あぁ、どっかに居ねえかな、中身も良い俺好みの顔した、俺に引っかかる位のちょろいい男」

紅:酒が入り、血が巡り程よく熟れた頬。判断力と反射神経がほぼ欠如した、丁度いい獲物が目の前で胡坐をかいている。…今だ。

藍「うおっ?」

SE:缶が転がる音

紅:空になって潰した空き缶が転がる音がした。

藍「紅?」

紅:と俺を呼ぶ声が、微かに震えているような気もする。

紅「お前好みの顔した、お前に引っかかってやれるちょろいい男。ここに一人いるんだけどさ。試してみない?」

紅:藍の両腕を掴んで頭上へ。返事を待たずその口を塞ぐ。問いかけなんて建前だ。あれはゴーの合図でしかない。目の前の旨そうなこの獲物を大人しく我慢して再放牧出来るほど俺は健全ではない。口内に広がる、藍の飲んでいた甘ったるい酒の味に噎せそうだ。咳き込むほど唾液を流し込めばごくりと唾を飲み込む音が伝わる。

紅「いい表情。いつもそんな顔してんの?」

藍「待て、って!俺ら二人ともっ」

紅「二人とも、攻めだろって?いいじゃん、一回下経験しとけば…なんだっけ?いいお勉強になるかもよ。藍の一番気持ちいいトコ探そうね」

(数秒あけて)

紅「それで?色っぽさが足りないんだっけ?」

藍「知らねえ!」(一文字一文字力強く)

紅「こんなにとろっとろのいいお顔してんのになあ?」

藍「知らねえつったろ!」

紅「あとはなんだって?魅せ方なぁ」

紅:藍の耳元でそう囁けば

藍「びゃっ」

紅:と色気のない声が上がる。こういうのも可愛くて割と“良い”と思うのだが店の奴らは見る目がないらしい。

藍「おーりーろーよー!」

紅:とジタバタしながら生意気な目をしてこちらを睨んでくるわりに押しのけたりせず、その立ち位置に収まり続ける藍。

紅「なーんだ、できんじゃん」(呟き)

紅:案外簡単に“いい子ちゃん”も。


※場面変更

紅:窓から注ぐ月明かりが雨上がりの道を照らしている。

※ここから電話の会話※

SE:発信音

紅「ハーイ、もしもし御用は何かな藍くんや」

藍「なあ、今夜は?」

紅「なになに?もしかして!準備して待ってくれてる?」

藍「違っ!そんなわけないだろ。こっちにも予定ってもんがあるわけで…突然お前が来たら困るだろ」

紅「え〜よその男連れ込む予定?」

藍「んな!俺はお前みたいな事はしない!」

紅「俺みたいな事って?」

藍:あの夜のことを思い出してカッと頬に熱が集まった。

紅「藍?…まあ来てほしくないんなら行かないけど」

藍「き、来てほしくないわけではない」

紅「ふーん?まあ、今日は予定ないし会いに行ってあげる。ちゃんと準備しておりこうさんにしてるんだもんな」

藍:電話越しに楽しそうな笑い声がした。会いに、来てくれる。その声に心臓が大きくは跳ねて、電話前まで冷たかった筈の手足にとろりとした熱が広がってゆく。

藍「違う、これはまだ。」

藍:まだ“恋心”じゃない、絶対に。


※場面変更

藍「ねぇ、もっと」

藍:どこぞの女みたいなよくある台詞が口から零れた。紅はそんな俺の顔をじっくりと鑑賞して目を細める。嗚呼、この顔のいい男に抱かれて俺はもう…

紅「誰にどこを如何して欲しいのか、その小っちゃいお口で言ってみな」

藍「もっと、もっと俺を、愛してくれ。紅」

藍:俺はもうお前に溺れて独りでは浮上できないんだ。その柔い唇で俺への愛の言葉を、その瞳で俺を捕らえていつまでも放さないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

《声劇台本》愛浴 和泉 ルイ @rui0401

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ