《声劇台本》あなたの願いの見つけ方
和泉 ルイ
あなたの願いの見つけ方
男「きみの“願い”がいつかまた、僕の元に届きますように」
男:優しい色をした願いのランプを白み始めた空に手放す。何十何百という願いが明け方の空を埋めていく。
男「僕はきみの幸せを“願う”よ」
男:明けない夜がないように、叶わない願いなんない。僕がここに在る限り…。
※場面変更
男「今夜もひとつ」
男:窓の外から見える色のない花畑は今夜も温かな風に揺れている。
男「誰かの願いが、想いが叶ったね」
男:部屋の中、出窓に置かれた鈴蘭のランプをそっと撫でる。鈴蘭の花が一つ、ふわりと月色に灯った。丸くて白いドレスのような花弁から零れる雫を小瓶に詰める。
SE:雫が落ちる音
男「嗚呼、今夜もいい夜だ」
※場面変更
男「さあ、きみ達も」
男:毎晩鈴蘭のランプから採る願いの雫を、願いの花が咲くこの花畑に注いで周る。
男「温かくて優しい願いだね…」
男:誰かが誰かに向けた想いの結晶である願いの雫たちは、この花畑で成長する“願いの花”の大切な栄養で。
男「きみたちに逢える日を僕はずっと心待ちにしているんだよ」
男:小さな蕾すらない苗木に埋もれる様にしてしゃがみ込んで、つんっと葉をつついた。
女「あの…」
男:遠慮気味な声に振り返れば、そこには一人の見慣れぬ女性。
男「おや、どちらさまですか?」
女「…少し迷ってしまったようで」
男「大丈夫ですよ」
女「え?」
男「あなたの“願い”が見つかればまた元の世界へ帰れますから」
女「願い…?」
男:僕はしゃがんだまま、目の前の女性を見上げにっこりと笑う。
男「あなたが見失ってしまった願い事を僕と一緒に探しましょう?」
男:願いの日まであと二か月。
※場面変更
女「ここは何の花畑なんですか」
女:未だ蕾も付かない苗木に水をやる彼に私はそっと問いかけた。
男「これはね、願いの花なんだ」
女「願いの…花?」
女:願いの花と呼ばれた苗木の葉を愛おし気に撫でる彼はその手つきと同じ優しい声でこう続ける。
男「季節が巡る毎に願いを空へ還す願いの日に咲く花なんだ」
女「願いの日…」
男「その日の為にこの子たちを育て見守るのがこの花畑の管理者である僕の役目なんだ」
女「なんだか素敵なお仕事ですね」
男「ふふ、ありがとう。そう言って貰えると頑張っている甲斐があるなあ」
女:彼はそう照れくさそうに頭を掻きながら笑った。
女「今与えているのは何ですか?」
男「これはね、願いの雫さ」
女「雫?」
男「誰かの願いが一つ叶う毎に手に入るものでね、花の成長に欠かせないんだ」
女「ここで毎日されてるんですか」
男「そうだよ、毎晩毎日同じことを繰り返している」
女「…飽きませんか」
男「他の人から見ればつまらない仕事かもしれないけれど、僕にとってはとても楽しいものでね。誰かの願いの成就の喜びを知ることができるから」
女:いつか訪れる願いの日までに私が見失ってしまったという“願い”は見つかるのかな。
※場面変更
男「ほらおいで」
女「どこに行くんです?」
女:ある夜、出窓から見える花畑を眺めていたら急に彼が楽しそうに私を連れ出した。
男「ほら、ここだ」
女:温かな手に引かれて連れて来られた場所は願いの花が育つ花畑の一角。
男「もうすぐ蕾になるんだ。見てて」
女:彼が少し興奮気味に指さした苗木たちを見つめていれば、
女「あっ」
女:突然ぷくっと膨らみ、温かな光が魚のように宙を泳いでいく。
男「見ていて、これが誰かの願いに籠められた想いだ…」
女:宙を泳ぐ光は少しずつ大きくなり水鏡のように。そこに見知らぬ女性が映る。
願1「貴方の病が治りますように」
SE:シャランと水鏡が切り替わる音
願2「君の夢が叶いますように」
願3「貴女の恋が終わりませんように」
願4「大好きな貴方の隣にいれますように」
願5「原っぱを自由に駆けまわりたい!」
願6「来世も貴女の夫になれますように…」
SE:風が舞い込む音
男「これが願いの元、花たちの糧になる想いたち」
女:瞬く夜空に昇る幾つもの願いのかたち。大切な誰かに届けたい想いや自分の為の願い事。
男「分かるかい?願いはいつだって自由なんだ。きみの胸に灯る願いはどんなかたちかな」
女:夜空に昇る想いの結晶たちを映す瞳に捉えられた私の姿。私の…願いは…。
※場面変更
男「やあ、いらっしゃい」
女「こんばんは」
男:二か月前、この世界に迷い込んだ願い無き女性は僕と共に自身の願いのかたちを探しながら願いの花を育てている。
女「今夜の分の雫です」
男「ありがとう。すっかり雫採取も慣れたものだね」
男:雫が入った瓶を受け取りながら微笑みかける。彼女は少し照れたように長い髪を耳にかけた。
女「大分蕾も大きくなりましたね」
男「あと半月もすれば願いの日がやってくるからね」
男:毎晩温かな願いを摂取して大きく健康に育った苗木たち。今回の願いの日も無事迎えられそうだ。
男「きみの願いは見つかったかい?」
女「…はい」
男「それはどんな願いだい?」
男:彼女は髪の先を指で弄びながら、
女「まだ内緒です」
男:と恥ずかしそうに笑った。
※場面変更
女「貴方の願いはどんなものですか」
男:いつもと同じように花畑で作業中、彼女に尋ねられたー僕自身の願い、ごと。
男「またいつか、光が降るあの町であの子と出会いたい…かな」
女「あの、子…?」
男「僕のことをずっと待っていてくれる人がいるんだ」
男:僕は管理者に選ばれてしまったから、役目を終えるまではあの子の元へは帰れないけれど。
妻「いつまでも待ってるわ、貴方のこと…また二人で手を繋いで歩きましょう?」
男:そう光が降る夜に約束を交わしたから。
男「だから僕は同じ毎日が続くとしても、此処で一人で頑張れるんだ。今はきみがいてくれるけどね!」
男:なんだか急に照れくさくなって俯いて頭を掻いた。だから隣で作業をする彼女の顔が酷く悲しげなのも、その心に芽吹いた願いの芽が歪み始めている事にも気付けなかったんだ…。
※場面変更
男:願いの日まで残り二日。
男「そろそろ、きみの願いを聞かせてくれるかい」
男:今にも咲きそうな蕾に水と雫をやりながら彼女に問いかけた。
女「…」
男「どうしたんだい」
女「私の願いは。貴方の心に棲み着いて生き続けたい!」
男「え…?」
女「私という物語が貴方の中に棲み着いて生き続けたとしたら、貴方と共に生きてゆけるでしょう?!傍に居なくとも、その身朽ち果てるまで永遠に」
男「それは…どうして、きみの願いはそんな」
女「そんな?酷い!私の願いをそんなだなんて」
男「違う!きみの願いはもっと純粋で温かなものだったろう!?」
男:暖かで優しい、美しい願いだったのに。
女「私の願いは私だけのもの!貴方と共に生きたいの!」
男「どうして…」
男:どうして!僕が歪めてしまったの…か?
女「貴方さえいればいい。逢えない人なんて忘れて私と共に生きましょう?」
男:歪んでしまった願いは、摘み取るしか…ない。
男「…ごめんね」
男:その想いごと、僕が…。
※場面変更
男:一面に咲く半透明の白い花たちに囲まれて独り夜空を見上げる。
男「ごめんね、出会わない方が良かったなんて」
男:見上げた夜空を映した瞳から一筋の雫が頬を伝う。
男「さあ、お還り」
男:月色をした願いのランプを白み始めた空に手放す。
男「僕は願うよ」
男:きみがいつか掴んだ幸せが永遠に続きますように。
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